閑話休題 剛鉄大改造計画(4)
暫くしてから店に入ってきた3人の女の子の姿に少尉は言葉を失った。全て見知った子ばかりだったからである。孤麗、こはね、そしてリムリィという三人の孤狼族の娘たちはいつも通りの軍服ではなく、随分とめかしこんでやってきた。軍服とは違った可憐さを見せた姿に女好きな酔っ払いたちの視線が集中する。彼女たちは少尉たちの姿を見つけるなり、こちらにやってきた。
「天龍王様、約束通りに二人を連れてきましたよ。」
そう言いながらなにげない所作で孤麗は少尉の隣に座りこむ。あまりの自然さに少尉は内心で絶句する。内緒話をするように孤麗に尋ねる。
「おい、これはいったいどういうことだ。」
「どういうことって言われましても。天龍王様が二人を連れてきたらおごってくれるっていうから連れて来ただけですけど。」
いや、あきらかにどういう趣旨かは分かっているだろう。嬉しそうに尻尾をパタパタ振る姿に少尉は内心で突っ込みたくなりながら軽い眩暈を感じた。少尉の隣に座れたのが嬉しいのか孤麗は必要以上にご機嫌だった。まさかこれが目的ではないだろうな。実際にはそれは大当たりなのだが、孤麗は本心を示さない。あくまでも天龍王の我儘につき合わされた被害者だというスタンスを保つことで彼女は自身の役得の正当性を勝ち得たのである。すっかり策士になったよな、そうため息をつきながら少尉はビールをあおった。
「よっしゃー、じゃあ皆揃ってお酒が来たところで自己紹介しようか。まずは俺が天龍王。この国の王様をしている。好きなものは強い奴と戦うこと。嫌いなものは暗い雰囲気。今日は羽目を外して飲ませていただきまーす。」
「ワイは山本寅之助。実家は砕石業をしているんや。まだ軍隊に入ったばかりで右も左も分からんけど、なんしか頑張っていくんでよろしゅう頼んます。好きな食べ物は焼肉、それからたこ焼きや。」
「…白神真一郎。詳細はお前らのほうが知ってるから割愛する。以上だ。」
何をやってるんだ、俺は。その場の雰囲気に流されて自己紹介させられたもののばつが悪くなって少尉は酒を飲んだ。
「孤麗です。この国の政府に勤めています。今年で25歳になります。独身です。好きなものはおはぎです。暖かいお茶と一緒に日差しの暖かい縁側で食べるのが何よりの楽しみです。将来の夢は素敵な旦那様と幸せな家庭を築くことです。」
「リムリィです。剛鉄で雑務を担当しています。18歳です。独身です。好きなものは読書と美味しいものを食べることです。今日は美味しいものがたくさん食べれるって聞いて喜び勇んできましたっ。」
「こはねです。技術部でマシンメンテナンスや新兵器開発を行っています。18歳です。確かに独身ですけど、これ本当に言わないといけないんですかね。ううっ。今日は素敵な意見を出してもらえて本当に感謝しています。採用はどうなるか分かりませんが、不採用となった案も前向きに検討していきたいと考えています。」
「フェリシアです。既婚者です。この国の王様の奥さんをやっています。今日は羽目を外した主人を息子ともども迎えにきました。」
「……え?」
最後の一人の説明の瞬間にその場が凍りついた。いつの間に来ていたのだろう。天龍王の前に仁王立ちになりながら天龍王の正室であるフェリシアは赤子を抱いたまま凄まじい威圧感を放っていた。表情は笑顔なのだが凄まじく怖い。その無言の威圧感に流石の天龍王も思わず後ずさる。
「子供が大きくなるまでは夜遊びは控えて早めに帰ってくるようにあれほど言ったはずですよね。」
「いや、違うんだ、フェリシアたん、これには訳が…イタイイタイ痛い、そこはひねると折れるから、悪かった悪かった、謝るから!!」
半ば引きずられるようにして強引にその場から連れ去らわれた天龍王を一同は茫然と見送るしかなかった。




