決戦!!大空中要塞の攻防(16)【終】
意識を失っていた天龍王は跳ね起きた。同時にまずいと思った。どのくらい意識を失っていたのかは分からないが、まさか疲労で倒れるとは思っていなかったからだ。周囲の様子を見渡した天龍王は絶句した。すぐ側の大地が斜めにえぐれて浮遊大陸の下の虚空が剥き出しになっていたからだ。
一体何が起きたというのだ。何者かが行ったことだとすれば凄まじい力を持った存在としか言いようがない。仮に自分にこれができるか自問したが無理だった。いかに龍人族でもこれほどの破壊行為を行うことはできない。思案していた天龍王は空を見上げて仰天した。先ほどまで荒れ狂っていた暗雲が晴れて白い雲の間から暖かな日差しが差し込んでいたからだ。
「あたた、…どうしてたんだ、俺は。」
「剣狼っ!正気に戻ったのか。」
「あれ?天龍王様、なんであんたがここにいるんだよ。というか、王子さんはどこに…」
天龍王と同様に起きたはいいが事態を把握できない剣狼は周囲の様子を伺った。そして守ろうとしていた白龍子がすぐ側で寝かされていることに気づいて安堵した。そんな剣狼に天龍王が問いかける。
「なあ、剣狼。餓遮髑髏はどこに消えたんだ。」
「ああ、それなんだがな。」
天龍王に問いかけられた剣狼はあいまいになっている記憶をなんとか掘り出した。そして思い出した。自分もコロも魂だけの存在となって餓遮髑髏と戦ったのだ。大勢の仲間と共に。その中には剣狼が母と慕った女傑『紅虎』や旅順で死んだ仲間の姿もあった。そして彼らの魂を取りまとめて率いる男がいたことも思い出した。
「餓遮髑髏なら少尉のやつが倒したよ。」
「真一郎が奴を倒したというのか!?」
「というよりあいつが孤狼族の魂を率いたんだ。」
そこまで話していると側で眠っていたコロが跳ね起きた。コロは剣狼と天龍王の無事な姿を視認すると同時に安堵の溜息をついた。その姿に天龍王と剣狼が苦笑する。二人の姿を確認したコロは側に自らの主の姿がないことに気づいて立ち上がろうとした。だが、白虎化を使った反動で体中が吊ったように痙攣し始めて悶絶してのたうち回った。そんなコロの様子に苦笑しながらも剣狼は駆け寄って肩を貸した。
「あいたた、すまない、剣狼。」
「俺と互角にやり合った男が情けない姿をしてるんじゃねえよ。」
「あだだ、もっと優しく介抱してくれ、全身の筋肉が順番に吊っていくようなんだ。」
「知るかよ、無茶な技を使う方が悪いんだろうが。」
コロからして見れば剣狼を助けるために白虎化したというのにひどい話である。出来の悪い蛙の玩具のようになっているコロに苦笑しながら剣狼は彼を横たわらせてやった。
その時だった。剣狼達のいる地面から大きな振動が起こり始めた。同時に急速に下に落ちていく感覚を覚えて天龍王が青ざめる。
「…まずいな。堕龍頭を制御していた餓遮髑髏がいなくなったせいで地上に落下し始めている。」
「おい、まずいんじゃねえのか、それは。」
「ああ、かなりまずい。このままでは地上に墜落する。急いで堕龍頭の再制御を行う必要がある。」
冷や汗を流しながら天龍王は傍らで眠る白龍子を見つけて揺り動かした。ゆっくりと目を覚ました白龍子は懐かしい兄の顔を見て安堵した。
「あれ、兄様。どうしてここに。」
「白、話は後だ。一緒についてこい!」
話もそこそこに天龍王は白龍子を伴って制御搭のほうへ走っていった。剣狼はそれを眺めながら思った。こんな時に不謹慎だが似合いの兄弟だな。まるで自分とコロの幼い頃を思い出すようだ。心の中ではそう思いながらも照れくさくて口には出さなかった。
◆◇◆◇
天龍王と白龍子の協力によって堕龍頭は墜落の危機から逃れることができた。
こうして飛行要塞『堕龍頭』の浮上から幕を開けた護龍武士団の反乱事件は幕を閉じた。護龍武士団の一派は全滅。生き残ったのは娘の獅堂なつめただ一人であった。首謀者によって反乱の象徴に祀り上げられそうになった白龍子は責任を取って自害を願い出た。だが、天龍王はそれを許さなかった。白龍子が死ねば白龍子に従って獅堂なつめも自害する可能性があることを暗に察したからである。自害を認めない代わりに白龍子には自身の力の制御を学ばせるために獅堂なつめを伴って白金山での修行に行くように言い渡した。死ぬ覚悟があるのならば丁度いい。そう思ったからである。余談ではあるが、その場に居合わせたコロが王子達に生暖かい視線を向けていたことに気づいたものは少なかった。
堕龍頭は軍によって管理運営されることとなった。とはいっても半壊している兵器である。改修を行うにはかなりの時間を有する。近々に使えるわけではないというのが技術士官のこはねの見積もりである。ただ、堕龍頭が有している兵器や古代技術を兵器に転用できれば混虫との戦いももっと楽になるのではないか。そう技術部は認識している。
餓遮髑髏によって魂を奪われた全ての人間は元の生活に戻ることができた。こうして事態は収縮し、人々はただ一人を除いて元の生活に戻ることができた。




