決戦!!大空中要塞の攻防(4)
空中要塞に挑むのは王国製の二機の戦闘機だった。雲を貫く無数の破壊光線が飛び交う中を二機の戦闘機はその巧みな操縦で潜り抜けていく。凄まじい速度と操縦センスを要求される動きだった。破壊光線を紙一重で回避させるために機体を旋回させるアクロバティックな動きはまるで曲芸乗りのようである。
もっともその後部座席に無理やり乗せられた少尉は堪らなかった。なにしろ破壊光線が飛んでくるたびに機体があり得ない角度で旋回するのだ。90度回転したかと思えば今度は360度のさかさまの状態になる。逆さまになったことで頭の血が溜まるだけでなく三半規管を揺らされることで気分が凄まじく悪くなった。その上、突発的に加速するものだから凄まじいGが体にかかる始末だ。訓練をしていない人間にはルーデスの操縦は拷問に近かった。
「…もういやだ、降りる…、助けてくれ…」
すっかり青くなりながら複座席でへたり込む少尉にルーデスは陽気に笑いかけながら振り返った。その場に不似合いなくらい素晴らしく朗らかな表情をしているのが馬鹿にされているように思えて少尉は内心で苛立った。そのにやけ顔だけ見ていたらこの男がこんな鬼のような操縦をしているのか本当に信じられない。
「はっはっは!カルシウムが足りてないのかな。牛乳でも飲むかね。」
そういってどこから取り出したのか中身の入った牛乳瓶を差し出す。そんな眼前すれすれを怪光線が飛んでくるものだからたまらずに少尉は叫んだ。
「頼むから前を向いてくれ!」
「はっはっは、気にするな。ケセラセラ、なるようになるだ。」
「飲む!牛乳でもなんでも飲むから前を向いてくれ。」
操縦席のルーデスから手渡された牛乳を必死で手を伸ばして受け取りながら少尉は思った。このおっさん、どういう神経をしているのだ。脳の線が二、三本ぶっ飛んでいるとしか思えないぞ。そんなことを思いながら牛乳瓶の蓋を開けていると機体の正面目がけて怪光線が飛んできた。ルーデスはこちらに集中するあまりに気づいていないようである。仰天した少尉は泣きそうになりながら思い切り叫んだ。
「前、前見ろよっ!」
「ふむ。」
ルーデスはチラリと前を向くと操縦桿を思い切りひねった。同時に機体が大きく右に旋回する。回避には成功したものの横殴りのGを思い切り感じた少尉の顔面に蓋を開けた牛乳の中身が思い切りぶちまけられる。
「…………。」
余りのことにしばし無言になった。この場合怒るべきなんだろうか。悲しむべきなのだろうか。牛乳まみれの顔などを天龍王やコロに見られたら大爆笑されるに違いない。なんだか情けなくなってきて同時に涙が出そうになった。
「ルーデス大佐。そろそろ真面目に操縦してもらえないですかね。」
「ははは、何を言う。この程度の弾幕は目を瞑っていてもやり過ごすことができるよ。先の大戦ではこの十倍の弾幕の中を潜り抜けて敵陣深くに大打撃を与えたものだ。そう、忘れもしない、あれは第二次セグリッド攻略の折に…」
そういうルーデスの機体目がけて破壊光線の雨あられが飛んできた。どう考えてもやり過ごすことのできない量の対空射撃に少尉は命の危機を認識した。一度退くべきだ。そんな少尉にルーデスはごく当たり前に語り掛ける。
「よし、この中を突っ込むぞ!」
「やめろ、やめてくれえええええ!!!!!」
少尉の叫びも空しくルーデスは破壊光線の嵐の中を真正面に突っ切って突破していった。そして敵の砲台ギリギリまで接近すると機関銃射撃を容赦なくばら撒いた。直撃後、爆散する砲台を尻目にルーデスは頷く。
「グッジョブ!さあ、もう一度今の動きを繰り返すぞ。覚悟はいいかね。」
「勘弁してくれええ……」
少尉の叫びは高速で飛ぶ飛行機の加速音で空しくかき消された。後方からそれを見送っていた空軍の戦闘機に乗っていたコロは茫然となった。
「凄い操縦テクニックだ。何者なんですか、あの外人さん。」
コロの質問に複座席の後ろに立っていた天龍王が答える。
「ルーデス・ウインリッヒ。最近ではついに士官学校の教科書にも掲載された魔人だよ。」
「ルーデス・ウインリッヒッ!!?」
その名を聞いたコロの表情が一変して青ざめる。予想通りの反応だな、天龍王はそう思いながら苦笑いした。
「嘘でしょう、空の大魔王がどうして我が国に。」
「いろいろあってな。アイゼンライヒには居られなくなったところを俺がスカウトした。」
「…天龍王様って人材の雇用に対して本当に節操ないですよね。」
「しょうがねえだろ。あれを野放しにする方が余程酷いことになると思ったんだから。」
確かに眼前で高笑いをあげながら次々と固定砲台を叩き潰していくルーデスの飛行テクニックが敵に回った時のことを考えると寒気を覚えた。明らかにあれはエースの動きだ。コロたちがそんな世間話をしているうちにルーデスの活躍によって突入するルートが確保されたため、彼らは安全に要塞に降りることができた。




