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白の王子と蒼の王 黒の反乱(6) 

僕が剣狼と別れて道場を後にすると出口でなつめが待ち構えていた。何時にもない真剣な表情をしているので不思議に思った僕はどうしたのか尋ねてみた。するとなつめは烈火のごとく怒った。


「どうしたのかではありません!」

「うわ、いきなり何なの。」

「先ほどのことです。いくら白様とはいえ頭に血が上った石動にあのような無茶をなさって。もし怪我をしたらどうするおつもりだったのですか。」


そう言われて今更ながらに自分のやったことを振り返ってみると途端に恐怖が沸いてきた。確かにそうだ。石動のとばっちりを受けたら怪我どころか命そのものが危うくなる。途端に腰が抜けてしまって僕はその場にへたり込んだ。


「白様!大丈夫ですか!」

「駄目みたい。どうやら腰が抜けちゃった…。」

「ええ、今更ですか。」


怒りのあまりに眉を寄せていたなつめも僕の情けなさに思わず苦笑いした。僕自身情けないにも程があるのだが、こればかりはしょうがない。なんとか助け起こしてもらう頃にはなつめの機嫌も直っていた。


「全く。駆け付けたこちらが肝を冷やしましたよ。」

「ごめんごめん。本当は僕もあんなことをしたくなかったんだけど。」

「したくないのに何故あのような真似をなさったのです。」

「だって下手をすれば護龍武士団の存続自体が危うくなっていたもの。」


僕の言葉になつめは目を見開いた。確かに危険すぎる真似をしたのは自分でも自覚している。だけどあの場で石動の暴走を止めなかったら彼だけではなくなつめや門下の皆にも害が及ぶ可能性があったのだ。この場所や門下の皆には返せないくらいの恩がある。僕の命と天秤にかけても守る必要がある。そう考えたら勝手に体が前に出ていた。物思いをやめてなつめを見てみると彼女は目に涙を浮かべていた。え、何、何か泣かせるようなことをしてしまった。若干引きつりながら彼女の様子を見ていると急に叫んだ。


「白様!まさかそのようなご深慮あっての行動だったとは。このなつめ、感激いたしました!」

「え、そ、そう。それはよかった…」


号泣しながらそういうなつめの雰囲気に僕は乗り切れなくて少しだけ距離を置いた。そんな僕の横を剣狼が通り過ぎていく。


「泣いたり怒ったり忙しい側近だな。」

「あはは、そうだね。」

「貴様に言われたくはない!」


ああ、怒りの矛先を完全に剣狼の方に回しかけている。また仲裁するのは勘弁してほしい。僕の視線を察したのか剣狼が苦笑する。


「あんまりいきり立つな。また王子様に仲裁してもらうつもりか。」

「うっ、それは…」

「なつめ。剣狼は悪い人ではないよ。」

「しかし白様、こいつは…」

「君達が僕を守ろうとして剣狼を遠ざけようとするのはよく分かる。でも僕は剣狼から色んなことを学びたいんだ。だから君も彼と仲良くしてほしい。」


なつめは僕の話を聞くうちに怒った顔から困り果てた顔に変わっていった。気持ちは分からないでもない。散々恥をかかされた相手なのだ。許せというのが酷なのかもしれない。そんな彼女に助け舟を出したのは剣狼だった。頭をかいた後に剣狼はなつめに手を差し出して握手を求めた。そんな剣狼の真意を掴めずになつめが躊躇っていると剣狼は言った。


「年下の王子さんにここまで言われてな。先日の一件、すまなかった。この通り謝ろう。」

「え、あ、あう。」

「なつめ。」


僕に促されてなつめは本当に困った顔をしばらくした後に諦めて項垂れた。


「わかりましたよ。剣狼殿。私のほうこそ無礼の数々をお許しください。」

「ああ、こちらこそだ。しかし、よかったよ。あんたのような別嬪さんを怒らせたままでいるのは気が引けたからな。」

「なっ、また愚弄するのですか。」

「そうじゃねえ、俺は気の強い女が好きなんだ。ましてあんたのような腕の立つ女なら猶更だ。どうだ、俺のつがいにならねえか。」


直球だなあ。こんな言葉は本の中でしか見たことがない。剣狼に感心していると言われたなつめは耳まで真っ赤にして飛び出していった。途中で地面に派手に転んだ後に逃げるように去っていった。そんな彼女の姿が見えなくなるまで生暖かい視線を向けた後に僕と剣狼は顔を見合わせた。




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