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決戦!!大空中要塞の攻防(12)

手にした炎の刀を振りかざしながら少尉は悪鬼羅刹のごとき表情で切り掛かった。その身のこなしは普段の狙撃手としての動きではない。純粋な剣士としての動きであった。

元々、少尉の戦闘スタイルは白兵戦を得手としている。剣士としての資質はコロや剣狼に迫るものがあるのだ。だが、獲物に銃を使うのには理由があった。自らの指揮によって孤狼族の仲間達を死なせてしまった過去があったために自らに戒めを課したのだ。余程の事がない限り、最前線では刀を振り回さずに後方から冷静に戦場全体を見据えることを。それは戒めというよりはむしろ呪縛であった。だが、孤斬の力が解放された今、少尉はその力を十二分に発揮しながら敵へ向かう。そんな少尉の耳元で何者かが語り掛ける。


『敵を…恐れる…な。恐れは…切っ先を…鈍らせる。』


吃音のような声に少尉の口元がにやけた。懐かしい声だ。その声のせいで誰よりも気持ちを伝えることが不器用でありながら、常に優しく自分を見守ってくれていた存在。


「わかっているさ、孤斬。」


そう囁きながら少尉は刀を真一文字に薙ぎ払った。だが、それは髑髏の間合いに届いてはいなかったために髑髏は受けも避けもしなかった。だが、次の瞬間に髑髏の胸元が大きく切り裂かれて切り口から炎が吹き上げた。何が起こったのか分からずに驚愕する髑髏に少尉は不敵な笑みを浮かべた。


「どうした。ひょっとして切っ先が見切れなかったか。」

疑問(いったいなにをした)。」

「簡単に手品の種明かしをする馬鹿がいると思うのか。」


敢えて答えずに少尉は刀を構えた。髑髏には気づかれてはいないが、少尉の攻撃には秘密があった。刀に宿る炎はあくまでも目くらましに近い。斬撃の瞬間にビームのように放たれた熱線が細い線髑髏の胸元を切り裂いたのだ。

これこそが不動明王剣・飛太刀。孤斬の魂が教えてくれた切り札の一つだ。だが、髑髏は怯むことなく、胸元の炎を無造作に撫で払った。すると炎が消えた切り口が一瞬にして再生される。同時に焼け焦げた外套の周囲が復元されていく。それを見た少尉は露骨に嫌な顔をした。


「貴様こそどういう手品を使っている。」

無回答(すなおにおしえるとおもうのか)。」

「…だよなあ。」


そんな少尉の耳元で小さな風が吹く。風と共に少尉の耳に届いたのは孤斬と同じく今では失われた戦友の声だった。


『若、いや、少尉殿でしたっけ。あの骨野郎は集めた命を再生能力に回しています。』

「その声は白孤か。…力を貸してもらえるか。」

『勿論です!』


白孤の魂がそう言った瞬間に少尉の姿が陽炎のように消えた。白狐の魂が少尉の足に宿ったのだ。白狐が生前に得意とした瞬歩術による高速移動は常人には見切れない速さを少尉にもたらした。全く姿が見えない中を床を連続で蹴る高速の音だけが響き渡る。音を追うようにして髑髏は周囲を見渡した。そして当たりつけて刀を振り下ろした。だがその一撃は見事に空振りした。彼が捕らえたのは音だけだったのだ。

次の瞬間に髑髏の背に大爆発が起こった。背に凄まじい衝撃に感じた髑髏は膝をついた。それを見下ろすような形で少尉は姿を現した。


驚愕(いったいなにがおきている)。』


今の攻撃といい、髑髏には理解不能なことばかりだった。なによりもおかしいのは全力で使っているはずのソウルスティール能力が少尉には全く効いていないことだった。一体奴はどういう手品を使っている。


「お前が死霊を味方につけているように私にも頼もしい味方がついているのだよ。どうやら彼らがお前の魔力から私を守ってくれているようだな。」


少尉の言葉に髑髏は目を瞠った。少尉を守るように5人の孤狼族の英霊が構えを取っている姿が現れたからだ。少尉の言葉に答えるように爆破攻撃を行った狸大吾の霊が鼻をかきながら無邪気に笑った。


『若に頼もしいって褒められるとむず痒いですね。』

『こら、狸大吾。ちゃんと少尉殿と呼ばないとダメだろう。』

『いい…じゃ…ないか。どのような呼び方を…しようと…真一郎は…真一郎だ。』

『孤斬のいう通りですよ、お父様。』

『むう、それはそうだが規律というものがな。』


『さあ、愛しい旦那様。私たちがついてますよ。』


鈴の音と共に少尉ははっきりと孤凜の声を聞いた。同時に懐かしさで涙が出そうになった。だが、今は戦闘中だ。敵の前で涙を流すわけにはいかない。困惑する髑髏の前で少尉は刀を突きつけながら、はっきりと言い切った。


「悪いな!全く貴様に負ける気がしない!」




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