表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/192

閑話休題 せめて優雅な食卓を(2)

目的のらうめん屋にたどり着いた少尉は満面の笑みを浮かべた。だが、店の扉の前にある貼り紙を眺めた後にこの世が終わったような悲しそうな表情になった。そこにはしばらく休業しますといった旨の内容が書かれていたからだ。

「なぜ閉まっている。なぜ休業しているのだ。」

どこにぶつければいいのか分からない怒りとやるせなさを心に抱えながら少尉は呟いた。どう声をかけていいのか分からずにコロとリムリィも困り果てていた。そんな三人に街の住人が通りかかって声をかけた。

「あんたがた、そんなところでどうなさったかね。」

「世の中の無常を噛みしめているところだ。」

ほんのり悔し涙を浮かべながら少尉は答えた。住人が少尉の言葉の意味を理解できずに首を傾げているのでコロが助け舟を出した。

「実はここのらうめんを食べに来たんですが。」

「ああ、この店かね。あの連中が来なければ今も店を開いていただろうに気の毒にな。」

「どういうことだ。」

怪訝な顔をして尋ねた少尉に男は説明しだした。なんでも最近この一角を暴力的な恐喝で買収しているやくざ者達がいるらしい。買収する範囲に入っていたらうめん屋の店主も恐喝にあったが持ち前の正義感から反発した。結果やくざ者達から袋叩きにされてしばらく歩けなくなるような怪我をさせられたそうである。

「官憲は何をしていたんだ。」

「ああ、この街の官憲は駄目だよ。」

大きな声では言えないがこの街の官憲はすでにやくざ者たちに買収されており、何かあっても泣き寝入りするしかないのだという。

「まったくふざけた話だな。」

少尉は話を聞きながら激しい憤りを覚えた。ここで断っておくが少尉が怒りを感じているのはやくざ者がまかり通っているからではない。つまらない諍いで自分の食欲が満たされなくなったからである。

「店の店主はどうしている。」

「さあねえ、自宅を兼ねていたから多分店の中にいると思うけど…。」

全てを聞き終わる前に少尉は店の引き戸を乱暴に開けた。店の中で椅子に座って新聞を読んでいた店主らしき男は突然の来訪者の姿にぎょっとなった。

「え、お客さんか。」

「なんだ、いるじゃないか。」

「申し訳ないんだけど見ての通りのありさまでね。しばらくは休みだよ。」

店主らしき男は申し訳なさそうに断りを入れた。見れば体のあちこちに包帯がまかれており、顔や手に痛々しい生傷が残っていた。松葉づえも付いているので片足も骨折しているのではなかろうか。

「君の具合は良くわかった。だがこちらも腹をすかせていてね。力づくでも言うことを聞いてもらおうか。」

そう言って少尉は懐から何かを取り出そうとした。それに気づいたコロが慌てて止めに入る。

「何を取り出す気ですか。」

「何って拳銃だが。」

何を当たり前のことを、そんな表情で答える少尉にコロは軽い眩暈を感じた。

「駄目です。軍人が一般人、しかもけが人を恐喝してどうするんですか。」

「どうするってらうめんを作ってもらうだけだが。」

根本的にずれている。どうすればこの人と会話が通じるのだろうか。コロは頭を抱えたくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ