決戦!!大空中要塞の攻防(15)
すぐに復元するはずの傷がいつまで経っても復元しないことに髑髏は驚愕した。髑髏には理由が分からなかったが、少尉にはその理由が分かっていた。傷口から吹き出た炎を燃やし続けることで髑髏の再生を阻害しているのだ。それが分からない髑髏の混乱は続く。自身の前にいるのは取るに足らない只の羽虫であったはずだ。そんな矮小な存在が死を超越したこの我を圧倒しているというのか。あり得ない、断じてあり得てはならない。
「どうした。人に恐怖を与えることには慣れていても恐怖を与えられることには慣れていないのか。」
そう言って無造作に一歩踏み込んだ少尉に反応して髑髏が一歩後ずさる。意識しての行動ではなく無意識の行動だった。完全に少尉の気迫に髑髏は飲まれていた。だが、それを認められるほど髑髏は自身に寛容ではなかった。自らの不甲斐なさに怒りを感じながらその身の力を全て解放した。
自身の体内に宿る魂の力をその身に纏う魔力へと還元していく。それだけでは飽き足らず、上空にある黒雲をもその口に凄まじい勢いで吸引していった。さしもの少尉も目を開けられないほど荒れ狂う暴風の中で髑髏の姿形が湾曲して変形していく。一回りも二回りも大きくなり、ついには見上げるほどの大きさへと変貌していった。それでも肥大化は止まらない。その時点で少尉は髑髏の失策に気づいていた。
止まらないのではなく止められないのだ。それが証拠に肥大しながら身悶え、もがき苦しんでいる。自分でも解放した力の凄まじさに飲まれて自我を失いつつあるのだ。肥大化をやめない髑髏を少尉は刀から発した熱線で切り裂こうと試みた。だが、膨大な肉の質量に弾かれて本体まで攻撃が届かない。熱を与えた少尉に怒りを感じながら髑髏はその腕を振り下ろした。巨大化した腕は少尉ごと搭の床を粉々に破壊した。少尉は回避する一瞬の間に白龍王と天龍王、そしてコロと剣狼を不可視の力で安全な場所まで瞬間移動させていた。
攻撃をかわされたことに怒り狂った髑髏は少尉目がけて口から怪光線を放った。紫の閃光は少尉のいる場所を容赦なく薙ぎ払った。大きく抉れた浮遊大陸の一部が浮力を失い、大地目がけて堕ちていった。
その威力の凄まじさに少尉は早期決着をつける必要があることを理解した。問題は奴に止めを刺すための貫通力のある力のイメージを構成する必要がある。あの闇の衣を突破して髑髏を貫くもの。それをイメージさせながら孤狼族達から借りた霊力を練り上げていくとやがて一つの形が構成された。
それは光でできた戦闘列車であった。よりにもよってこんな時に列車かよ。自身の想像力のなさに呆れながらも少尉は列車を髑髏目がけて放って貫くイメージ構成を行った。瞬間、汽笛を鳴らしながら列車が凄まじい勢いで空を走る。弾丸を越えた光の速さで列車は髑髏に迫った。
「貫けえええっ――!!!!」
髑髏はとっさに構えた両の掌で列車の侵入を阻もうとした。だが、列車はその勢いを全く止めないままに髑髏の掌を貫通した。髑髏が痛みの叫びを上げる間もなく列車は敵の身体を貫きながら突き進んでいく。そのまま、列車は髑髏の核となる水晶髑髏の元までたどり着くと粉々に粉砕した。
その瞬間、髑髏の口からこの世のものとは思えない絶叫が放たれた。断末魔の叫びをあげる髑髏の背から貫き出た光の列車はそのまま光の粒子となって空に消えた。直後、髑髏は凄まじい絶叫を上げたまま爆散した。爆炎の中で髑髏の体内に捕らえられていた全ての魂が戻るべき体に向けて飛び去っていった。
全てが終わったことを悟った少尉は光を放つ戦闘形態から元の姿に戻った。そのとたんに凄まじい疲労を感じてその場に倒れ伏せた。自由となった孤狼族の英霊達はそんな少尉の元に集まると意識を失って健やかな寝息をたてる救い主を優しく見守った。少尉のおかげで彼らは地獄の苦しみから解放されたのだ。




