決戦!!大空中要塞の攻防(3)
王宮内の庭で家族と共に穏やかに過ごしていたフィフス第一王女はふいに誰かに呼ばれた気がして振り返った。懐に抱く赤子をあやしながらも彼女の様子に気づいたフェリシア王妃は尋ねた。
「どうしたの。フィフスちゃん。」
「今、ケンローが呼んだような気がして。」
その表情は真っ青で唇は小刻みに震えていた。彼女のただならない様子にフェリシア王妃は慌てて駆け寄ると優しく彼女の頭を抱きしめた。大丈夫、大丈夫だから。そう言い続けられながらもフィフスはもう剣狼に会えないのではないかという不安に駆られて涙を流した。
◆◇◆◇
一方その頃、剛鉄は空中要塞付近に待機していた。というよりは待機せざるをえなかった。いくら機動列車といえども上空に飛行しているものに手出しができなかったからである。ゆえに要塞から放たれた謎の怪光線が大地を穿っていく様子も目の当たりにしていた。あんあものを放置していては絶対に恐ろしいことになる。なんとかして要塞に突入する手段はないものか。空軍に応援を要請するように軍部には依頼していたが、その後の返答がないために苛立ちだけが募るだけだった。
先に潜入していた剣狼の身の上も心配だった。普段はそんなことなど感じないのになんだか嫌な予感がする。その不安を少尉は口にした。
「剣狼の奴が心配だな。」
「珍しいですね、少尉殿があいつにそんなことを言うなんて。」
「ああ、普段なら絶対に言ったりしない。だが今回は嫌な予感がする。」
「予感、ですか。」
「ざわついてるんだよ。孤斬の奴がな。」
そう言って少尉はコロに自分の軍刀を見せた。孤斬と名付けられた刀は少尉の戦友『孤斬』の形見である。かつて旅順攻略の際にその命を落とした孤斬にあやかり、その名をつけられた刀はこれまでの戦いでも少尉と行動を共にしてきた。だが、ほぼ抜いたことがないためにコロはこれまで孤斬のことをあまり気にしたことがなかった。刀がざわつくとはいかなる感覚だろうか。コロは首を傾げたが、少尉がそれ以上語ろうとしないために歴戦の勇士のみが持つ独特の感覚なのだろうと納得して尋ねることをやめた。
その時、ふいに上空から轟音が響いていくのを確認した。空軍の飛行機部隊が隊列を組んで飛行している。進路から見るに目指しているのは上空の空中要塞だろう。要塞向けて進撃していく戦闘機を少尉とコロは息を吞みながら見守った。
だが、次の瞬間、要塞のいたるところから放たれた怪光線によって次々に撃墜されていく。その様は針を剥き出しにした針鼠に串刺しにされる昆虫を思わせるような光景だった。瞬きする間に要塞の一方的な勝利によって激しい空中戦は幕を閉じた。一方的にも程がある。あの弾幕の中を突き抜けていくのはあまりに骨が折れる。突破するイメージが全く沸かずに少尉の頬に冷たい汗が流れた。
そんな少尉たちの目の前に二体の戦闘機が下りてきた。戦闘機の先頭に立っていた非常識な男が声をかける。
「やっぱ駄目だったか。だからやめとけっていったのに。」
「来てくれたのですか、天龍王様!」
「報告を聞いて居てもたってもいられなくなってな。身の毛がよだったぜ。あんな骨とう品がまだ残っていたことを聞かされた時にはな。」
「あれが何か知っているのですか。」
「昔話で出てくるだろう。天司神龍伝説に出てくるソラフネ。あれがその正体だ。」
言われて思い浮かんだのは創世神話に登場する巨大な箱舟だった。外世界から攻めてきた悪神に立ち向かうために天龍と天狼の二大陣営によって起こされた戦いの最中で作り出されたソラフネは襲い掛かる邪神の使いをその神の力で次々に穿ち、天龍側を勝利に導いたと言われる。神の血を引く龍神族のみが操ることができる巨大な船はその余りの威力を危険視されて戦いののちに封印され、龍神族を守る一族によって人知れず守られてきたという。
「てっきりおとぎ話の類かと思っていたがな。」
「俺も部下に調べさせて驚いた。龍神族を守る一族が獅堂一族。つまりは今回の騒ぎを引き起こしている護龍武士団の先祖だったんだからな。」
空に不気味に浮かぶ空中要塞を見上げながら天龍王は歯ぎしりした。そんな天龍王に少尉は尋ねた。
「ここに来たということはあそこに行くつもりなんだろ。」
「ああ、お前とコロの助けが必要だ。潜入作戦だから少数精鋭のほうがいい。飛行機の定員の問題もあるしな。本当は剛鉄も連れていければ一番よかったんだがな。」
「ほかの独立遊撃軍の連中は?」
「残念ながら別の地域で襲い掛かってきた混虫の応戦に当たってもらっている。むかつくくらいのタイミングの良ささ。」
恐らく敵は戦力の分散を狙ったのだろう。独立遊軍が全て集まればあるいはと考えた少尉だったが、その当てが外れて歯噛みした。
「まあ、俺とお前、コロ、後は潜入した剣狼がいれば大丈夫だろ。凄腕の案内人もいるしな。」
「案内人?」
「空の魔王ルーデス。独立遊軍第一軍の隊長といえばわかるだろう。」
そういって天龍王は背後の戦闘機の前でラジオ体操をしている陽気な外人を親指で指した。差されたことに気づいたルーデスは陽気にサムズアップして答えた。なんとも濃い笑顔だった。なんとなく独特の雰囲気を感じ取って少尉は顔を引きつらせた。




