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決戦!!大空中要塞の攻防(2)

もがけばもがくほど増す苦しみに剣狼はのたうち回った。それを冷然と見つめながら頬月は構えを解いた。もはや勝負はついた。そんな余裕さえ見られる様子だった。


「無駄だ。蠍の毒は傷口から血液を回り、やがて心臓へたどり着く。貴様はもう助からんさ。」


それを裏付けるように剣狼は吐血した。鎧のせいで内部の様子は分からないが、鎧の内側から外側に血がまき散っている様子から尋常な様子ではないことが見て取れた。


「てめえ、きたねえぞ…」


薄れゆく意識の中で剣狼は必死に白龍子のほうへ手を伸ばそうとした。だが、その手を容赦なく頬月は踏みつぶす。剣狼は必死に頬月を睨みつけようとしたが、急に力を失って倒れ伏せた。おそらく蠍の毒が回り切ったのだろう。必死に仰向けになって起き上がろうと試みた後に力尽きた。背中の八本の触手も胴体を守るように硬直したまま動かなくなった。


「なんというしぶとさだ。普通なら象でさえその場で倒れる毒のはずなのだが。」


頬月はそう言って剣狼を見下ろした。足で蹴って剣狼が微動だにしないことを確認した後に興味を失って背後を向いた。


「死体は残しておいてやる。貴様ほどの力量なら強力な死骸兵になるだろ……!?。」

「…そいつはどうもありがとうよ。」


頬月は驚愕していた。自らの胴体に剣狼の刀が突き刺さっていたからである。肺から昇ってきた血液が容赦なく頬月の口から溢れる。驚愕で目を見開きながら、頬月は背後の剣狼を見た。どういうことだ。確かにさっき力尽きたはずではないのか。


「がはっ…、貴様、なぜ生きている。」

「蜘蛛には擬死という能力があるんだよ。覚えておくんだな。」


自然界には『擬死』と呼ばれる死んだふりを行う生き物が多くいる。コガネムシやゾウムシなどの甲虫類に多く見られる能力である。実は蜘蛛も実は死んだふりを行うのだ。剣狼が今まさに行ったのがその擬死の能力だ。完全にたばかられた頬月に剣狼は残忍な笑みを浮かべた。


「卑怯な…。」

「てめえだって毒使ってんだろ。お互い様じゃねえか。」


泥臭い戦場で長く生きてきた剣狼にとって正々堂々と戦うことなどは愚の骨頂だった。そんなくだらないプライドのせいで大事なものの命を救えないくらいなら這いつくばってでも大事なものを守ったほうがいい。今の剣狼にとっては白龍子を救うことが最優先の目標なのだ。


「貴様、貴様、貴様あああ!!!」

「もう逝け。あんたが殺した連中が地獄で待ってるぜ。」


剣狼は刀を引き抜くとその八本の触手から伸びた鋭い爪で容赦なく頬月の身体を穿ち、薙ぎ払った。次の瞬間、頬月の身体はバラバラになった。首だけの状態となっても剣狼に食らいつこうとする頬月を剣狼は容赦なく踏みつぶした。


「哀れだな。そんな風になっても死ねないなんて。」


物言わぬ肉塊となった頬月を冷たく見下ろした後に剣狼は変身を解いて刀を収めた。




            ◆◇◆◇       




祭壇で寝かされている白龍子は呼吸をしている様子から意識は失っているだけのようであるということが分かった。健やかな寝息を立てている白龍子の顔を眺めた後に剣狼は安堵の溜息をついた。


「心配かけやがって。」


そういって剣狼は白龍子のおでこを指で軽くはじいた。寝ているが痛みは感じたようで白龍子の顔が痛みで歪む。その様子に苦笑した後で剣狼は彼を助け起こそうとした。


次の瞬間、その背後に何者かが降り立った。


地面が陥没するような凄まじい音が鳴った後に全身を突き刺すような恐ろしい殺気が剣狼の身体を突き抜けていった。同時に脳裏によぎったのは明確な死のイメージだった。それを振り払おうと背後を向こうとするのだが、恐怖がそれを許さない。全く身動きができない剣狼に現れた男は語り掛ける。


禁止(それをつれていくな)。」


声が聞こえたというよりは脳に直接声が響いたような不可思議な声だった。抗うことができなくなりかけるのを必死にこらえながら剣狼は答えた。


「新手かよ。ごちゃごちゃ言われたところで王子さんは返してもらうぜ。」

即死(ならばしね)。」


そう言って男が片手を剣狼の方に差し向けた瞬間に彼は見えない力によって縛られた。まるで抵抗できない巨大な力によって宙に舞いあげられた後に一瞬にして男の元へ引き寄せられる。宙に浮かんだまま苦悶の表情を浮かべる剣狼に対して男は嗤った。とはいっても彼の表情を読むことは困難だった。なぜならば男の顔には皮膚の肉が全くなく、見た目が完全に髑髏であったからだ。


「…てめえ、何者だ。」

不必要(しるひつようはない)。」


そう言って骸骨は腕を握りしめた。瞬間、剣狼の身体から不可視の何かが抜き出ていく。それはまさしく剣狼の魂そのものだった。骸骨は抜き出た魂を口から吸いこむと無造作に手を振り下ろした。瞬間に糸が切れた人形のように剣狼が地面に投げ出される。その眼からは完全に生気が抜けていた。


児戯(たやすいあいてだ)。」


骸骨は満足しながら白龍子を抱えるとその場を後にした。




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