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晴れ時々龍 ところにより大百足(8)【終】

少尉の立案したのはいたって簡単なものだった。次に剛鉄が地中から浮上した瞬間を狙って天龍王の斬撃にて一撃を入れてもらう。少尉がそれを伝えると天龍王は楽しそうな微笑みを浮かべた。浮上するタイミングを見計らう必要があるため少尉は双眼鏡を片手に列車の天井に上った。

「改めて思うが天井って煙たくないか。」

煙室の煙突から出てくる煙でむせ返りそうになりながら少尉は尋ねた。

「そうか、あんま気にしてなかったが。」

「育ちがいいもんな。」

「あんま褒めるなよ。」

褒めてねえよ。少尉は悪態をつきながら周囲の様子を注意深く探った。もちろんどこから剛鉄が出てくるか天龍王に知らせるためだ。もちろん「ちはや」が走っている真下から出てくる可能性も0ではない。まあ、その瞬間に脱線して死ぬだけだろうから余計なことは考えないようにしている。そういった面では非常にあっさりしていた。

「こうしてると思い出すな。士官学校時代を。」

「集中しろよ、龍。」

「いつも悪だくみはお前、俺が実行犯だった。」

「あの頃と成長してないということか。」

「人間の本質なんてそうそう変わらねえよ。」

少尉のぼやきを天龍王は笑い飛ばした。少尉も苦笑いを返そうとして周囲の気配が変わったことに気づいた。何かが地中から近づいてくるような地響きがあったからだ。

「龍。」

「分かってるよ。」

すでに天龍王は前傾姿勢のまま左手を刀の柄に添えていた。右手は鞘を持ちながらも人差し指を鍔に掛けて鯉口を切ることですぐに抜刀できるように備えている。居合の構えである。

「左後ろだ!」

「おうよ!」

地面を突き破って飛び出してきた剛鉄に向かって天龍王は風のごとく疾走した。そして一瞬で剛鉄の正面に立つと刀を抜き放った。横で見ていた少尉からしてみれば稲妻が走ったようにしか見えない速度だった。一閃、さらに一閃。十字に軌跡を描いた剣閃は深々と剛鉄の頭を切り裂いた。切り裂かれた鉄と鉄の間から剛鉄の体液があふれ出る。同時に耳をつんざくような凄まじい異音が放たれた。剛鉄の悲鳴である。おそらくさっきの攻撃よりも苦しんでいる。そう確信させるほど大きな音であった。

「やったか。」

「手ごたえはあったがまだ死んじゃいないだろうな。」

いつの間にか少尉の隣に立ちながら天龍王は首を横に振った。

「なるほど、なるほど。じゃあ追い打ちかけとくか。」

そう言って少尉は何かを天龍王に手渡した。それは先ほど投げつけていた一斗缶であった。

「お前、鬼だな。」

「そうでもないさ。」

天龍王は苦笑いしながら苦しみの怨叫を上げる剛鉄の頭上目がけて一斗缶を投げつけた。

「よし、とどめいこうか。」

少尉はそういって床をコンコンと叩いて下にいるコロに合図を送った。同時に「ちはや」の主砲が剛鉄の頭を目がけて放たれて剛鉄の頭は爆発炎上した。剛鉄は苦しみのあまりしばし悶絶してのたうち回ったが、やがて動かなくなって地面に横たわった。




                   ◇




剛鉄が完全に動かなくなって死んだことを確認してから「ちはや」はようやく停車した。横たわった剛鉄の死骸を見上げながら少尉はため息をついた。

「とんでもない奴だったな。」

「まったくだ。こいつが王都に入ってきていたらと思うとぞっとする。」

横で天龍王もため息をつきながら死骸を眺めた。

「これからこの死骸はどうするんだ。」

「軍の研究機関に持ち帰って解体、研究材料になるだろうな。」

「もう乗っ取られないように気をつけてくれよ。」

「当たり前だ。俺もこんなのはこりごりだからな。」

そんな二人の近くをコロと二人して歩いていたリムリィは足元に落ちていた二組の木彫りの人形を見つけた。それは剛鉄に乗っ取られて非業の最期を遂げた牧村宗介の遺品であった。人形はすすだらけだったが不可思議なことにあの爆発の中でも燃えることなく残っていた。まるで剛鉄が自分の意志でその人形を守ったように感じられた。

「これ、届けてあげないと。」

「どうしてそう思うんだ。」

「最期に剛鉄が鳴いたときにこの人形を届けてくれ。そう聞こえた気がしたんです。」

ひょっとしたら剛鉄はこの人形をご家族に渡したくて王都に戻ろうとしていたのではないだろうか。リムリィは心の中で問いかけながら人形をぎゅっと握りしめた。だが、剛鉄がその問いかけに答えることは最早なく地面に横たわるのみであった。


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