決戦!!大空中要塞の攻防(11)
髑髏が嗤うたびに空気がビリビリと振動する。肌でそれを感じながら少尉は違和感を覚えた。髑髏の背後の雲が凄まじい速さで流れているのだ。というよりは髑髏の元に集まっているかのようだった。何かを意味している。だがそれが分からない。
少尉が雲に気を取られている間に髑髏は両腰に下げていた刀を両の腕で抜いた。そこまでは普通の所作だったが、その後が異常だった。
二本の腕の影からさらに腕が二本増えたのだ。そしてさらに二本。しまいには八本になった腕と刀を不気味に蠢かしながら髑髏は容赦なく切りかかった。手数もそうだが、凄まじい速さだった。龍気を解放した天龍王に一瞬にして迫る勢いで飛び込んできた髑髏はその勢いのままで怒涛の斬撃を浴びせかける。致命傷こそ避けているものの受けきれない箇所が浅く切り裂かれて天龍王の服の袖から鮮血が舞い散る。劣勢と感じたのか天龍王は上段から迫った髑髏の刀を受け止めたまま、龍気を爆発させて衝撃波をぶつけた。その威力に髑髏が後方に吹っ飛ばされる。
目にもとまらぬ速さに隙を見つけられずに立ち尽くしていた少尉だったが、髑髏との距離ができたことを察知すると同時に榴弾を投げた。狙いは髑髏そのものではなく、その足場だ。いくら人外の力を秘めた化け物とはいえ、立っている地面がなければ下に堕ちるしかない。そう判断しての行動だった。手榴弾は髑髏の足元に転がると同時に爆発して凄まじい爆発と黒煙を巻き起こした。少尉による援護によって息つく暇ができた天龍王が礼を言う。
「…助かったぞ、真一郎。」
「油断するな、龍。あの程度でくたばるような奴じゃない。」
「…だよ…なあ。」
そこで少尉は天龍王の異常に息切れをしていることに気づいた。尋常な様子ではない。その時になって少尉は天龍王の不調を理解した。そして、もっと早く気づくべきだったことを呪った。全力で戦っているとはいえ、龍気を解放した時の天龍王の力はもっと凄まじいはずだ。それがあれだけの斬り合い程度で息切れするわけがない。少尉の違和感を立証するような形で天龍王は龍気の放出をやめた。というよりやめざるをえなかった。何故ならば疲労のあまりにその場に崩れ落ちたからだ。それを目の当たりにした少尉は慌てて天龍王の元に駆け寄って助け起こした。
「おい、どうした!大丈夫か。」
「…わりい、なんでか知らねえが、体の力が入らねえ…。」
天龍王はなんとかそれだけを少尉に伝えると力尽きて意識を失った。一体何が起きたというのか。死絶句する少尉の目の前でコロが使っていたはずの孤斬が飛来して床に突き刺さる。まるで使い手がいなくなって戻ってきたかのようだった。一体何が起きているというのか。自身の理解を越えた事態に少尉は焦りを感じた。
そんな少尉の目の前で黒煙が晴れていく。煙の間から現れたのは八本の刀を構えて不気味に嗤う餓遮髑髏の姿だった。
「児戯。」
「…一体何をした。」
「容易。命吸引。」
そう言って餓遮髑髏は刀の一本で天を指した。上空に渦巻いている黒雲を見た少尉は言葉を失った。あれは黒雲などではない。一つ一つに苦悶する人間の顔が浮き上がっている。それを見た少尉は直感的に理解した。あれは餓遮髑髏によって集められた人間の魂だ。おそらくは現在も餓遮髑髏はその魔力により、周辺の生きている人間から魂を集めているのだ。自らの糧にするために。コロや天龍王も奴の魔力の犠牲になったのだ。上空に舞う黒雲を髑髏はその呼気によって吸い上げた。同時に周囲から苦しみと呻きの声が木霊する。その理不尽な振る舞いに少尉の怒りの振れ幅は許容を振り切った。
「人間を何だと思っているのだ。」
「餌。」
「ふざけるなっ!人間は断じて貴様の餌ではない!」
髑髏の言葉に少尉は静かに切れた。同時に目の前に突き刺さった孤斬を引き抜く。少尉の怒りに反応するかの如く孤斬の刀身から荒れ狂う炎が吹き荒れる。燃え盛る刃先を髑髏に突きつけながら少尉は怒鳴った。
「斬るっ!!」
その言葉に餓遮髑髏は壮絶な笑みを浮かべた。




