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天龍王暗殺計画(4)

それから孤麗としばらく世間話をした後で少尉は執務室を後にした。帰る前に気になっていた東雲の行方を聞いたところ、少し前から姿を見せないということだった。何か引っかかるものを感じながらも少尉は大本営を後にして王宮へ向かった。

王宮の門兵は大本営の兵とは違って少尉の姿を見るなり最敬礼にて少尉を出迎えた。陸軍と違って天龍王の躾が行き届いているのだと思って尋ねるとどうやらそうではないらしい。聞けば先日の蟲使いとの戦いで少尉にその命を救われた青年だった。王都を守るために懸命に戦い傷つく中で少尉の勇敢な後ろ姿と指示に救われたのだという。噂と違うその姿にこれまでの認識を改めたそうだ。王都の防衛を行っている衛士の中には他にも命を救われたものがいるらしく、少尉を英雄と讃える声も日増しに高まっているのだという。誰からも評価されなくても命を懸けて国家を守る雄々しき鋼鉄の狼。掌返しの評価に少尉は面映ゆい思いを隠せなかった。照れ隠しに王を守る衛士はもっと警戒をするようにしないと駄目だと忠告を入れたほどである。衛士はそれを好意的に受け取りながら王宮内の案内役を呼びに走っていった。

「鋼鉄の狼だと。随分と大仰な呼び名をつけてくれたものだ。」

案内役が来るまでの間に暇になった少尉はふと自分たちの別名を呟いてみた。鋼鉄の狼。口に出してみると思ったよりも恥ずかしかった。顔から火が出そうだ。言うんじゃなかったと後悔していたがコロとリムリィの二人は好意的に反応した。

「少尉殿。僕はお似合いの呼び名だと思いますよ。」

「そうですよ。そうだ、ワンちゃんのロゴマークでもつけますか、剛鉄に。」

そこは狼にしてくれよ。リムリィの提案に苦笑しながらも少尉は思った。狼のイラストのロゴマークをつけるというのも部隊の象徴としては案外悪くない。剛鉄が嫌がるかもしれないが検討の余地はあるかもしれない。そんなことを考えているうちに宮に衛士を伴って案内役がやってきた。時代がかった装束を身にまとった美しい女性であった。切れ長の瞳に見つめられて悩殺されたコロが尻尾を振るのを見て少尉は溜息をついた。彼らのそんな反応を知ってか知らずに女性は恭しく格式を重んじる礼を行った後に笑顔を浮かべた。

「ようこそいらっしゃいました。それでは王宮内にご案内いたします。」

「なんて優雅な姿だ。綺麗な女性は何をしても綺麗ですね。」

鼻の下を伸ばすコロを少尉はその脇を肘で突いて注意した。

「気をつけろよ。うかつに尻を触ろうものならその手が落ちることになるぞ。」

「え、どういうことですか。」

「気づかないのか。彼女とお前は面識があるはずだぞ。」

少尉の指摘に女性は微笑を浮かべたまま、何も言わない。そういわれても心当たりがないためにコロは首を傾げた。仕方のない奴だと少尉は溜息をついた後に種明かしをした。

「彼女は天龍王の近衛兵の『影のもの』だよ。」

「早霧と申します。コロ様にも何回かお逢いしてますね。」

言われてコロはあっと声をあげた。影のものは天龍王からの連絡役として姿を見せることはあっても顔全体を覆う仮面を身に着けており、その正体を知らなかったからだ。まさか仮面の下がこんな美人とは思っていなかった。

「女にいつもうつつを抜かしていても修行が足りないな。」

少尉はそう言ってコロをからかった後に影のものに向かって紙で覆われた包みを差し出した。

「約束(※)のかりんとう饅頭だ。」(※閑話休題 湯煙温泉奇行参照)

「ありがとうございます。」

少尉から包みを受け取ると影のものはホクホク顔でそれを懐にしまい込んだ。そして再び恭しく礼をした。

「では皆様、王宮の敷地内にご案内します。」

早霧がそう宣言すると同時に複雑な装飾を施された西洋風の格子門が開かれる。中に広がるのは凄まじく広い庭であった。唖然とする一同を伴って早霧は王宮内の案内を開始した。


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