閑話休題 剛鉄大改造計画(3)
次に出てきた案を見た瞬間に少尉の目は点になった。そこには「陸王」と名を書かれたどう考えても剛鉄にしか見えない列車と「空王」と書かれた謎の飛行物体、そして「獣王」と書かれたライオン型のロボットが描かれていたからだ。陸王は分かる。だが、この空王と獣王というのはいったい何者だ。不安になった少尉は孤麗の説明の途中で次の頁をめくった。そこに描かれていたのは陸王、空王、獣王が可変合体して巨大な人型兵器になるという凄まじいものだった。さらには必殺技で「天龍剣」という謎必殺兵器までついている始末だ。実用性など一欠けらもない。男の浪漫しかない決戦兵器がそこには描かれていた。ショックのあまりに少尉はその場に突っ伏した。だれだ、こんなものを採用させようとしている奴は。みんな呆れているに違いない。そう思って起き上がって辺りを見渡すと呆れ顔の一同の中で天龍王だけがキラキラと目を輝かせていた。
「いいよ、これいい!凄いアイデアじゃないか!」
天龍王はそう言って机の端に置いていた採用印をいきなり押そうとした。
「待ちや!納得できへんで!」
すぐさま寅之助がそれを制止する。横で見ていた少尉は内心で感心した。さすがのお前もこれは認められなかったか。見直したぞ。そう思った。だが寅之助から発せられたのは予想外の意見だった。
「なんで胸がライオンやねん、そこは虎にせなあかんやろ。」
予想の斜め上行きやがった―。少尉は椅子ごとひっくり返った。突然、ひっくり返った同僚を怪訝な顔で一瞥した後に寅之助は続けた。
「ライオンはたてがみを取ったら単なる猫や。」
「それを言ったら虎もそうだろう。」
「いいや、虎はワイの魂や。決して外すわけにはいかんのう。」
虎でもライオンでもどうでもいいだろう。そう突っ込もうとした少尉だったが、その前にこはねが冷静に突っ込みを入れた。
「この絵には陸王と描かれた列車がエビぞりになって変形してますが、この改造を剛鉄さんに行うということでしょうか。」
「ん?ああ、そうなるな。」
「…痛覚のある生物である剛鉄さんにこれをやったら死にますよ。」
「…あっ……。」
こはねの冷静な意見に一同は沈黙した。確かにそうだ。こんな変形を行ったら人間ならば背骨をへし折られて死んでしまう。同時に空いた傷口からほかの乗り物が合体するなんて考えるだけで恐ろしい。残酷すぎる想像に一同の間に深い沈黙が訪れた。孤麗はおもむろにページをめくって今の提案をなかったことに切り替えた。
「次行きましょう、次。」
「ああ、ワイの虎が。」
「男の浪漫が!」
二人のロボット馬鹿を放っておいて孤麗は次の提案を持ち出した。
その次の提案も現実性には程遠い凄まじいものであった。喧々囂々のやり取りはその日の夕方まで行われて結局決着がつかずにその日は解散という流れになった。
◆◇◆◇
その日の夜、意気投合した天龍王と寅之助はそのままの勢いで近くの飲み屋まで繰り出した。護衛もつけないと不用心すぎるだろうということで少尉も同席した。店に着くなり三人はビールを頼んで乾杯した。絶妙に冷えたビールが喉を通る爽快感に三人の口から自然と感嘆のため息が出る。
「かーーっ!仕事の後のビールは最高やわ。」
「いやいや、今日は何もしてないだろうが。」
「真一郎、細かいこと言うなって。今日は寅之助のおかげで議論が活性化して面白かったぞ。いつも俺が参加する会議は活気がなくてなあ。」
「おお、王様、ようわかってるがな。」
天龍王の言葉に寅之助がうんうんと頷く。単細胞同士が分かりあってやがる。少尉はため息をつきながら再びビールをあおった。飲んでないとやってられない。枝豆をつまみながら今日は飲むことに集中することに決めたようである。そんな少尉に天龍王が囁く。
「そういえば今日は奇麗どころを呼んでいるから期待しろよ。」
「は?何の話だ。何も聞いてないぞ。」
「少尉はん、王様にワイが頼んだんや。合コンセッティングしてくれってな。」
人に内緒で何をやってるのだ、こいつは。自由すぎるだろう。もう帰りたい。頭を抱えたくなりながら少尉は再びビールを流し込んだ。




