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天龍王暗殺計画(11)

人々が騒然とする中で天龍王は冷静かつはっきりとした口調で言った。

「混虫と妖精族が同族などと愚かなことを口にする者も中にはいるが、それは全く根拠のない出鱈目だ。」

そうはいっても染み付いた固定観念と不安は簡単には拭えない。人々の不審の眼が飛びかう中でもくじけることなく天龍王は根気よく演説を続けた。

「彼女はこれまで妖精族というだけで人間によって迫害されてきた。それはこれからも変わらないだろう。」

その言葉にフィフスは小さな肩を震わせた。怯えているのだ。その姿は何人かの人間に目の前にいるのは化け物ではなく普通の少女なのではないかという疑念を抱かせた。天龍王は安心しろと言わんばかりに彼女の肩に手を置くと続けた。

「俺はこの子を守ってやりたいと思う。妖精族だからではない。今日この場に集まった皆のように、彼女もまたこの国に生きる国民だから守るのだ。」

天龍王の言わんとすることを多くの国民は理解した。妖精族だから守るのではなくこの国に生きる国民だから守る。ようは自分たちと同じなのだ。ならば自分たちが賛同しなくてどうする。だがその決心をつけるには今一歩の勇気が足りない。ほとんどの人間がそう思った。

「不審を抱くものも多くいるだろう。だが、どうか信じてほしい。」

天龍王はそう言って周囲を見渡した。その上で一拍置いてから真剣な表情のまま、次の行動を行った。姿勢を正した後にゆっくりと頭を深々と下げたのだ。その上で言った。

「頼む。」

天龍王が取った行動に多くの者が言葉を失った。最高権力者が公衆の面前で頭を下げたのだ。それに倣うにして隣にいるフィフスも慌てて頭を下げた。その姿に多くの国民が瞠目した。やんごとなき立場の人間が公の場で自分たちのような平民に頭を下げさせている。それは古くから龍人を崇めてきた蒼龍王国の人間にとってはありえない光景だった。静まり返る場内で一人の国民が感極まって立ち上がると同時に泣きながら叫んだ。

「王様、どうか顔をあげてください!」

その叫びを皮切りに会場のいたるところで「なんともったいない」「恐れ多いことじゃ」「私たちごときに」という悲痛な叫びとすすり泣きが聞こえてきた。先祖代々から王家は神聖にして侵すべからずという価値観を持つ国民たちにとって国の象徴である天龍王に頭を下げさせている行為は禁忌に触れるほどの衝撃を与えたのだ。顔をあげるように促された天龍王だが、決して自分から顔を上げようとはしなかった。その姿を見て観客席の別の席から叫びが上がる。

「俺は認めるぞ!妖精族だって仲間だと認める!!」

そう言って渾身の力を込めて拍手を送った。その姿に「俺もだ!」「私も!」と感化された人間達が立ち上がって拍手を送る。その波は徐々に、だが確実に場内全体に浸透していった。割れんばかりの万雷の拍手の中で天龍王はゆっくりと顔をあげて周囲を見渡すと緊迫した表情を緩めて大きく息を吐いた。




                    ◇





その姿を亜人排斥派の貴族と政治家、そして軍部の過激派の軍人たちは苦々しく眺めていた。最高権力者自らが妖精族を保護する。それは軍部の過激派の常軌を逸する行為に歯止めをかけるためのものであるからだ。妖精族は発見次第、混虫との戦いに利用するための人体素体として使用して使い潰してきた者達だ。天龍王が公の場でフィフスを養女とする以上、今後手出しすることは一切できない。その事実に過激派の将校達は苛立ちを隠せなかった。公の場で公表した以上、今後フィフスに害を与えるものは王家に反逆するも同等の罪となり、厳しく処罰されるだろう。




                    ◇




そしてその姿を遠くの建物の屋上から静かに見守っていたものがいた。魔弾の射手である。彼は長距離狙撃用ライフルのスコープ越しに一連の騒ぎを見守った後に静かに溜息をついた。涙ながらに拍手をしている人間達がいるのを見てしまうと国民にこれだけ慕われている王を撃つことに少々の躊躇いと軽い罪悪感を覚えたのだ。

「だが、これも仕事だ。悪く思わないでくれよ。」

スコープ越しに見ているとどうやら国民の説得に成功したようである。ほっとした表情をしている天龍王の姿を確認した後に気持ちを切り替えると魔弾の射手はゆっくりと引き金を引いた。




                ◇




万雷の拍手が響く中で音もなく一発の銃弾が天龍王の心臓めがけて突き刺さった。弾はゆっくりと彼の体を貫通した後に背後の壁にめり込んだ。自分に一瞬何が起きたか分からない状態で天龍王は胸元を押さえた。あふれ出る血が掌から滲んでいく。真っ白な軍服を血の朱に染めながら天龍王はその場に崩れ落ちた。床に血だまりが広がっていく。一瞬の沈黙の後に場内に阿鼻叫喚の叫びが響き渡った。






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