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本日晴天お日柄もよく 寅之助ここにあり(9)

虎鉄を追って剛鉄は走る。少尉は機関室の窓から身を乗り出した。そして懐から取り出した双眼鏡で戦況を確認した後に唸って首を傾げた。

「どうしたんだ、あいつら。急に攻撃をやめているぞ。」

「…まさかもう弾切れとかじゃないですよね。」

「あり得る話だぞ。」

当たり前のように返答をした少尉にコロは驚いて「えっ?」と声をあげた。そんなコロに少尉は説明した。

「一般に実験部隊というのは実戦を想定して兵装を配備していないものだ。強力な武装や尖ったスペックを持った機体というのは強烈な分、量産が難しいなどの欠点があるからからな。だから一つの兵装に集中するのではなくたくさんの試作品を積み込んでいる場合が多いんだ。」

そうだとすれば先ほどのガトリング砲もすでに弾切れの可能性が高い。そもそも側面の配置にしていたがあんな配置では走行しながらの次弾装填はできないだろう。誰が考えたのか知らないが余程の阿呆としか言いようがなかった。少尉の発言と同時刻に当事者である寅之助が大きなくしゃみをしているのだが、そんなことは少尉の知るよしのない話である。ふいに違和感を覚えた少尉は確認のためにコロに質問した。

「…そういえば街に襲いかかってきた百足は何体いたと言っていたんだ。」

「はい、5体であったとの報告でした。」

「待て、それでは数が合わないぞ。」

先ほど阿修羅で倒した百足が一体、今しがた痙攣していた百足が一体、虎鉄を追う百足が2体。確かに少尉のいう通りに視認できる百足は4体しかいない。

「何か嫌な予感がしやがる。」

こういう時の悪い予感というのはたいてい当たるものだ。

「コロ、剛鉄、伏兵がいる可能性がある。周辺の警戒を怠るな。」

「はい。」

【了解しました。】

そう少尉が指示を送った直後に先を走る虎鉄の前の地面から一体の百足が飛び出す。同時に百足は走行する虎鉄の外周にまとわりつくように体をしならせると一気に締め付けて捕縛した。

「いかんっ!!!」

このままでは3体の百足の餌食になる。すぐに救出しなければ。焦る心を落ち着かせながら剛鉄は虎鉄の救援に向かった。




              ◆◇◆◇




「このっ!!離せや、あほんだらっ!!」

罵声をぶつけながら寅之助は虎鉄の操縦桿を必死に動かそうとした。しかしすでに車体全体が百足によって捕縛され、車輪が空回りしかしない状況となっていた。寅之助の必死の抵抗をあざ笑うかのように百足が機関室を覗き込むようにした後にその鋭い牙を覗かせる。優しさの全くなさそうな鋭い牙だった。近距離で百足の顔を見てしまったこはねが顔を青ざめさせる。

「ふざけんなや、あんなバケモンに食われてたまるかい。」

寅之助はそう言いながらも冷や汗が止まらなくなっていた。焦れば焦るほどに冷静な判断が効かなくなる。その時だった。突如として車両全体を横殴りの衝撃が襲った。何事かと外を見てみると剛鉄が百足に体当たりを仕掛けていた。

「あいつら、弾切れちゃうんかい。」

「弾切れだからこそ自らの身体を武器にしているのでしょう。」

「はは、無茶苦茶な連中やな。」

数回の体当たりを仕掛けられた百足はたまらずに虎鉄を捕縛することをあきらめて束縛を緩めた。同時に空回りしていた車輪がレールに着地して一気に虎鉄は加速した。その側面を剛鉄が追う。機関室の窓から身を乗り出しながら少尉は怒鳴った。

「大丈夫か!」

「余計なお世話や…って言いたいとこやけど助かったわ。」

「礼なら後だ。武装は残っているのか。」

まだ隠し武器が残っていただろうか。こはねのほうを見ると彼女は黙って首を横に振った。

「残念ながらネタ切れやな。」

「そうか。」

少尉はしばし何事かを思案した後に後方を眺めた後に何事かに気づいた。

「そういえば幌で縛ったコンテナには何が載ってるんだ。」

「ああ、あれは砂利や。」

「砂利?」

「道を整備するのに使うんや。元々近くの駅に運ぶつもりやったんや。」

実のところ、その砂利は寅之助の会社のものであった。実験部隊として働く傍らで砕石業を続けても構わない。その条件を採用の時に認めてもらっていたのである。

「なるほど。…あれを使うとするか。」

少尉は何事かを閃いたかのように意地の悪い笑みを浮かべた。寅之助は何のことか分からずに怪訝そうな顔をした。

「剛鉄、そのコンテナを尻尾でぶん投げられるか。爆弾と一緒に投げれば目くらましにちょうどいいかと思うが。」

【流石は少尉殿です。試してみる価値は十分にあると思われます。】

「なんちゅう無茶苦茶な連中や。」

利用できるものは兵器でなくとも利用するというのか。戦術教本にもない考え方に寅之助は驚いていた。そんな寅之助の表情に気づいた少尉はにやりと笑った。

「足掻いて足搔いてそれでも駄目なら足掻きぬけ。そうすれば活路が開ける。」

「結局足掻くんやないか。」

そう突っ込みを入れながらも悪い気はしなかった。



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