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第三話

朝、目が覚めれば全て夢であれば・・・

しかし現実は非情である。


酷い喉の渇きと空腹を感じ、俺は目を覚ました。

寒い時期、独特の鼻の頭が冷たい感覚・・・


目を覚ましてしばらく、俺は考えていた。

ここは何処か? どういう状況なのか? あのゾンビみたいな人間達は

なんなのか? 他に生存者が居るのか? 俺の記憶は・・・? 

いろんな疑問がグルグルと頭を巡る。だが、当然答えなんて出てくるはずもない

考えたってしょうがない。俺は毛布をその場に置き、塔屋の扉を開けた。

眩しいほどの朝の光。口から出る息が、ほんのすこし白くなる。

この格好じゃ寒いな。俺は両腕を手で摩った。


まずは喉の渇き、空腹を満たす必要がある。昨日から何も口にしていない。

当然か・・逃げ回るので精一杯だった。

俺は屋上の際から下を覗く。ここからなら下の状況がよく見える。

少なくともこのマンション周辺にはゾンビの姿は見えない。

まぁ、遠くの方でチラチラ見えてはいるが・・・


とりあえずここから降りよう。俺は梯子に足をかけた。

・・・そういえば。俺は屋上の隅に置かれたゴミを見る。缶詰や乾麺の袋などのゴミだ

ここであの食物を食べた人はなぜ、屋上の隅にまとめて置いたのだろう?

俺なら屋上から投げ捨ててしまうのに。まぁ、あまり意味は無いのかな

俺はハシゴを降りて、非常階段を降り進んだ。


マンション付近の一軒に、文字がくすんで見えない暖簾が掛けられている。

おそらくは飲食店だったのだろう。

短絡的な考え方かもしれないが、もしかしたら飲食店なら

食べ物の一つもあるかもしれない。ガタついた引き戸を開けた。中は薄暗い。

俺は慎重に目を凝らし、中を見る。少なくともここにはゾンビはいないようだ。


数人で囲む小さな座敷席、埃と物が散乱していて、汚れきっているが、

立派なのがわかる木製のカウンター。四脚椅子にも細工の彫りが見て取れる。

俺はカウンターの内側に入り、ゆっくり置いてあるものを確認していく。

カウンターに置いてあるものに、めぼしい物はない。

次に冷蔵庫。もちろん電気など通ってはいない。中に入っているものは

悲惨な事になっているのでは・・・開けない方がいいか。

だが、背に腹は変えられない。食べ物を見つける可能性があるなら

開けるべきだ。俺はゆっくり覗き込むように冷蔵庫を開けた。

・・・中はごちゃごちゃしている。奥の方にちらっと茶色いものがある。

俺はその茶色い物を、なにげに手に取った。


「軽ッ!」


パリパリに乾燥している。

おそらくキャベツだとは思うが、思わず声が出てしまうほど軽い。

ここまで乾燥するのに、どのくらいの時間が必要なんだろう?

とにかくこれは食べられそうにない。他の食べ物であったであろう

物も、同様に乾いている。パッと見ただけでは何の食べ物であったのか

さえ分からない物がほとんどだ。俺は続いて中を漁る・・・


「これは・・・」


中にはペットボトルに入った水だ。ミネラルウォーターと書かれている。

ただ、これは飲めるのだろうか? 管理状態が著しく悪い

管理状態が悪いということは、衛生面が保証されていない事を意味する

不純物が混ざっていないとは言い切れない。もしこのミネラルウォーターが

不純物の混入環境にあれば、当然、微生物なども混入しているだろう。

そして不純物を微生物が分解、その際、毒素に変えてしまう可能性がある。

間違いなく腹を下すぞ。腹を下すだけならいいが、最悪、病気になりかねない

ためらいが胸をよぎるが、喉の渇きは待ってはくれない。

せめて鍋か何かで煮沸してからなら、多少は安心できるんだが・・・

俺はペットボトルの蓋を開け、鼻を近づける。


・・・確か不純物が混ざっていたら、微生物が分解する際に

臭いを出したりするはずだが・・・特に臭いを感じない。

次は味だ。これも同様、苦味や違和感を感じたら、すぐに飲むのを

やめなければならない。俺は意を決し、水を一口含んだ。


異臭も苦味も感じない。


むしろ味を感じるくらいだ。


うまいと・・・・


ただの、常温の水がうまいと感じるッ!


俺はそのまま、ペットボトルを咥え、一気に喉に流し込んだ!

常温の水が口の中を、隅々まで満たし、舌の上を踊るッ!

喉が高らかと、太鼓のように鳴り響き、

まだ流れて行きたくないと、惜しむように食道を通る!

そして短い旅の終着、胃の中に確かに溜まっていくのを感じるッ!!


圧倒的な水の存在感ッ!! 


ほんの少しの満腹感!


喉を潤せた満足感ッ!


そして広がる幸福感ッッ!!


俺には記憶はないが、おそらく生きてきた

人生において、こんなに美味い常温の水を飲んだことはないッッッ!!!



「ぷはぁぁっ~~~~~~・・・!!」



500mlのペットボトルは空になった。

さっきまでの喉の渇きが嘘のようだ。生き返った・・冗談抜きでそう思える。



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