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天龍王暗殺計画(10)

「お集りの諸君、そして諸侯の皆々様。まずは王都の復興に尽力いただいたことに国を代表してお礼を申し上げる。」

天龍王は声を張り上げる。決して無理をして出しているわけでもないに関わらずその声は聞くものを引き付ける不思議な魅力を持ったものだった。

「…とまあ。堅苦しい話は抜きにしよう。ここからは俺の思ったことを話させていただく。国民の皆もそのほうが聞きやすいだろう。」

いきなり礼服の襟を外すと天龍王は砕けた口調で話し始めた。一部の規律を重んじる軍人たちを唖然とさせたが、その様子は観客には好意的に受け止められた。一部の観客席から「いいぞ、王様―」「もっとやれー」といった歓声がかけられる。歓声を心地よさそうに受け止めて手を振りながら天龍王は続けた。

「亜人と人間の差別については俺にも苦い経験がある。」

そういった後に天龍王は一息置いた。

「こないだ行った大衆食堂で飯を食ったときにあきらかに隣の熊猫族のほうがご飯の量が多かったんだ。大盛りかと尋ねたら俺と同じ普通盛だとぬかしやがった。料金は同じなのにな。差別じゃないのかと文句をいったらこう返されたよ。『王様よりこの人のほうが大きいんだからしょうがないでしょう。』とな。あれは差別だ。大きな問題だ。」

真剣に語る天龍王に「どうでもいいだろー」と笑い交じりのヤジが飛ぶ。天龍王はそのヤジに反応した。

「そう、どうでもいいことだよな。俺がいいたいのはそういうことなんだ。本人からすれば大問題かもしれないが、はたから見れば見ればどうでもいいことなんだよ。」

どういうことだ。天龍王の話の真意が見えずに何人かの人間が首を傾げた。天龍王の言葉に疑問を持って耳を傾けているのが分かった。

「体が大きいことだの狼の血が混じっているだの角が生えているだの尻尾が生えているだの。自分と少しくらい姿かたちが違うことが大きな問題なのか。俺はあえて言いたい。そんなものがどうした。人間の本質を見るならば見るべき場所は外見でなく中身のはずじゃないのか。」

冗談から入った話であったが聞いている観客たちは徐々に茶化すのをやめて真剣に聞き始めていた。ざわついていた場内が次第に静まり返っていく。

「先日の戦いや復興の時に獣人が人間に差別をしたか。隣人がひどい目に遭わされたか。その逆に助けられたものも多かったのではないのか。」

その言葉に観客席の一部から「…俺、孤狼族に助けられた。」という呟きが上がった。ほかの観客席からも「私も…」「瓦礫の中にいたのを熊猫族の兵士に助けられたぞ。」といった声が聞こえ始め、次第に呟く声が増していく。天龍王はその声に頷きながら続けた。

「なあ、みんな。よく考えてほしい。お前たちは自分の子供に胸を張って言えるのか。お父さんたちは自分たちを助けてくれた獣人を虐めて暮らしてきた。だからお前もやりなさいと。」

自分のことを言われたかのように幼い子を持つ父親は思った。そんなことをこの子に教えるわけにはいかない。傍らにいるわが子の手を握りながら彼は強くそう思った。


「それが平気で言えるようならそいつこそ差別されるべき真の屑だ。」


王がそういった瞬間に立ち上がって「馬鹿なっ!」と叫びをあげたものがいた。亜人排斥派の軍人だった。ほかの兵士が拘束しようと動きかけたところを天龍王は制止した。あえて意見を言わせようとしているのだ。

「亜人種は人間種より劣る種族です。国家元首たる貴方がそのような危険思想を持つことこそ大問題ではありませんか。」

「何が劣る?同じ人間じゃないか。」

天龍王の視線は冷ややかだった。男は反論しようとした。だがはっと我に帰った。天龍王から感じられる視線の冷たさに自らの身の危険を自覚したからだ。

「亜人亜人というが、俺だって龍と人間の血を引いている。混血を差別するというならば俺のことだって差別するべきだろう。」

「いえ、龍種はほかの亜人種とは違い、高貴な…」

「混ざりものには変わりないだろうがっ!!!」

天龍王の激に男は戦慄した。すくみ上ったともいえた。怒鳴った後に少し冷静さを取り戻した後で天龍王は語りかけた。観客だけではなく、自らに反論した軍人に対しても語り掛けるような口調で彼は訴えかけた。

「俺が作りたいのは人間と他種族が手を取り合って暮らしていける理想郷だ。」

「…理想論ですよ、それは。」

そういった後で軍人は力なく座った。天龍王は哀しそうに軍人を見た後でフィフスに壇上に上がるように促した。護衛に連れられながら恐る恐る彼女が壇上に上がる。傍らに立ったのを確認した後で天龍王は言った。

「彼女は妖精族だ。」

王がそう言った瞬間に群衆がざわめき始めた。中には敵を見るような瞳で彼女をにらむ者もいた。凄まじい数の敵意ある視線にフィフスは思わずたじろいだ。そんな彼女を庇うように天龍王は前に立って擁護した。

「愚かな誤解から危険な種族と認識されているが、彼女は理性ある我々と同じ生命体だ。彼女をこの国の仲間として受け入れるために俺の養子にすると決めた。」

天龍王がそういった瞬間に静まり返った場は大混乱となった。



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