閑話休題 剛鉄大改造計画(1)
暗い話が続きましたが、今回は箸休めのコメディパートです。
蒼龍王国の首都の陸軍総司令部大本営。その二階に位置する作戦会議室。部屋の扉の横には達筆な毛筆で『次世代機動列車改装会議』と書かれた仰々しい紙の垂れ幕が貼られていた。
部屋の中では新陸軍の中核を成す錚々たるメンバーが席を連ねていた。まず国家元首であり、国のトップである天龍王。次に軍部の指揮と行政の統括として天龍王を補佐する司狼大臣の孤麗。軍部の新兵器開発を任されている技術部の技術総長であるこはね少尉相当官。その隣では機動独立遊撃隊五番隊『剛鉄』の指揮を任された特務曹長である白神真一郎が座っていた。そして隣では機動独立遊撃隊零番隊の隊長である山本寅之助が退屈そうに鼻毛を抜いていた。少尉が肘で寅之助を突いて鼻毛を抜くことを注意すると寅之助は反論した。
「まちや、今大物が抜けそうやねん。」
「これから会議が始まろうというのに何をしてるんだ、お前は。」
少尉の小言にも寅之助はどこ吹く風で鼻毛を抜いた。刺激を与えすぎたことでくしゃみが止まらなくなってしまったようだ。何をしてるんだ、お前は。白眼視していると孤麗が咳払いをした。
「御一同、お揃いのようですね。定刻となりましたのでこれより作戦会議を行いたいと思います。」
そういって孤麗が垂れ幕を引くと黒板が現れた。そこには白のチョークで今回の会議の流れが書かれていた。
「前もって知らせておりましたので今更説明はご不要かと思いますが、今一度ご説明いたします。」
凛とした声で孤麗は話し出した。寅之助が少尉の耳元で「ええ女やな」と囁くが、少尉はどう答えていいものか分からずに引きつり笑いを返した。
「昨今になって人類の天敵である混虫の攻撃は激化の一途を辿っています。前回の戦いの中で一番機動列車である『剛鉄』の中破と二番機動列車の『虎鉄』の大破したことからもそれが証明されています。」
「お前の扱いが雑だったんだ。」と白眼視で囁く少尉に寅之助は売り言葉になんとやらで「はあ?聞き捨てならんのう、あんたこそ主兵装ぶっ壊して何言ってんねん。」と睨み返した。二人が一触即発の険悪な雰囲気で顔を突き合わすと隣にいたこはねが「やめてくださいよ、恥ずかしいなあ」と困り顔で仲裁する。そんな二人をちらりと見た後に孤麗は再度の咳払いをした。
「よろしいでしょうか。今回の事態を受けて陸軍総司令部は今のままの機動列車では激化する混虫との戦いに勝ち残れないと結論づけました。そこで今回の会議で機動列車の改造計画を話し合うことにしたわけです。」
そこまで孤麗が話したところで少尉が手を挙げた。孤麗は「どうぞ。」と少尉の発言を許して促した。
「司令部の話し合いに現場の我々まで呼ばれた理由はなんなのでしょうか。」
「扱っているお前らの意見を聞いたほうがいいものができると思ったからさ。」
それまで黙っていた天龍王が口を開く。天龍王の説明に少尉は驚いた。今までの陸軍であれば自分たちのような末端の人間はこのような会議には参加する権利すら与えられなかったからだ。毎回、自分たちの希望する武装とは違うものを後から渡されて随分歯がゆい思いをしたものだ。少尉の表情で何を考えているのか悟った天龍王は微笑を浮かべながら説明した。
「東雲達を更迭して少しは身動きが取りやすくなったということさ。俺もお前もな。」
天龍王の言葉に少尉は嬉しくなって頷いた。そんな少尉の様子を横から見ていた寅之助が。「なんや、少尉はん、王様と知り合いなんか。」と小声で尋ねる。人の目があったことに気づいた少尉は気まずくなって誤魔化した。寅之助は首を傾げて怪訝な表情を浮かべたが、孤麗の説明が再開したためにすぐに少尉から注意をそらした。こいつが女好きで助かった。少尉はそう思いながら再び会議に集中した。




