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閑話休題 毒を食らわば皿まで(7)

一方、その頃の大本営の執務室では孤麗が不機嫌そうに席につきながら事務仕事を行っていた。不覚だった。最近になって放浪癖も少しは治ったかと安心した矢先に飛び出していくなんて。就職先考え直そうかしら。そんなことを思いながら窓から見える外の景色を眺めた。どこまでも続く青空だった。開いた窓から流れる風も心地いい。いいピクニック日和である。そう考えると余計に機嫌が悪くなってきた。孤麗がそんなことを考えているとは露知らずに部屋のドアがノックされる。

「どうぞ。」

感情を押し殺した冷たい仮面を表に出した後に孤麗はノックした相手に部屋に入るように促した。入ってきたのは若い女事務官だった。

「失礼します。天龍王にご報告したいことがありまして・・・あれ、王の姿が見えませんが。」

「王は所用で席を外されています。用件であれば私が代わりに伺いましょう。」

遊びに行ってますよとは流石に言い難い。内心の苛立ちを隠しながら孤麗は冷静に対応した。女事務官は緊張しながらも報告する。

「それでは失礼ながら申し上げます。空軍基地にてルーデス大佐がまたも無許可でスクランブル発進を行ったようです。空軍司令部より何とかしてほしいと陳情が上がっています。」

ああ、またその話かと孤麗は思った。共犯者に何とかしてほしいなどと陳情するなど的外れだ。孤麗は内心で苦笑いした。どうせ天龍王に唆されて剛鉄まで送ったとしか思えなかったからだ。

「王には私から申し上げておきましょう。ちなみに今回の大佐の戦果はどうでしたか。」

「は、はい。それがスズメバチ3匹を単機で撃破したようです。」

それだけの戦果を挙げるなら自由に発進させてあげればいいのに空軍の幹部達も心が狭いことだ。そう思いはするが口にはしない。沈黙を肯定と受け止めたのか事務官は続ける。

「それから剛鉄に保護された例の妖精族ですが。陸軍の研究機関が引き渡しを求めています。いかがしましょう。」

「王に判断を委ねましょう。」

実際はそのために外出しているのだろうことをある程度察している孤麗は動じない。ただし行くのならば事前に相談くらいはして欲しかった。そうすれば自分も連れていってもらってあの人に逢えたのに。よし、王が戻ってきたらひどい目に合わせてやる。二週間くらい事務仕事をさせよう。孤麗はそう思うことで心の中の溜飲を下げた。そこまではよかった。だが、その後に事務官が口走ったことが問題の発端となった。

「それと大臣がいらっしゃる前で申し上げにくいのですが・・・・」

「なんですか。報連相は悪いことから言うように普段から言っているはずですよ。」

孤麗は静かに事務官を見た。冷めた目をしているために見るものが見れば威圧にも取れる。その冷たい表情を前にして事務官はしばし躊躇った後に思い切って報告した。

「それでは申し上げます!本日のお茶請けとして大臣が楽しみにされていた大福堂のおはぎが何者かに盗まれました。」

「・・・・なんだと?」

ベキリッ。無意識のままに孤麗は握っていた鉛筆を握りつぶしていた。そして鉄面皮の仮面を外した。事務官は短い悲鳴をあげた。その表情があまりに恐ろしかったからだ。孤麗の背中から凄まじい殺気が放たれる。恐ろしくなった事務官はその場から数歩後ずさると逃げるように部屋から去っていった。残された孤麗は肩を震わせて笑い始めた。その瞳にはすでに鬼が宿っていた。


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