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虎狼と剣狼(1)

久しぶりに昔の夢を見た。セピア色に彩られた景色の中で描かれていくのは本当にあった出来事だった。その日、総員突撃という愚かな命令を聞くしかなかった弧狼族は勇敢に戦い、勇敢に死んでいった。その中には僕の両親もいたし、世話になった大勢の仲間がいた。まだ幼かった僕にはその事実が認められずに自暴自棄になって軍の司令官を殺しにいこうとした。そしてあの人に会ったのだ。

「死にたいならば勝手に死ね。」

僕を殴り飛ばした後にあの人は言った。

「そういうのは犬死にというんだ。」

激昂して起き上がろうとした僕をもう一度突き飛ばした後に胸倉を掴みながらあの人は言った。

「だが貴様がしたいのは復讐をしたいのだろう。同胞の無念を晴らしたいのだろう。だったら私についてこい。貴様が思うよりも少しはましな復讐の道を指し示してやる。」

あの人はそう言って優しさの一欠けらも見せない表情で手を差し伸べてきた。今思えばその手は地獄からの勧誘だったに違いない。だが、握り返した手から伝わる体温は驚くほど暖かいものだった。




                 ◇




コロが目覚めた。周囲を見渡すと大いびきをかきながら少尉が寝ていた。布団をけ飛ばして熟睡している今の姿は普段のしっかりした軍人姿からは想像もできない。

「夢の中ではかっこよかったのに台無しだな。」

そういってコロは苦笑いした。傍若無人にして厚顔無恥。しかし時折見せる優しさに惹かれる人間は多い。自分もその一人だ。この人がいたからこそ今の自分があるのだ。そう思いながら少尉がけ飛ばしている布団をかぶせ直してあげた。



                  ◇



時間は一日前に遡る。

先の蛾の一件で避難民の親子を送り届けた少尉たち一行は帰り道の近くにあった街で宿を取ることにしていた。急ぎの命令がなかったこともあるが、わざわざ宿を取ったのには訳があった。街に新鮮な海鮮料理と温泉がある宿があったためだ。少尉はそれに気づくと早々に街にある軍直轄駅で「ちはや」を預けて乗員ともども二泊三日の休息を取ることを命じた。たびたび行われるこういった休暇を少尉たちの部隊では「命の洗濯」と呼んでいる。生き残ることができた自分達へのせめてものご褒美というわけだ。倒れるまで酒を飲むものや女遊びに走るものなど様々だが、その全てが次に生きるための糧になると少尉は考えている。いつも死と隣り合わせになる少尉たちの部隊にとっては必要なことだった。

「ここで休んでいいものなんですかね。」

「構わんさ。独立遊軍の特権だ。」

宿に向かう途中に疑問を口にしたコロの発言を少尉は一刀両断した。

「働きすぎるだけが能じゃない。たまには生きてる喜びを思い出さないとやってらないだろう。」

そう言う少尉の後ろにはぞろぞろと列車兵たちがついてくる。その姿は皆楽しそうだった。普段は列車内で留守番しているだけに適度な息抜きになっているようだ。

「お前はまじめすぎる、少しは奴を見習え。」

そういって顎をしゃくった少尉が指し示した先には土産物屋の前で目を輝かすリムリィの姿があった。

「おい、リムリィ、置いていくぞ。」

「あ、はい、すぐ行きます。」

少尉に言われてリムリィは慌てて一行の列に戻った。



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