虎狼と剣狼(3)
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荒い息をしながらコロは剣狼を睨みつけた。身体の節々には大小の切り傷がついており、利き腕でないほうの片腕はダランと垂れ下がっている。おそらく肩が外れている、ズキズキと鈍い痛みを訴える痛みに耐えながらもコロは刀を構えた。
「お前、そんなに僕を殺したいのか。」
そう尋ねられた剣狼は一瞬だけ怪訝な顔をした後に凶悪そのものの笑みを浮かべた。
「ああ、殺したいね。お前は俺を見捨てたじゃねえか。」
「見捨てたわけじゃ……」
「仲間だと思ってたのによお。」
剣狼の言葉にコロは言葉を失う。思い当たる節があったのか、それ以上反論するのをやめたコロを見て剣狼はため息をついた。
「まあいいや。お前をとっとと殺したら次はお前の飼い主の番だ。」
「ふざけるな。」
「いろいろやりすぎたんだよ、お前らは。」
剣狼はそう言うと左腕で上段に構えた刀を右腕で刀の背を掴む異様な構えを取った。またあの技だ、コロは戦慄した。右腕で溜め込んだ力を斬撃の瞬間に放つことでまったく見えない速さと重さを持った振り下ろしの一撃を放っているのだ。まともに受ければただでは済まない。先ほどからも回避や受けを試みているのだが人外の速さからもたらされる一撃のために全く対処できていない。あげく肩が外れた。あの技が来る前にこちらから先制の一撃を放つしかない。そう覚悟を決めたコロは刀を収めて居合抜きの構えを取った。
「居合か。お前の得意技だったよな。いいぜ、勝負しようか。」
剣狼はそう言って凶悪な笑みを浮かべたまま大地を蹴った。同時にコロも疾走する。互いの間合いに入った瞬間、コロは刀を抜き放った。剣狼目がけて横薙ぎに放たれた斬撃に剣狼は一瞬で反応した。コロが反応できない速度での後ろへの後退。コロが目を見開く。だが抜き放たれた一刀を止めることができない。
「遅いぜ。」
剣狼はそう言うと無情にも刀をコロ目がけて振り下ろした。コロが死を覚悟した瞬間に一発の弾丸が放たれた。弾丸が眉間に命中すると同時に剣狼は頭を仰け反らせた。
「誰だ。」
激昂する剣狼に答えることなく、狙撃手は二発目の弾丸を淡々と装填すると同時に速射した。問答無用とはこのことだろう。剣狼の動きを阻害するかのごとく狙撃を行いながら狙撃手は叫ぶ。
「コロ、走れっ!」
狙撃手は少尉だった。さきほどまで酒を飲んでいたせいか、赤ら顔の半眼であったがそのぎらついた瞳だけは爛々と光っている。妨害を行ってきたのが自らの標的であることを剣狼は察知した。銃弾は衝撃を与えはするものの全く貫通していないようであった。
「嬉しいぜ。まさか自分からノコノコやってくるとはな。」
「誰かは知らんが化け物と同じ土俵で遊ぶ気はない。」
少尉はコロがその場から逃げるのを確認すると懐から手投げ弾を取り出した。そして安全弁を抜き放つと無造作に放り投げた。剣狼の足元に転がると同時に爆発と凄まじい閃光が放たれる。剣狼が視力を回復させた頃にはその場には二人の姿はなかった。




