本日晴天お日柄もよく 寅之助ここにあり(10)【終】
二匹の百足がこちらに追いついてくるのを見計らって剛鉄は砂利の入ったコンテナを尻尾で掴むと渾身の力でぶん投げた。凄まじい速度で空中を舞った砂利は一つ一つが弾丸のような勢いで百足に激突した。装甲の薄い混虫ならば風穴が空くような勢いで繰り出された一撃は百足をひるませる。だが、少尉の狙いはその砂利に隠れた爆弾にあった。砂利同様に百足目がけて放たれた爆弾は百足に激突すると同時に大爆発を起こした。大きくのけ反る百足に対して剛鉄と虎鉄は容赦しなかった。爆発と同時に百足目がけて突進した2編成の列車はそれぞれの必殺武器を剥き出しにしながら襲い掛かる。虎鉄の双牙が一体目の百足に食らいつくと同時にその巨躯を力任せに引っ張り上げる。引っ張られたことで身の自由を失った隙を少尉は見逃さなかった。すぐに剛鉄を駆って百足の懐目がけても潜りこんだ後に有無を言わさない勢いで全砲門を一斉射撃した。凄まじい轟音と爆発の後に百足は力を失って倒れこんだ。そのどてっ腹には大きな風穴が空いていた。仲間を殺された百足は全砲門を放って身動きが取れない剛鉄に襲い掛かる。だが、それは虎鉄を操る寅之助が許さなかった。
「やらせへんでっ!!!」
寅之助は強引に操縦桿を操ると剛鉄と百足の間に車体を割り込ませた。同時に襲ってきた突進による衝撃に車体全体が悲鳴をあげる。まさかの援護に少尉は驚いて寅之助のほうを見る。機関室から顔を覗かせた寅之助は不敵な笑みを浮かべる。
「足掻くのはワイの専売特許や!」
「根性だけは気に入ったぞ、関西!」
「関西言うな、ワイの名前は山本寅之助や!」
少尉の声にそう言って反論しながら寅之助は百足に鋼糸ワイヤー付きの矢じりを射出した後に高圧電流を放った。後先を考えないフルパワーに耐え切れずに虎鉄の発電機の過負荷計の針が振り切れてしまうがお構いなしにレバーを最大限まで下げた。同時に虎鉄の操縦桿が爆発する。それでも構わずに寅之助は叫んだ。
「今やで、少尉はん!!!」
「やれっ!剛鉄!」
剛鉄の操縦桿を握ると同時に最大線速で百足に突進した。その勢いのままで百足を押し込んでいく。百足は抵抗しようとしたが、電撃が効いているせいか反撃不能のようだった。今が勝機。その機会を少尉は見逃さなかった。
「食らえぃっ!!!!」
少尉の掛け声と共に剛鉄は阿修羅を放った。冷却時間を置かないことで発砲と同時に主砲の砲身が破裂したが数々の砲弾は百足の身体を見事に突き抜けた。体に大きな風穴を開けられた百足は天を仰ぐように身悶えた後で大地に横たわった。同時に凄まじい振動が起こる。その振動に敵を屠ったことを実感しながら少尉たちは勝利の喜びを噛み締めた。
一方、その喜びの中でこはねだけは涙目になっていた。
「どうするんですか。一番列車中破だけでなく二番列車まで大破させて。うわーん、また徹夜の修理になる~。」
見るだけで泣きそうになる2編成の列車の惨状を見ながらこはねは無常を噛み締めた。
◆◇◆◇
一方、大本営の執務室では軍服を着た剣狼が天龍王と対面していた。軍に入ってから間もないためにまだ軍服を着慣れないせいか襟元を苦しそうにしながら剣狼は尋ねた。
「用ってなんだよ。王様。」
「なんだ、随分嫌そうな顔をしているじゃないか。」
「育ちがいいんでね。こういうお上品な場所は苦手なんだよ。」
「では手短に行こうか。お前に頼みがある。とある組織に潜入して内情を探ってもらいたいんだ。」
そう言って天龍王は机の上にいくつかの資料を出した。剣狼は資料を手に取った後にパラパラと興味なさそうにめくっていった。だがあるページを見て凍りつく。
「おい、まさかこいつは。」
剣狼の問いに天龍王は静かに頷いた。
「ああ、俺の腹違いの弟だ。」
そこには白龍子と名が書かれた報告書と天龍王を幼くした少年の白黒写真が貼られていた。天龍王は大きくため息をついた後に続けた。
「俺の弟を担ぎ出して反乱を企んでいる奴がいる。名を護龍武士団。四剣王と呼ばれた剣の達人たちとその弟子たちからなる流派一門だ。」
天龍王の言葉に剣狼は内心で思った。どうやら一筋縄ではいかないということを。




