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白の王子と蒼の王 黒の反乱(10) 

結局、なつめが用意した弁当は剣狼が全て平らげてしまった。そのせいなのだろうか。帰り道でも剣狼は時折腹を抑えながら非常に調子が悪そうにしていた。そんな彼が心配になって僕は声をかけた。


「大丈夫かい、剣狼。」

「俺としたことが。たかだか小娘の作った弁当で殺されるとは思わなかったぜ。」

「…無理して食べなければよかったのに。」


まるきり力がない様子で答えた剣狼になつめは顔を真っ赤にしながら反論した。だけどその言葉にはいつものような毒はなかった。そんな彼女の足元にひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。それを見た剣狼はぽつりと呟いた。


「奇麗なもんだな。」

「え?」

「桜に言ったんだ。お前にはいってねえ。」


そこは嘘でもなつめのことだと言おうよ。僕は内心でそう突っ込んだ。だが、剣狼はそんななつめを気にすることなく呟いた。その視線は僕たちではなく、どこか遠くを見つめていた。僕たちの視線に気づいたのか剣狼は苦笑いした。


「桜はよ、おふくろが好きだった花なんだよ。」

「剣狼のお母さん。」

「ああ、捨て子だった俺を拾ってくれた育ての母さ。」


珍しく感傷的になっているのを見ることができた。僕もなつめもそれ以上は聞けなくなって剣狼に習うようにして桜の木を眺めた。まるで花の吹雪のようにひらひらと舞い落ちる花びらはそれだけで人の心を和ませる。風流とはこういうものをいうのだろうか。しばし立ち止まっていた剣狼はふいに何かに気づいて振り返った。


「こんなきれいな光景だってのに無粋な奴がいるな。」


剣狼につられて振り返った僕は悲鳴を上げそうになった。そこにいたのは石動だったからだ。一目見て尋常ではない様子が伺えた。抜き身の刀を左手に持っているだけでも怖いのに目の焦点が合っていない。表情がすでに正気のものではないのだ。


「こないだの決着をつけようってのか、石動さんよ。」

「……グルルルル、剣狼。」


石動は剣狼の挑発にすぐ乗らなかった。だが、凄まじい表情で笑みを浮かべたまま、一言叫びながら切りかかっていった。


「こおおおおろおおおおすううううっ!!!」


大振りで薙ぎ払った一刀は剣狼の頭すれすれをかすめた。その後に凄まじい衝撃破が起こり、側の桜の木が真っ二つになる。その威力に流石の剣狼も血相を変えた。


「冗談じゃねえ!あいつ、あんなに強かったのかよ!」

「馬鹿な、剣神も使わずにあの威力の斬撃を繰り出せるなどあり得ないぞ。」

「目の前であり得ないことが起きてるじゃねえか、とっとと王子さん連れて逃げろ!」


剣狼の言葉に頷くとなつめは僕を連れてその場から離れていった。




            ◆◇◆◇     




白龍子となつめが離れたことを確認した剣狼は不敵に笑いながら刀を抜いた。そして石動の動きにいつでも反応できるように構えを取る。周囲の花見客は突然起こった騒ぎに驚いて逃げていった。


「よう、どうやってその力を手に入れた。まあ、なんとなく当てはあるんだがな。」

「グルルルルるる、剣狼うううううう、ころすううううううう…」

「殺す殺すって、うるせえ奴だな。お前、悪魔に魂を売っただろ。」


答える代わりに石動は身を乗り出して襲い掛かってきた。先ほどの一撃を間近で見ていた剣狼は受けることを早々に諦めて回避行動に移った。剣狼が回避するとともに石動の刀に触れた地面が大きく陥没する。避けなかったらああなっていたのか、身震いしながら剣狼は着地した後に大きく距離を取った。鼻先から感じる異臭はあきらかに死臭。石動も頬月と同様の存在になっているということだ。


「だったら遠慮はいらねえな。」


そういった瞬間に剣狼の周囲の空気が張り詰める。足元の花びらが闘気に反応して一気に舞い上がると同時に剣狼は叫んでいた。


「剛魔合身っ!」


直後、凄まじい闘気の奔流が剣狼の身体全体を纏い、彼は異形へと変身していた。




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