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本日晴天お日柄もよく 寅之助ここにあり(4)

こはねから奇兵隊の概要説明を受けた少尉は眼前の悪趣味な列車に設置されたガトリング砲を眺めて唸った。たいした武器だ。これがあれば混虫との戦闘も随分楽になるのではないだろうか。早速、剛鉄にも設置してもらえないか頼んでみよう。そんなことを思案していると頭上から声をかけられた。

「おうおう、こっちを無視するとはいい度胸やないか。」

見れば先ほど寅之助と名乗った男が頭上からこちらを見下ろしていた。初対面の人間に対して礼儀がなっていないな。男の不遜な態度に少尉は内心で苛立ちを見せた。

「よろしく頼むといっておきながら上から目線とは随分といい育ち方をしているようだな。」

「ほう、ちび助が言うやないか。」

寅之助の発言にコロが凍り付いた。見れば少尉は口元をぶるぶると震わせながらブチ切れるのを必死に堪えているようである。身長の話は少尉も気にしているから普段から話題にしないように気を付けているのにいきなり核心に触れるとは恐れ知らずにも程がある。明らかにやばい。何かの拍子で怒りの導火線に火が付くのは目に見えている。そんな時に限ってリムリィが気づかなくていい重大なことに気づいて発言した。

「あれ、この列車って『ちはや』じゃないですか。」

その何気ない発言に場が凍りついた。これ以上余計な火種を起こさないようにコロが必死にそれを制止しようと試みる。

「何を言ってるんだ、リム。そんな訳がないじゃないか。」

コロの言葉にリムリィは同意せずに虎柄の列車をマジマジと見た後に確信を込めて言い放った。

「やっぱりこの列車は私たちの愛機である『ちはや』ですよ。どうしてこんなひどい姿に。」

消火どころではない。火に油を注いでいる。嫌な予感がしたコロが少尉のいるほうを見るとすでに彼は虎柄の列車をまじまじと見つめた。そして狂ったように笑い出した。見れば目に涙まで浮かべている。暫く笑い続けた後でおもむろに少尉は懐から取り出した拳銃を容赦なく寅之助の足元に発砲した。弾が命中することはなかったが、いきなり発砲されたことに驚いた寅之助がバランスを崩して列車から落下する。受け身がよかったのか命の危険はなさそうだが、結構な勢いで尻もちをついたようである。尻をさすりながら痛がる寅之助に少尉はおもむろに近づいていった。

「あいたたた…いきなり何をするんや。」

「悪いな、転属兵。私はお前を殴らねばならんのだ。」

そう言って少尉は寅之助の頭上に拳骨を振り落とした。寅之助の目から火花が散る。

「あいたっ!!ちょっと待てや、なんでワイが殴られなければならんのや!というかそのセリフの流れやと殴るのはワイやないんかい!!」

目を白黒させる寅之助の胸倉を容赦なく掴むと少尉は唾を飛ばしながら怒鳴った。

「謝れ、まずは『ちはや』をこんな色に変えたことに謝れ!」

「少尉殿、まずは落ち着いてください!」

「少尉はんやて、そんならワイより偉いんか、あんたは。」

「いえ、呼び名が少尉殿なだけで役職は曹長です。」

「どういうことや!詐欺やないか!」

置いてきぼりを食らった剛鉄とこはねは喧々囂々のやり取りを生暖かい目で眺めるしかなかった。




                 ◆◇◆◇




一方その頃、王都の大本営では天龍王が多くの書類を整理していた。その多くは先日のクーデターで処分された貴族の所有していた物件の見取り図である。反乱に加担していたことが知られた貴族たちは軒並み資産と爵位を没収されて国外追放となった。厳しい処置であるとは考えもしたが、そうしなければ第二、第三の反乱を起こすきっかけになりかねない。そう考えると処分しないわけにはいかなかった。天龍王が見ているのはそんな没収物件の資料である。物件の中にはいわくつきのものも多い。そんなことを考えていたら件の砕石業者の顔がありありと浮かんだ。剛鉄と無事に合流できただろうか。癖の強い男だから真一郎の奴とはぶつかり合うかもしれない。だが、価値観の違う人間との衝突は人間的にも成長できる手段となるだろう。まさかその相手と少尉が今まさに殴り合いを起こしているとはつゆ知らず天龍王は再び書類仕事に取り掛かり始めた。





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