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閑話休題 剛鉄大改造計画(6)

寅之助達のところに戻るとすでに酷いことになっていた。テーブルの上には空になった酒瓶がいくつも転がっており、すでに出来上がった女性陣二人が寅之助に絡んでいたのである。少尉の姿を見つけるなり、涙目になりながら寅之助は助けを求めた。


「少尉はん、どこ行っとったんや。早く助けてくれー。」

「何を言ってるのです。山本曹長。敵前逃亡は許しませんよ。」

「そうです。飲みが足りないからそんな情けないことをいうんです。もっと飲みなさい。」


そう言って目が座らせた孤麗は並々と酒を寅之助のコップに注いだ。上位職位から注がれた酒を突っぱねるわけにもいかずに寅之助はそれを一気に飲み干す。


「きゃー、さすが曹長、男前ー。」

「ささ、もっといきなさい。」


間髪入れずに孤麗が再びコップに酒を注ぐ。容赦がないにも程がある。だいたい、中座してからそれほど時間が経っていないのにも関わらずこの惨状はなんだ。


「うぷ、もう飲めん、限界や。堪忍してくれ。」

「駄目ですって。いつも私に無茶ぶりばかりするんですから。たまにはこっちの言うことも聞いてもらわないと困ります。」

「こはねちゃんのいう通りですよ。王国の軍人ならば上官から与えられた酒は死んでも飲み干す。これが礼儀です。」


孤麗はそう言ってお手本を示すように自分のグラスの酒をきゅっと一息で飲み干した。そして手酌で再度注ぎ始める。それを見たこはねが慌てて酒瓶を持って孤麗に差し出す。


「駄目ですよ、孤麗さん、手酌だなんて。どうぞどうぞ、飲んでください。」

「ありがとう、悪いわね。こはねちゃんは本当に可愛いわねえ。」

「でもでも、こないだから寅之助さんにちんちくりんだと虐められてばかりで…」

「あらあら、躾の悪い寅ちゃんね、どうしてくれようかしら。」


そう言って孤麗はそれが当たり前であるかのようにこはねから注がれた酒を飲みほした後に寅之助のグラスになみなみと酒を注いだ。グラスの上が酒の表面張力で保たれているものの今にも零れそうになっている辺り、情け容赦というものが欠落しているとしか思えない。


「勘弁してくれえ!」


少尉はその惨状をしばし眺めた後に合掌して再び煙草を吸いに行った。寅之助が薄情ものーと叫んでいるようだったが、敢えて聞こえないふりをした。孤麗にも少しだけ悪い気もしたが、素面に近い状態で酔っぱらった女二人の相手をさせられる訳にもいかない。まあ、普段調子に乗りすぎている寅之助にはいい薬になるだろう。しかしこはねまであんな風になるとは。酒は怖いな。気をつけないといけない。そう思って店の入り口辺りに歩いていく最中の席で見知った顔を見つけたために声をかけた。


「お前がここにいるのも珍しいな、藤堂。いや、今は魔弾の射手だったか。」

「お前までやめろよ、白神。」


そう言ってお猪口で酒を煽るのは先日の天龍王暗殺の際に王を狙撃した独立遊撃隊の魔弾の射手だった。一時は国中の裏切り者となって追われた彼はしばらくの間は姿を消していた。だが、王国を裏切ったわけではなく天龍王自身が裏切り者を表面化するために依頼したことを国民に説明したおかげで大事にはならずに現在は軍に復帰していたわけである。最も表向きは敵と内通して王を殺しかけているわけだ。心情的には簡単に納得できない軍部の人間のための見せしめとしてしばらくは無償奉仕で軍上層部の命令に従うというペナルティを司狼大臣から課せられている。


「憂さ晴らしに飲みにきたのか。」

「嫌みなのか。それは。司狼大臣様のお守りに決まってるだろう。」


そういって魔弾の射手は不機嫌そうに酒を煽った。そんな魔弾の射手を面白そうな顔をして少尉は眺めた。実のところ、彼と魔弾の射手は旧知の間柄である。共に『ちはや』を駆って前国主である黒龍王と戦った天龍王の仲間なのだ。久しぶりの旧知との再会を嬉しく思いながらも少尉は気になってきたこと尋ねることにした。


「妹さんの病気は治ったのか。」

「ああ、前回に龍と亡霊の騎士団からたんまりふんだくったからな。あと少しだよ。」


魔弾の射手の妹は石化病という病に侵されている。体の隅から徐々に石化していき、最後には物言わぬ石像になってしまうという恐ろしい病気だ。治すためには莫大な治療費が必要となるために彼はそれを稼ぐために戦っている。旅の最中にその話を聞かされていたために知っていたのだ。今回の狙撃事件もそのために仕方なくやったことだと後から聞かされたために少尉も振り上げた拳を下げるしかなかったわけである。最も本当に殺していたらどうなるか分からなかったが。




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