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白の王子と蒼の王 黒の反乱(3) 

彼女の指示で僕は赤樫の木刀の素振りを始めた。素振り用の木刀は船の櫂のごとく大きくて僕の腕力を軽く上回る。それだけでも負荷が高すぎるのに実はこれが木の中に鉄の芯を埋め込んでいるなつめ専用のものであることを僕は知っている。既存のものの倍以上の重さをしているものだから振り回すだけでも大変だ。背中まで振り上げるだけで危うくバランスを崩して転げそうになる。


「駄目です。基本姿勢を崩してはいけません。」

「…そんなこと言われても重すぎるよ。」

「その木刀で基本的な動きができるようになれば様々な動きが変わってきます。だから頑張ってください!」


そう言われても無理なものは無理だった。10回も終えないうちに僕は根を上げてしまった。そんな僕をなつめは厳しく叱咤する。


「そんなことではお兄様を超えることはできませんよ。」

「駄目だよ、もう無理。腕が動かないよ。」

「情けないことを言ってはいけません。100本振るまでは帰しませんよ。」

「そんなあ~。」


無茶ぶりにも程がある。僕は周囲に助けを求めようと辺りを見渡した。他の門下生たちの視線は冷ややかなものだった。あんなこともできないのか。表立っては見せないがそこには明らかな失望の色が見て取れた。そんな僕たちを壁際から見ていた一人の孤狼族の男が笑い出した。


「ぶ、はは。はははははっ!」


孤狼族の嘲笑になつめが激高した。


「貴様!何がおかしい!」

「いやあ、すまんすまん。そんな昔ながらのスパルタで強くなれるなら苦労はねえなあ、そう思ったらつい笑いが止まらなくなっちまった。」


男はそう言った後に笑いすぎて目元に溜まっていた涙を拭い払った。彼の名は剣狼。最近になって天龍王様の元から僕の護衛として送られてきた男だ。よそ者ながら堂々とした態度で屋敷の中を勝手気ままに歩き回る姿は目に余るものが多くて門下生達の反感を買っている。それはなつめも例外ではない。


「貴様。この修練法は護龍武士団古くからのものだぞ。それを愚弄する気か。」

「悪かったって。鍛える方法は人によって違うものな。ただ、その王子様には違う方法の方があってる気がするって言ってるだけだ。」

「そこまで言うなら貴様は余程の腕に自信があるのだろうな。」

「残念だが、お嬢ちゃんよりは強いと思うぜ。」

「貴様っ!!」


瞬間、なつめの身体から真っ赤なオーラが噴き出す。凄まじい熱と殺気を放つそれは四剣王の資格を持つものだけが放つ特殊な闘気だ。なつめが本気になったことに他の門下生たちが慌てて道場から離れだした。彼女が本気で暴れまわれば周囲の被害は凄まじいものになる。だから巻き添えを恐れたのだ。剣狼はなつめの闘気を肌で感じて興味深そうに片眉を上げた後に嬉しそうな笑いを口元に浮かべた。


「なんだ。なかなかやるようじゃないか。お嬢ちゃん。」

「まだ愚弄する気か!」


そう叫ぶとともになつめは道場の床を蹴って一瞬にして剣狼の間合いに入った。同時に上段から木刀を振り下ろす。殺す気なんじゃないか、見ている僕が怖くなってしまう勢いだった。だが、剣狼はそれをわずかな体裁きであっさりとかわした。完全になつめの攻撃を見切っている。なつめは一瞬大きく目を見開きながらもそのままの勢いで連続の斬撃を放った。剣狼はそれをことごとく見切った後でなつめの軸足が片足になるタイミングを見計らって足払いをした。足元をすくわれたことで大きく態勢を崩したなつめは道場の床に尻もちをついた。慌てて起き上がろうとするなつめの眼前に剣狼の拳が迫る。鼻先すれすれで寸止めした拳の風圧を目の前に受けて彼女の顔色が青ざめる。


「なかなかいい攻撃だったぜ。だが、真っすぐ過ぎて読みやすい。お前、実戦経験が少ないんじゃないのか。」

「…まだ愚弄する気か。」

「そうじゃねえ、実戦経験さえ積めば化けるかもしれねえって言ってるんだ。」


そう言って剣狼はなつめの眼前で握っていた拳を緩めて掌を差し出してなつめを助け起こそうとした。だが、なつめはその手を払いのけると憮然と起き上がった後に道場を後にした。僕はなつめが心配になったが、剣狼の方も気になったので視線を向けた。剣狼はそんな僕に肩をすくめて困ったように笑いかけてきた。




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