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本日晴天お日柄もよく 寅之助ここにあり(6)

町の前では戦車部隊と百足による壮絶な戦いが繰り広げられていた。戦車部隊が繰り出す砲弾を百足の装甲は全て跳ね返す。無駄だとわかっていてもそれを行わねば百足は街に向かって突き進むだろう。足止めにしかならない自分たちを戦車部隊は歯がゆく感じながらじわりじわりと後退させられていた。そんな戦車部隊を煩わしく感じたのか、百足がその尻尾を鞭のごとく振り回す。それは地面を大きくえぐるほどの威力を持った一撃だった。衝撃が来ることを覚悟した戦車兵たちは思わず目を瞑った。

その時、遠距離から一発の砲弾が放たれて百足の顔面にぶち当たった。装甲によって弾かれはしたものの百足の注意は戦車部隊から砲撃を与えた主に移った。攻撃を行ったのは駆け付けた剛鉄だった。高難度であるはずの移動射撃を当たり前のごとく行えるあたりに少尉の練兵の完成度を察することができた。

「後退しろ。ここは私たちが引き受ける!」

砲撃を行った後に少尉は戦車部隊に向かって激を飛ばした。その頼もしき援軍に戦車兵たちから歓声と安堵のため息があがる。

「鋼鉄の狼だ!王国最強の列車部隊が来てくれたぞ。」

「助かった!彼らが来てくれれば百人力だ!」

「どうか百足をぶっ殺してくれ!」

兵士たちの過剰評価に少尉は引きつった笑いを浮かべた。噂が先行しすぎていないか。一匹ならともかく複数の百足が相手では倒せるかどうかも怪しいのだが。せめて援護くらいはしてくれるんだろうな。そう言おうとする前に戦車部隊たちはその場から撤退していった。唖然としたのは取り残された少尉である。あまりに戦車部隊の対応は酷すぎる。これでは敵をなすりつけられたも同然ではないか。頭を抱えたい。そう思いながら少尉は半ばやけっぱちで怒鳴った。

「奴らに目にもの見せてやれ!」

命令を出されたコロが戦車部隊にですか、百足にですかという疑念を持った目を向けてくる。無論両方だと言いたいところだったが流石に自重して百足のほうを顎でしゃくった。コロは若干安心した表情を浮かべた後で指示を出した。

「了解しました。敵混虫に向けて主砲放てっ!!」

コロの号令に従って剛鉄から主砲が放たれる。それは百足の真正面ではなく背面を狙った攻撃だった。知っての通り、百足はその器用な触手で砲弾を掴んで投げ返す奇癖がある。ならば反撃がしづらい背中を狙うのがセオリーの戦術なのである。百足にぶつかった砲弾はまるで金属同士がぶつかったような鈍い音を上げた後に爆発することなく地面に落下した。あまりの硬さに少尉は顔をひきつらせた。

「あいつ、剛鉄より硬くないか。」

「そんな、気のせいでしょう。」

【くやしいですが事実です。混虫用に威力と殺傷力を強化した自慢の砲弾をはじき返すマネは私にもできないですから。つまり…】

「つまりなんだ。」

【残念ながら彼を傷つける遠距離攻撃を私は所有していません。】

剛鉄の独白に少尉は絶句した。いくらなんでも強化した主砲まで跳ね返されるなどとは思っていなかったからだ。はっきり言ってお手上げだ。街の住民は今すぐ施設を放棄して虫に居場所を明け渡したほうがいい。できることならばそう言ってしまいたかった。だが、彼の中にかろうじて流れる軍人としてのモラルがそれを許さなかった。

「だったらこれしかない!コロ、抜刀を許可する!」

「承知しました。」

少尉の命令に従ってコロは抜刀するとすさまじい速さで大地を疾走した。まるで風か嵐のような勢いだった。彼はその勢いを殺すことなく百足の足元にたどり着くと天高く飛翔してその背に乗った。百足は敵がどこに行ったのか分からずに周囲を見渡して身をよじらせた。身をよじらせた影響で付近に大きな地響きが起こる。そんな百足の状態を顧みることなくコロは百足の背中に刀を突き刺した。まるでバターを溶かすかのように切っ先の根元深くまで刀は刺さった。だがよほど痛覚が人間と違うせいなのか痛みに身悶えることはまったくなかった。



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