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白の王子と蒼の王 黒の反乱(13)【終】

地面から現れたのは夥しい数の骸骨兵だった。その数は百や二百ではきかないだろう。彼らは手に持った刀を振りかざすと、ぎこちない動きで狼の行く手を阻む。


「邪魔をすんじゃねえ、骨骨野郎どもがっ!」


叫びながら剣狼は真っすぐに駆け出した。一閃。間合いに入った骸骨兵たちを一挙にその刀で薙ぎ払う。同時に無数の骨が宙に舞い上がる。だが、痛覚を有しない操り人形は怯むことなく剣狼に向かっていく。さらにまずいことに剣狼が倒すスピードを上回る速度で彼らはその数を増殖させていた。


(キリがねえな……。)


苛立ちをあらわにした剣狼はふいに足首に違和感を覚えた。何かが自分の足を掴んでいる。ちらりと見ると地面から生えた人間の手首の骨が剣狼の足を掴んでいた。身の毛がよだつ光景に恐怖を覚えた剣狼はその手首を力任せに蹴り飛ばしていた。その隙に他の骸骨たちが剣狼に群がっていく。あっという間に骸骨でできた山ができあがった。重量こそないものの剣狼の身体の自由を奪うには十分だった。


「ふっざ…けんなっ!」


怒りに身を任せて叫びながら剣狼はその身に宿した混虫の力を解放した。瞬間、骸骨の山の内部から凄まじい熱と閃光が放たれて骸骨たちが爆散していく。蒸気のような煙の中から現れたのは昆虫の外殻を纏った戦士へと変貌した剣狼だった。異形に変化した剣狼は襲い掛かってきた一体の骸骨の頭を無造作に掴むと粉々に粉砕した。粉砕された骨の粉が宙に舞う。それを皮切りにして群がる骸骨を次々になぎ倒していく。

剣狼が骸骨をなぎ倒して祭壇の元へ迫ろうとしたときに黒ずくめの男の詠唱がやんだ。同時に立っていられないほどの地響きが剣狼達の足元に起こる。一体何が起きたというのか。揺れの中でなんとかバランスを保った剣狼は男に向かって襲い掛かった。振り下ろした刀の一撃を男は腰から抜いた刀で無造作に受け止める。


「さっきの詠唱と地響きはなんだ!」

「古き遺跡の巨獣を呼び覚ましたのよ。」

「巨獣だと!?」


問答をしながらも剣狼は鍔迫り合いを行っている力をさらに込めた。だが、男のどこにそんな力があるのか全く動くことはない。男は無造作に刀を弾くと剣狼の胴目がけて蹴りを放った。蹴りをまともに受けて剣狼の身体が後方に吹っ飛ばされる。着地時になんとかバランスを保つと剣狼は牙を剥いた。それを見ていた男は口元に笑みを浮かべながら外套のフードを外して顔をあらわにした。その姿はやはり獅堂頬月のものだった。


「噂通りの凄まじい力だな。だが貴様一人がそれを扱えるとは思わない方がいい。」

「なんだと。」

「見せてやろう。剛魔合身。」


瞬間、男の身体から真っ赤な蒸気があふれ出る。同時に男の身体の内部から虫のそれを思わせる外殻が剥き出しになっていく。予想外の事態に言葉を失いながら剣狼はその変身を見守った。

変身を終えて現れたのは真っ赤な鎧を身に纏った異形の戦士だった。その背中に生えた大きな一対の尻尾が特徴的なフォルムは蠍のそれを髣髴とさせるものだった。


「てめえ、なんで剛魔合身を使える。」

「貴様と同様の改造を受けたのさ。組織によってな。」


頬月の言葉に剣狼は冷や汗を流した。その身から溢れる凄まじい殺気と闘気から察することであの姿がハッタリの類でないことが理解できたからだ。激しい戦闘が始まろうとしていた。




           ◆◇◆◇




一方、その頃。地上では凄まじい異変が起きていた。街全体が空に浮かび上がっていたのだ。街を支える岩盤ごと空高く舞い上がった異常。知らせを受けて街の付近にたどり着いた剛鉄はその光景に目を瞠った。

「一体、何が起きている。」


想像を上回る事態に少尉が茫然と呟く。コロもどうしていいのか分からずに冷や汗を流した。あれはいったいなんなのか。あれほど巨大な質量を支えて飛行できる技術など、今の軍部では不可能なことはだれよりも少尉自身が理解していた。


「はわわわ、あれはなんですか、しょーいどの。」

「分からん。だが、私たちの想像を超える事態が起こっていることは間違いないだろう。」


異変に気付いて後部車両から走ってきたリムリィに答えながら少尉は思った。今回もまた厄介な事態になりそうだ。それを口には出さずに少尉は帽子の鍔を真っすぐに直した。




次回に続きます。

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