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決戦!!大空中要塞の攻防(9)

瓦礫の山から起き上がってきた剣狼は不気味に喉笛を唸らせた。威嚇しているのだろう。そんな剣狼を真っすぐに見据えながらコロは体内の闘気を練りこむ。そして一気に解き放った。体から放出される白い闘気がコロの体中に纏わりついていく。

白虎化。孤狼族の血に秘められた獣神『白虎』の力を解き放つことで人外の力を得る奥義。短期間ならば天龍王に迫る力を発揮することのできるコロの切り札だ。白虎化したコロを前にして剣狼は不敵な笑みを浮かべた。自身の相手に不足はないといったところだろうか。一歩一歩ゆっくりとコロの元に歩み寄りながら剣狼はおもむろに両の拳を合わせた。


「ごうま…がっしん。」


瞬間、剣狼の身体の内部から混虫を思わせる装甲が剥き出しになっていく。剛魔合身。大型混虫の力を身に宿すことで人外の力を得る剣狼の切り札だ。本気を出したコロに合わせて剣狼も本気を出したのである。

二人の人外はしばし睨み合った。先に動いたのはコロだった。白虎化した力と持ち前の瞬発力を掛け合わせた瞬歩術『絶影』にて剣狼の鼻先に瞬時に詰め寄ったコロは剣狼の顔面を思い切り横殴りに殴った。重金属を思わせる鈍い手ごたえに一瞬顔をしかめたものの構うことなく振り切った。横殴りの衝撃に剣狼は吹っ飛ばされかけながらも、その足を地面にめり込ませるほどの踏み込みで耐え切った。

同時にがら空きになったコロの額に思い切り頭突きを食らわした。顔面に衝撃を感じてコロが数歩後ずさる。その隙を剣狼は見逃さなかった。口から蜘蛛の糸を光線のようにコロの身体目がけて吐き出す。一瞬の隙をつかれたせいもあってコロは蜘蛛の糸に直撃して後方の壁に拘束される。粘着性のあるせいか、いくらもがいても抜け出せなかった。

焦るコロに対して剣狼は犬歯を剥き出しにして不気味に嗤った。その背中の蜘蛛の触手がまるで大剣のようにベキベキと変化していくのを見てコロは焦った。いくら白虎化で強化されていてもあの一撃を喰らえばひとたまりもない。


その時だった。コロの顔面すれすれに一本の剥き出しの刀が投げつけられる。危うくコロに突き刺さるかと思われた刀はコロの耳元の壁にそのまま突き刺さった。何事かと投げたほうを見ると先に行ったと思われた少尉が登り階段の途中で仁王立ちしていた。


「孤斬の名を呼べ!お前にならあいつは力を貸してくれるだろう。」


少尉の言葉に戸惑いながらもコロは突き刺さった抜き身の刀身を見た。使い古された柄は歴戦の勇士を思わせた。それを見たときにコロは理解した。この刀は長き戦いを共に駆け抜けた、いわば少尉の分身だ。少尉の力強い手に背中を押されたように感じてコロは自然と刀に語り掛けていた。


「孤斬…。力を貸してくれ。」


それに答えるように孤斬の刀身が薄く煌めく。同時に刀身から凄まじい熱と炎が巻き上がった。不可思議な炎だった。凄まじい熱でコロを焼き尽くすわけでもなくコロを拘束する蜘蛛の糸だけをあっという間に焼き尽くすと同時にあっという間に掻き消えた。炎が掻き消えた後で孤斬は自然に壁から抜け落ちるとコロの真正面にふわふわと浮いた。

まるで自分を使えといっているかのようだった。自分に起きた不可思議な現象にコロは唖然としながらも意を決すると孤斬の柄を握りしめた。同時に脳内に聞き慣れない何者かの声が響き渡る。その瞬間にコロは孤斬の使い方を理解した。


「分かる。分かるぞ。この刀を少尉殿に残した貴方の遺志を。孤斬殿、力をお借りします。」


コロが叫んだ瞬間、この世のものではない地獄の炎が孤斬の刀身から顕現する。凄まじい熱を放つにも関わらず持ち主であるコロを焦がさない不可思議な炎はかつて旅順でその命を落とした孤狼族の侍「孤斬」の魂の炎だ。その命を失っても消えることなく刀に宿って眠りについていた孤斬の魂は少尉の仲間の命を救うために現世に帰還したのだ。




   ◆◇◆◇




コロの手元から現れた炎に少しだけ驚きながらも少尉は振り返って先に行った天龍王の後を追った。走りながら理解した。孤斬の魂はこれまで自分と行動を共にしていたのだ。あの時に死に別れても自分を影ながら見守ってくれていた部下の存在に一瞬涙ぐみそうになる。そんな少尉の耳元でかすかな鈴の音が聞こえた。大丈夫です。私たちもいつも一緒ですよ。確かにそう聞こえた声に頷きながらも少尉は確信した。


「みんな、俺と一緒にいてくれたのだな。」


狸道、狸大吾、白孤、そして孤凜。かつての戦友。そして一番大事だった妻。そこにいるはずのない仲間たちの魂を身近に感じて少尉は一筋の涙を流した。





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