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晴れ時々龍 ところにより大百足(7)

剛鉄は突然にそれまでに感じたことのない熱と激しい痛みを感じて悲鳴を上げた。火だるまといった表現が正しいだろう。悲鳴といっても人間があげるような悲鳴ではなく無機質な金属がすり合わさるようなかん高い異音でしかなかった。それまで自分に危害を加えるものなどいないと思っていた彼ははじめて痛みと苦しみを与えた存在に激しい憎悪を燃やした。

「気のせいですかね。怒ってる気がするんですが。」

「足回りの触手が全て逆立ってるからな。怒ってるよ。間違いなく。」

剛鉄の怒りを知ってか知らずか怯えるコロに対して少尉は笑いかけた。

「天龍王様。今後はこういう事態が起こらないように剛鉄量産の際はしっかりと火災対策しといたほうがいいですよ。」

「そうだな、開発の連中にいっとくわ。」

なんというか神経が太すぎるだろ、この人たち。それとも僕が神経質なだけなんだろうか。心配している自分がなんだか馬鹿らしくなりコロは二人のやり取りを半笑いのまま眺めた。

だが余裕を感じられたのもそれまでだった。突如として剛鉄がその身体を大きく跳ね上げさせると地中に向かって潜らせ始めたのだ。予想外の動きに少尉が固まる。

「なんなんだ、それは。そんなのありか。」

「ああ、そうだよな。ベースは百足だもんな。そりゃ潜るわな。」

だれかに言うでもなく自分に言い聞かすように言うと天龍王は天を仰いだ。と同時に「ちはや」の下から不吉すぎる地響きが感じられて少尉は怒鳴った。

「コロ!」

「なんですか!」

「速度上げろ!」

「今やってます!」

コロの叫びとほぼ同時に走っている「ちはや」の側面の地中から剛鉄が飛び出してきた。それは海面から顔を出した大クジラのようだった。直撃にはならなかったが、とてつもない振動に「ちはや」全体が揺れる。

「おいおいおい、冗談じゃないぞ。」

苦虫を嚙みつぶしたような表情で少尉は口にくわえていた煙草を床に投げつけた。攻撃を仕掛けてきた剛鉄は再び地中に潜っていく。こんな攻撃の直撃を喰らえば走っている列車などひとたまりもない。死につながる身の危険に少尉の額から冷たい汗が流れる。

「ちょっと計算違いだったな。」

こういうのを藪から蛇というのだろうか。少尉は先ほどの自身の浅はかな作戦立案を呪った。コロはというと険しい顔をしながらも尻尾が足の間に巻き込むようにまでしている。完全にびびっている証拠であった。有効となる戦略が見つからない、そう少尉が爪を噛んでいた瞬間であった。

「しょーいどの、しょーいどの。ご進言したいことがあります。」

「なんだ、リムリィ、今は取り込み中だ。後にしろ。」

騒ぎのせいで目を覚ましたのであろう、突然、後方の車両から現れたリムリィに少尉は怒鳴った。だが、リムリィは引き下がらなかった。

「出てきた瞬間に頭を叩くのです。」

「何を言ってるんだ。」

「いや、待て。猫の言ってることは正しい。百足の弱点は頭だ。」

天龍王が驚いてそういうと少尉とコロは顔を見合わせた。

「お前、百足の弱点なんか知ってたのか。」

「え、弱点は知らないんですが、飛び出してくるなら頭が狙えるかなと思いまして。」

「お前、天才か。」

いや、紙一重のほうだろうな、そう思いながらも少尉はすぐに対応に移った。


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