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血の雨警報 敵は大本営にあり(1)

大挙して押し寄せた武装した軍人たちと戦車によって大本営、そして首都の主要機関が乗っ取られたのは天龍王が狙撃されてすぐであった。まるで暗殺が始めから予想されていたかのような動きであった。その数、およそ5万人。通信兵からの報告に孤麗は顔を青ざめさせた。

「やられたな。」

少尉の呟きには押し殺したような怒りが含まれていた。

「東雲昭道。気に入らないとは思っていたがそこまで屑だったとはな。」

「軍人の風上にも置けない男です。」

コロの言葉に頷きながらも少尉は冷静に思考する。怒りに飲まれれば冷静さを失うからだ。そう思いながらも腹の底にはグツグツと煮えたぎる怒りで満ち溢れていた。そんな中でふと気になったことを口にする。

「…そういえばここにいた亜人排斥派の人間達はどうした?」

「すでに離脱しているようです。」

見ればすでに観客席の亜人排斥派の姿はなかった。警備の人間め、少しは不審に思えよ。がら空きになった一部の観客席をげんなりして見つめながらそう思った。なにやら嫌な予感がしてコロに命じる。

「…この会場の周囲がどうなっているか物見を頼む。」

少尉の言葉にコロは無言で頷くと姿を消した。予想が正しければこの場所の周囲も武装した軍人達が囲んでいるはずだ。自分たちを逃がさないように。

「孤麗、頭は働かせられるか。」

「…大丈夫です。取り乱している場合ではありませんね。」

徐々に状況を理解してきた孤麗が頷く。その姿に少尉は頷き返しながら質問を口にする。

「青龍門は許可なく開けることができるのか。」

「通常は無理ですね。内通者がいたとしか考えられません。」

虫や外部の敵の攻撃を受けないように王都の周囲には高い壁が張られており、一か所ある蒼龍門からの出入りしかできない。今日のような特別行事がある場合は特別に移動がある場合を除いて門は閉まっているのが常なのである。

「だよなあ。5万規模の軍人と戦車を普通なら通すわけないものな。」

いくら門の警備がおめでたいといっても通常なら武装した軍を素通りさせるなんてあり得ない。他にも内通者がいるのではないか。

「軍人以外にも今回の件に加担している人間がいるんじゃないのか。」

「その可能性は十分にあります。」

龍、お前はどれだけの人間から恨みを買っていたのだ。そんなことを内心で思いながら少尉は深い溜息をついた。




                ◇




少尉とコロから遅れてリムリィは少尉達の下にたどり着いた。天龍王が撃たれていることも気になったが、フィフスの様子が心配になってその場に駆け寄った。フィフスは泣きじゃくっていた。剣狼がそれを宥めようとしているが、どうすればいいのか分からずに戸惑っているようだった。

「大丈夫、フィフスちゃん。」

「お姉ちゃん、王様が…どうしよう、私のせいだ…」

自分を受け入れるといったことで王が殺されたことにフィフスは酷くショックを受けているようである。そんな彼女にうまい言葉をかけられずにリムリィは優しく彼女を抱きしめた。嗚咽しながら小さな肩を震わせるフィフスの肩をリムリィは優しくポンポンと叩きながら落ち着かせた。

「剣狼さん、ここはまかせてください。貴方は少尉殿達を手伝ってあげてください。」

「悪いな、頼むぜ。」

剣狼は内心でホッとしながらも少尉のところに歩いて行った。その姿を見送った後にリムリィは横たわる天龍王を見た。数日前までの元気な様子を思い出して自分も泣きそうになる。それを必死に堪えながら彼女はフィフスを宥め続けた。



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