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白の王子と蒼の王 黒の反乱(4) 

なつめがいなくなったのを見計らって剣狼は僕に話しかけてきた。他の門下生達が遠巻きで厳しい視線を向けるが、彼は全くお構いなしだった。


「すまねえな。王子さんの修練の邪魔をしちまった。」

「構わないよ。あのままなら腕が動かなくなるまでこの木刀を振らされてかもしれないんだから。」


そう言って肩をすくめると剣狼は木刀を貸すように促した。僕が差し出すと重さを確認して苦笑いした後に「うへ、」と声を上げた後に首を横に振った。


「いつもこんなもん使ってんのか。」

「うん、そうだけど。」


どうしてそんなことを聞くんだろう。僕は不思議に思いながらも正直に答えた。剣狼は含み笑いをしながら僕に木刀を返してくれた。


「慣れているならこういう規格外品で素振りをするのもありだ。だが、修練を始めた人間が持つようなものじゃねえよ。下手にこんなもんに慣れたら変な癖がついちまう。」

「やっぱりそうなんだ。なんだかおかしいと思っていたんだけど。」


剣狼は苦笑いしたまま周囲を見渡した。そして部屋の隅に置いてあった練習用の竹刀たちが集まっている棚を見つけてその中から手ごろな竹刀を取り出した。そして持ってくると僕の方に掲げた。


「王子さん、練習するならまずこれで始めな。」

「竹刀を使うのか。」

「腕力も必要だろうが、あんたに必要なのは基本の型と足さばきさ。」


剣狼はそう言って僕の目の前で竹刀を上段に構えると右足を踏み出しながら振り下ろした。竹刀とは思えない鋭く重い風切り音が道場内に響く。あれで打たれたらミミズ腫れでは済まないんじゃないんだろうか。


「俺もガキの頃はこのくらいの竹刀を毎日振って基本の体裁きを体に覚えさせた。剣なんてもんは地道な修練の積み重ねだ。重ねた修練は絶対に裏切らない。基本を覚えたら後は実戦の積み重ねさ。」

「剣狼もそうやって強くなったのか。」

「そうだ。ようは喧嘩と同じさ。基本が身に付いたら後は実戦あるのみだ。コツは自分より少し格上の強い奴とやりあうこと。その後でなんで勝ったか負けたのか、どうやったら次は勝てるのか考える。それを繰り返すことで現在の俺があるんだ。」

「剣狼は兄さんより強いの。」


なにげなく聞いた僕の質問に剣狼は言葉を詰まらせた。そして照れくさそうに笑った後に首を横に振った。僕はそれにとても驚いた。兄様は、天龍王様は剣狼より強いというのか!先ほどのなつめとの立ち合いを見ても剣狼は凄まじい腕前のはずだ。それよりも強いなんて。


「身内のあんたに言うのも気が引けるが、ありゃ一種の化け物だ。今でもやりあった時のことを考えると冷や汗が出る。」

「…どうして兄さんはそんなに強いのだろう。」


龍人族だからかな。一瞬そんなことが頭の隅をよぎったがすぐにその考えを消した。なぜならば僕だって龍人族だからだ。同じ一族なら僕だって凄く強いことになるが、僕は武術がからきしだ。


「どうだろうな。凄まじい修羅場を潜っているのもあるだろうが、背負ってるものが違うんだろう。」

「背負ってるもの?」

「この国とそこに生きる民の暮らしと未来さ。あの人はそれを一身に背負っている。だから強い。」


剣狼の言葉はなんだか腑に落ちた。自分一人ではなく皆のために戦っている。だから負けない。いや、負けられないのだ。僕が頷くのを確認して剣狼は満足するとその場を後にした。




              ◆◇◆◇    




それがきっかけだったのかは分からないが、それから僕は剣狼とよく話をするようになった。真剣での立ち合いでないとはいえ四剣王の一人であるなつめを破った剣狼に興味を持ったからかもしれない。剣狼はそんな僕の態度を意外に感じながらも邪険に扱うことなく迎え入れてくれた。

僕自身が飄々とした自由ある気風に憧れを持っていたものだから、純粋に剣狼のことがとても羨ましく感じていた。だけどなつめや他の門下生からの評判は最悪だった。だが、彼の凄いところはそれを全く気にしていないところだ。余程自分自身がしっかりしているのだろう。そんなある日、再び道場で事件が起こった。



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