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決戦!!大空中要塞の攻防(6)

瓦礫がいたるところに散乱している街の中を天龍王は疾走する。それに影のようについて走るのはコロと少尉の二人である。走りながら移り変わる街の様子を眺めていた少尉は何事かに気づき、止まるように天龍王に声をかけた。急に遮られたにも拘らず、天龍王は静かに頷いて走るのをやめた。なぜ少尉が止めたのかを察しているようである。


「龍、気づいているか。」

「ああ。」

「一体どうしたんですか、二人とも。」

「耳を澄ましてみろ。私が何を言っているか分かるはずだ。」


言われるままにコロは耳を澄まして周囲の音を拾おうとした。別段おかしい音などしない。むしろ何の音もしないくらいだ。

そう、何の音もしない。

その時になってコロは初めて少尉と天龍王が言わんとする言葉の意味を理解した。静かすぎるのだ。浮上したとはいえ、ここは普通の都市だったはずだ。避難もろくに終わっていないというのに人の気配が全くしない。これではまるで死霊の街だ。背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。青ざめるコロに少尉は頷く。


「分かっただろう。静かすぎるんだよ、この街は。」

「…どういうことですか。この街にはまだ人が残っているという話だったはずです。」


コロは自分で言っていて状況の異常さが恐ろしくなってきた。これだけの規模の都市の人間がどこに消えたというのか。少尉は顎を指で掴んで思案した後で何かを思い出して露骨に嫌な顔をした。


「わからん。だが、この状況には覚えがある。」

「どういうことです。」


少尉はコロから視線を天龍王の方へ移すと躊躇いがちに声をかけた。言葉にするのが嫌な事実だったのかも知れない。


「龍、こういう状況を私たちは前にも体験しているはずだ。」

「奇遇だな、俺も全く同じことを思い出していた。」

「どういうことですか。」

「慟哭島事件。あの時と全く同じ状況なのさ。」


その名を聞いた瞬間にコロは戦慄した。

慟哭島事件。コロの記憶が確かならば、離れ小島である慟哭島の住民が全て動く屍に変えられた悲惨な事件のはずだ。物言わぬ屍は生きた人間に食らいつくことでその人間も屍に変える。被害を抑えるために島ごと爆弾で焼き払うことで無理やりに解決したと言われている。この事件は王国の歴史の中でも類を見ない忌まわしい記憶として人々の心の中に刻み込まれている。


餓遮髑髏(がしゃどくろ)。奴が生きていたと考えるべきか。」

「がしゃどくろ、何者ですか、そいつは。」

「元は陸軍に所属していた普通の軍人だった。だが、孤狼族の兵士10万の命を生贄にすることで人間を超越した存在へと生まれ変わったんだ。」

「私達の敵であり、人間をアンデッドへと変えてしまうクソ野郎だよ。」


少尉はそう言って左拳を右の掌に叩きつけた。一見冷静そうに見えるものの迸る殺気は対峙した人間を八つ裂きにするくらいに滾っていることをコロは察して押し黙った。沈黙した少尉を宥めるように天龍王は声をかけた。


「真一郎、気持ちは分かるが落ち着け。俺だってブチ切れたいのは同じなんだからな。」

「…そうだったな、すまん。」


天龍王に諫められて少尉は煮えたぎる頭を冷静にさせようと努力した。

だが、そんな暇を与える暇もなく物陰から何者かが蠢き出してきた。それは一見は人間のようだった。だが、明らかに様子がおかしかった。口からは涎がだらしなく流れているし、二対の眼球は鬼灯のように真っ赤に染まっていた。何よりも首の骨が折れたように曲がっている。それでもお構いなしに小刻みに体を揺らしながら近づいてくる様は怪奇映画に登場する屍そのものだった。屍の存在に気づいたコロは複数の気配を感じて辺りを見渡した。一体だけではない。いつの間にか囲まれている。冷や汗を流すコロたちに死霊の群れが襲い掛かろうとしていた。




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