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本日晴天お日柄もよく 寅之助ここにあり(2)

王都の整備基地では大規模な車両の改装作業が行われていた。それを指揮するのは新しく王国に新しく設立された技術部の技術総長に任命されたこはねであった。孤狼族の若き天才技師である彼女は誰よりも優れた開発の才能を持っていた。それゆえに亜人排斥派の妬みを買って上位の職制に任命されることはこれまでなかった。だが、今回のクーデターの影響で亜人排斥派が一掃されたことにより天龍王から直々に現在の役職に任命されたわけである。ちなみに軍内の職威は『少尉相当官』という扱いになり、役職としては剛鉄の特務曹長を一気に追い越してしまっている。そのことに若干の引け目はあったが、周りはおおむねその任官を好意的に受け止めてくれた。

彼女が現在行っているのは脱線によって大破した武装列車『ちはや』の修理と改修作業である。実際のところ、あまりに改修部分が多いために改修というよりは部品総取り換えのオーバーホールに近かった。当初、上層部から渡された改修図面はあまりにも複雑だったために流石のこはねも難色を示した。彼女がそんな厄介な仕事を引き受けたのは改修した車体を使うのが少尉たちであると知ったからだった。彼女は蛾の一件以降、なんとか恩返しができると考えていた。そのために今回の依頼は渡りに船であると感じたのである。

だが、改修を進めるにつれてどうも話がおかしいことに気づいてきた。よくよく話を聞いてみると改修を終えた「ちはや」は少尉たちの元には納入されないのだというのだ。確かに考えてみれば少尉たちはこはねも修理作業に携わった『剛鉄』を所有している。この上、二台目の武装列車を所有するというのも考えてみればおかしな話だ。

そんな微妙な感情が残る改修作業の中で更にこはねを悩ましたのは整備基地に出入りするようになったある人間の存在だった。その日も上層部からの途中報告を終えたこはねのもとに整備班の副長が駆け寄ってきた。

「総長。あの人をなんとかしてもらえませんか。このままじゃ大本営の指定した納期を大幅に遅らせることになります。」

「あの人、また来てるんですか!」

副長の言葉に小羽根は仰天した。その足で『ちはや』の整備工場に入ると一人の男が作業をしている整備班のメンバーに指示を出していた。

「あかんあかん、その機銃はそこから斜め45度の位置に付け替えてもらえんと困るわ。」

「いやいや、もう溶接してしまってるんですよ。無理に決まっているじゃないですか。」

「最初から無理とあきらめてどうするんや。大丈夫や、行けるって。ワシが保証する!!」 

「と――ら――のす――けさ――ん!勝手に何をしてるんですか。」

背後からこはねに声をかけられた男は振り返った。ザンバラ髪を後ろで束ねている男は意志の強そうな瞳でこはねをじっと見つめた。

「なんや、ちんちくりんか。」

「その失礼な呼び名をいい加減やめてもらえませんか。私には親から貰ったこはねという名前があるんです。」

「どうでもええがな。」 

こはねの指摘に男は眠たそうに答えると耳をほじりだした。無礼な男である。少尉さんとはまるで違う。こはねは心の中でそう思いながら嘆いた。こんな人がこれから「ちはや」を駆ることになるというのか。溜息を溢しながらこはねは改めて男を見た。日焼けした上半身の筋肉を惜しむことなく晒し、下半身は土方がするようなズボンを履いている。その姿はどう見ても肉体労働系の日雇い労働者にしか見えなかった。こはねにとらのすけと呼ばれた男は整備班の人間たちを指さすと続けた。

「まあええわ。ワイがこの虎鉄を受領することになったからには改修状況のチェックから徹底的にやらせてもらうで。」

「虎鉄、ですか。」

聞き慣れない呼び名にこはねは怪訝な顔をする。そんなこはねに男はどや顔で答えた。

「せや。『ちはや』」なんてダサい名前やない。虎の鉄道で虎鉄や。カラーリングも全身を虎模様にしてもらうでな。」

そう宣言する寅之助にこはねはずいぶん悪趣味だと思いながら引きつり笑いを浮かべた。



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