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晴れ時々龍 ところにより大百足(6)

剛鉄、そして「ちはや」は隣接するかの如く横並びの二本の線路を疾走する。とはいっても二本の列車の間は200m程度の十分な距離が離れているためすぐに攻撃が来ることはないだろう。

「撃ち方はじめ。」

少尉の号令のもと、ちはやの乗組員達が装備している銃器で一斉に銃撃を始める。だが、強固な剛鉄の装甲はそのことごとくを跳ね返していく。

「まるで効いてないじゃないか。」

銃弾の雨の中をまるで気にもかけていない様子にげんなりしながら少尉は照準を合わせて構えていたライフルの狙いを外して構えを解いた。

「やめだ、やめだ。馬鹿馬鹿しい。」

こういう時の切り替えが早いのがこの男の良いところである。いい意味であきらめが早かった。銃撃の効果がないことを確認すると同時に彼の頭の中では次の戦術が練られている。やることを決めるとすぐに指示を出した。

「コロ君や。」

「なんでしょう。」

「確か積み荷にオートモビル用のガソリンがあっただろ。部下に命じてあれ持ってこさせてくれ。」

「何する気ですか。嫌な予感しかしないんですが。」

引きつった笑顔を浮かべるコロに対して少尉は彼自身ができる最大の笑顔で応じた。口元は笑っているが血走った目のためにその表情は見るものに恐怖しか与えなかった。

「鉄は熱いうちに打て、その言葉を実践するだけだよ。」

少尉はそれだけ言うと早くやれとばかりに追い払うように手の甲を外側に振った。コロは首を傾げながらも伝令菅で部下たちに命令を下す。

「さて、準備ができるまでどうするかな。」

少尉はへらへらと笑いながら煙草に火をつけた。そして肺の中に思い切り煙を入れて鼻と口から噴いた。

「下手に主砲で撃ったら打ち返されるのが関の山だしな。」

近距離で横並びに接敵しているこの距離では逃げようがない。そんなことを考えながらも「ちはや」からは意味を持たない銃撃が続いていた。

「王様、王様。」

王と呼びながらもまるで敬意を払っていない口調で少尉は運転車両の上で陣取る天龍王に呼び掛けた。

「なんだね。職業軍人。」

天龍王が逆さまに顔を覗かせる。

「ちょっと手伝っていただきたいんですがよろしいですか。」

「うん、何をすればいい。」

天龍王が首を傾げる。そうこうしているうちに部下たちが持ってきた一斗缶を少尉は天龍王に手渡した。

「ああ、なるほどな。」

少尉の考えていることが分かったのか天龍王は一斗缶を受け取ると野球のボールでも投げるような全力投球でそれを剛鉄に向けて投げつけた。まるで砲撃のごときで剛鉄にぶつかった一斗缶は剛鉄の触手が受け止めるよりも先にへしゃげて中のガソリンをぶちまけさせる。

「次よこせ。」

「はいはい。」

まるでバケツリレーのように部下からコロ、コロから少尉に一斗缶が渡されて天龍王に渡されては剛鉄に投げつけられていく。10回ほどそのやり取りが行なわれた後に少尉がつぶやく。

「そろそろいいかな。」

そういっておもむろにライフルを構えると剛鉄に向けて狙いを定めた後に無造作に撃った。瞬間、剛鉄から凄まじい爆音と炎が上がった。気のせいか剛鉄から悲鳴のような鳴き声が上がっているのを聞いて少尉はいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべた。

「壊せはしないだろうが嫌がらせにはなるだろ。」

「昔から気に入らない上官にする嫌がらせを考えるのは得意だったもんな。」

ますます笑みを深める少尉に天龍王は嘆息した。


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