決戦!!大空中要塞の攻防(5)
敵地に降り立った天龍王とコロはすぐにルーデスたちの飛行機に駆け寄った。飛行機の側ではルーデスが元気そのものでラジオ体操を踊っていた。少尉の姿が見えないことに疑問を持ったコロがそのことを尋ねるとルーデスは黙って視線を背後にやった。そこにはしゃがみこんで嘔吐している少尉の姿があった。無理もなかろう。さんざ人に優しくないトリッキーな動きで振り回されまくったのだ。逆にルーデスが元気すぎることの方がおかしい。ひとしきり胃の中のものをすっきりさせた後にハンカチで口元を抑えながら少尉はやってきた。気のせいか、その足取りはふらついている。
「…ひどい目に遭った。今朝食べたものが全部出ていったぞ。」
「それはいけないなっ!牛乳を飲むかね。」
「え、遠慮しときます。」
暫くは牛乳を見るたびにルーデスのさわやかな笑顔がちらつくのではないかという恐怖に駆られながら少尉は気持ちを切り替えた。
「ここはどの辺りなんだ。どこを目指せばいい。」
「堕龍頭の地図とさっきの上空の様子を照らし合わせていた。恐らくはこの辺りだ。そして恐らく敵がいるのがこの辺りだ。」
天龍王が指さしたところは地図の端っこのほうだった。そして次に中央辺りを指し示した。なぜ中央を目指すのか疑問に思って尋ねると、どうやら操縦室がある遺跡があるのがその辺りだということだった。
「よく構造が分かるな。」
「俺の先祖が作ったものだぞ。設計図と対処法くらいは残っているさ。」
天龍王の言葉に少尉は唸った。こんなものを古代に作り上げる龍人族はあらためて凄まじい存在だと認識した。現代の技術力では都市一つ覆うほどの質量を飛行させるような技術力はない。
「ただなあ、古文書を辿ると残念なことが書いてあった。」
「残念なことだと。」
「前にもこういうトラブルが起きたようなんだよな。危険防止のために俺の先祖は獅堂一族に遺跡の守護と管理をまかせたようなんだが、まさかそれが裏目に出ようとは。」
「こないだのクーデターの一件といい、部下に恵まれないな。」
「全くだ。統治者として自信なくすわ。」
そう言って天龍王は力なく笑った。さりとて嘆いてばかりもいられない。天龍王は意識を切り替えると周囲の仲間を見渡した。
「さて、無事に敵地に侵入できたわけだが、ご覧の通り三人きりの少数精鋭だ。まともにぶつかればあっという間に押しつぶされる。だが、今回の目的は殲滅戦ではなく、遺跡の動力源にされている弟『白龍子』の救出にある。」
「潜入するにしても敵さんが大人しく迎え入れてくれるとは限らないな。」
「その通りだ。」
「空からそのまま搭まで行くのはどうでしょう。」
「それはやめた方がいいだろうね。」
今まで黙っていたルーデスの言葉に全員が注目する。ルーデスは黙って上空を指さした。見上げてみるといつの間にか空の上に不気味な黒雲が立ち上り、空一面を覆っていた。時折、稲光を発していることからそれが単なる黒雲でないことは容易に察することができた。
「おそらくあの雲は敵の仕業だろう。あの放電した雲の中を突っ込めばあっという間に電気系統がイカれて墜落してしまう。」
「なるほど、地上から行くしかないということか。」
「ズルはできないものですね。」
「そうと決まれば問答している時間が惜しいな。行くぞ。」
「おうっ!」
天龍王を先頭にコロと少尉は歩き出した。そんな折、ふと懐かしい鈴の音が背後から鳴ったように少尉は感じた。その瞬間に全身が総毛だって振り返った。あり得るわけがない。彼女は、あの鈴を贈った孤凜はもう死んだのだから。後ろを向いてもやはり懐かしい姿はなかった。
「少尉殿、どうかされたんですか。」
「なんでもない。そうだ。なんでもないさ。」
コロの質問に自分に言い聞かせるように繰り返した後に少尉はその場を後にした。




