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決戦!!大空中要塞の攻防(1)

王都から東に離れた中規模程度の都市『堕龍頭』。街の端にある巨大な龍の頭をした巨岩があることからその名を名付けられたと言われている。だが、なぜ『堕ちる』を意味する『堕』という言葉がついているのかを知るものはだれ一人いなかった。

それが空から堕ちたことを意味する言葉であったことを理解した時には時すでに遅く、堕龍頭は空高く浮かび上がっていた。街ごとが巨大な飛行物体となって浮かび上がった現実は街の人々を恐怖させて真面な判断ができなくするのに十分だった。彼らをなによりも怯えさせたのは街から逃げ出せなくなったことだった。逃げようにも街の端の道は途絶えており、そこから切り離された大地が望める光景を見てしまっては足がすくんで飛び降りることもできない。気の弱い人間や子供はその場にへたりこんで泣き出すしか抗うすべを持たなかった。必死に大丈夫だと語り掛けて慰める者もいたが、何をもって大丈夫だと言っているのか根拠などなかった。中には何が起きているのか、自分たちに助けは来るのかと駐屯兵に詰め寄るものもいたが、駐屯兵とて何が起きているのか分からない以上、人々に落ち着くように説明するしかなかった。




             ◆◇◆◇

        




「なぜこの街が堕龍頭と呼ばれていたか疑問に思わなかったか。」


蠍の装甲を身に纏った頬月が剣狼に語り掛ける。質問の意図が読めずに剣狼は怪訝な顔をした。鎧を纏っているために表情を読むことはできなかったのだが、沈黙から頬月は何かを悟ったようだった。


「見るがいい。外で何が起きているか察することができるはずだ。」

「…これは。何のまやかしだ。」


頬月が右腕をかざすと剣狼の頭上に複数の巨大映像が浮かび上がった。どうやら街の様子を映し出しているらしい。どういう理屈かは分からないが、驚くべきことに街自体が宙に浮いていることを察することができた。冗談じゃない。悪い冗談にも程がある。


「念のために言っておくが、まやかしではないぞ。」

「こんな大それたことを仕出かして何をするつもりだ。」

「堕龍頭を王都に向けて進行させて総攻撃を仕掛ける。」

「寝ぼけるにも程があるだろ。どうやって攻撃するってんだよ。」


剣狼は鼻で笑った。いくら空飛ぶ要塞が攻めてきても王都の軍勢を率いた天龍王が相手ならば恐れるものではない、そう思ったからだ。剣狼の嘲笑を頬月はあっさりと受け流した。そしてその眼を光らせた。


「こうするのだ。」


頬月がそう言って右手を薙ぎ払った瞬間に巨大映像に映し出された堕龍頭の口から凄まじい量の熱が凝縮されて放たれた。眼下に存在した大地を薙ぎ払うように放たれた熱線は線を引くように大地を穿った後に大爆発を起こした。巨大な爆発の煙の後には町一つをすっぽりと覆うような巨大なクレーターが現れた。そのあまりの威力に剣狼が絶句する。


「なんなんだ、ありゃあ。」

「飛龍砲。古代の龍人族が残した偉大なる遺産さ。龍族の力によって動かすことができる。」

「そのために王子さんを狙ったのか。」

「白龍子様は我らの偉大なる指導者となられるお方。この要塞と白龍子様がいれば我らの悲願は叶うのだ。」

「王子さんがそんなこと望むわけがないだろう。あんた、あの王子さんの何を見てきたんだ。」


白龍子は優しい男だ。こんな所業を目の当たりにすれば悲しむに決まっている。なぜ少し接しただけの自分に分かることが長年仕えてきた側近に分からないというのか。そう考えると怒りと共に情けなさが沸いてきた。


「あんたのくだらない野望にこれ以上王子さんを巻き込ませるわけにはいかねえ。」

「我々の大義が分からぬとは所詮は野良犬か。」

「その野良犬以下じゃねえか!クソ野郎がっ!!」


叫ぶとともに剣狼は襲い掛かった。絶影・迦楼羅を使った突進力で真っすぐに頬月目がけて刀を突きだす。頬月は両腕を前で組んだまま微動だにしなかった。殺った。剣狼が確信した瞬間に刀は事もなく薙ぎ払われた。頬月の背にある巨大な尾によって。薙ぎ払われたことでがら空きになった胴に尾の先端の毒針が襲い掛かる。なんとか後ろに避けることでかわしたが、避けた地面を見てゾッとなった。毒針からしたたった毒液が落ちた瞬間に地面が溶けたのである。どういう液体だ。あれを刺されたらただでは済まない。


「随分と物騒なものを持っているじゃねえか。」

「蠍の毒は獲物を捕食するためのものだ。こういう風にな!」


頬月が叫んだ瞬間、剣狼の足元から二対の鋏角が現れる。とっさに宙に逃れた剣狼の元に伸縮自在の鋏角の攻撃が迫る。一瞬の油断で両足を掴まれた剣狼を頬月は力任せに壁に叩きつけた。背中に凄まじい衝撃を感じて剣狼の意識が一瞬飛びそうになる。だが、頬月は容赦しなかった。数回に渡って剣狼を右から左の壁に次々に叩きつけていく。抵抗する力が抜けたのを見計らって頬月は剣狼の胸目がけて毒針を差し込んだ。


「ぐあああああっ――!!」


鎧を貫通して身体に直接流し込まれた毒は剣狼の身体を容赦なく蝕んだ。痺れだけではなく激痛を伴う攻撃に剣狼がもがき苦しむ。それを頬月は冷ややかに見降ろした。





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