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本日晴天お日柄もよく 寅之助ここにあり(8)

百足三体を相手にしながら寅之助は全く動じることがなかった。彼はこはねに何事かを指示すると機関室の天井へ昇った。そしておもむろにズボンを脱ぐと尻を丸出しにして百足たちに向かって突き出した。

「やーいやーい、バカ百足ども。くやしかったら追ってこいや。」

寅之助の挑発に百足たちは一斉に止まった。そしてそれまでとは全く違う勢いで虎鉄目がけて向かって襲い掛かっていった。言葉は通じていないはずなのだが明らかに挑発に対して怒っている。そんな様子があきらかに見て取れる光景だった。挑発を行った虎鉄はすぐに発車するとその場から離脱していた。それを百足たちが追いかける。それを傍目から見ていた少尉は唸った。

「あいつ、自らを犠牲にして街から自分に注意を引き付けたというのか。」

「いや、多分、そんな御大層なことは考えていないと思うんですが。」

一緒に見ていたコロはげんなりしながら少尉の過大評価に対して訂正を入れていた。なぜならば虎鉄が逃げる際に慌てふためいた寅之助が下半身を丸出しのまま機関室に戻ってこはねの罵声をぶつけられたのを目にしていたからだ。

「…ふむ。ともかく我々も奴らの後を追うことにするか。」

そう言って少尉は剛鉄を発進させた。




               ◆◇◆◇ 





一方の虎鉄の中では喧々囂々のやり取りが行われていた。

「全く何考えてるんですか!」

「いやあ、全く参ったわ。あんなに敵さんの不興を買うとは思わんかった。」

「そのことじゃありません!戻ってくるなりあんなもの見せるなんて……」

そう言ってこはねは顔を真っ赤にさせていた。彼女にしてみれば寅之助が機関室に戻ってくるときに窓から剥き出しの下半身が視界に飛び込んできたのだから無理はない。ただでさえ技術一辺倒で男性経験に乏しい少女には衝撃がでかすぎる光景だった。

「なんや、あんなもんって。」

「だから……それは…、お…ちん……、知りませんっ!!!」

寅之助が下卑た笑みを浮かべている様子からからかわれたことに気づいたこはねは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。一方の寅之助は至極上機嫌のままでこはねを見た。

(見た目通りえらいおぼこやな。べっぴんさんなのにもったいない。)

化粧をすれば若い男にモテるであろうに自分の魅力に気づいてないのだろう。そういった意味ではまだまだ『ちんちくりん』のお子様だ。寅之助はそう思った。

後方からの振動にこはねにばかり注意を向けてはいられないと寅之助は背後の状況を確認した。列車の先頭に向けて三体の百足が追ってきている。だが、速度はあまり早くないらしく徐々に虎鉄との間の距離を離されてきている。

「頃合いやな。おう、ちんちくりん。参番レバーを引いてくれ。」

「あれを使う気ですかっ!」

「やっこさん、こっちを追ってきているからちょうどええやろ。」

楽観的な寅之助に半信半疑でこはねは参番と書かれたレバーを引いた。同時に虎鉄のサブアームから巨大な何かが発射されて地面に命中する。それはトリモチ状の個体だった。何も知らずにその個体の上を通った一体の百足に異変が起こった。粘着性の強いトリモチが邪魔をしてそこから動けなくなったのである。これこそが技術部に化学班が偶然に作り出した新兵器『トリモチ団子』である。力の強い昆虫ですら一度嵌れば容易には抜け出せない。他の独立遊撃隊の支援を行う虎鉄にとっての主兵装のひとつである。

「続けてもう一丁や。」

虎鉄の側面から細いワイヤーが射出される。先端には取り外し可能な細い矢じりがついていた。矢じりが身悶える百足に突き刺さった後に寅之助は運転席にある黄色いレバーを引いた。同時に致死性の高い高圧電流が放出される。いかに百足の装甲が強かろうと内部までは鍛えることができない。これこそが数多くの百足との戦闘記録を元に新開発された電撃兵器『雷神』である。全身に電気を流された百足は大きく身悶え狂った後に気絶して大地に横たわった。

「まず一丁。」

舌なめずりをしながら寅之助は矢じりの切り離しを行うと同時に再び虎鉄を走らせ始めた。上機嫌な寅之助に対してこはねは難しい表情をしながら助言した。

「…気軽に兵器を使いすぎですよ。」

「なんでや、敵を倒すためにはしょうがないやろ。」

「トリモチ団子も雷神も一回分しか積んでないのにどうやって戦うんですか。」

「なんやてっ!?」

こはねの言葉に寅之助は驚いて振り返った。何を言ってるんだ、なぜあれだけ効果の高い兵器を何発も積んでいないというのだ。寅之助の疑問をこはねは冷静に返答した。

「この列車が新兵器の実験部隊だと忘れてないですか。」

こはねの言葉に寅之助はあっと呟きを漏らしていた。確かに実験のためならば一種類の兵器よりも複数の兵器を何種類も装備していたほうがたくさんの結果を調べられるはずである。なんということだ。気づいてなかった。そんな寅之助に敵が迫っていた。




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