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転生したは良いけれど

転生したは良いけれど

作者: aaa_rabit

 例えば正月元旦に引いたおみくじが末吉だったとか、スーパーのレシートで応募したら当たったとか、良くも悪くも人生なんてこんなもんだよね、としみじみ思い起こされる出来事だ。


 なぜ突然こんな話を持ち出したかというと、とある人物の一生、言い換えると前世というものを唐突に思い出したからである。その彼女の知識によれば、どうやら私は彼女のハマっていた乙女ゲーの世界に生まれたようだ。


 ……が、ここで喜ぶのは早計だ。


 ところで、乙女ゲームをやった事のある人ならば理解して頂けるだろうが、いや、やっていなくても人によって好みがあるのは分かるだろう。アイドルでいう推しメン。オタクでいう俺嫁というのが、キャラクターの誰かしらに該当するはずだ。勿論、キャラクター全員が好きという人もいるだろうし、彼は私のものよ!と主張する人もいるだろう。攻略の仕方もスチルやステータスをフルコンプする人もいれば、自分の好きなキャラクターのエンディングを迎えて満足する人もいるはずだ。因みに彼女は雑誌の前情報などで良さげなキャラクターを真っ先に攻略して、スチル回収の為にスキップ機能を十全に使って全ルートを一通りこなすタイプの人だった。


 話が逸れてしまったが、問題は今の私、ユーリリア・ソレイユの立ち位置だ。太陽の国の中でも筆頭貴族であるソレイユ公爵家の娘であり、御年9つになられるこの国の第一王子フロヴァル・ソーラサスの花嫁候補という肩書を持っている。これだけで察しはつくだろうが、このフロヴァル王子、攻略対象の一人である。一方でユーリリアはその存在だけは仄めかしていたような気もするが正直覚えていない。というのも、前世の彼女はパッケージでフロヴァル殿下と双璧をなす存在である月の国の第三王子、ハイルーク・ルナフォリアがお気に入りだったからだ。フロヴァル王子はゲームのメインヒーローだったなぁと思うくらいで特に思い入れもなく、これが乙女ゲーの世界に転生しても素直に喜べない理由である。




 とはいえ、生まれてしまったからには仕方ない。いずれ、主人公が出て来て殿下が攻略されるかもしれないし、別にそれはそれで構わない。何故なら幼いユーリリアは殿下のことが好きではない……寧ろ嫌いだからだ。なんせこのフロヴァル王子、主人公と出会う18の時には王道王子様らしい性格をしていたが、現在の殿下は糞餓k……いや、とってもヤンチャな方なのだ。それに振り回されるユーリリアはどちらかといえば引っ込み思案で大人しく、嫌なことはいやとはっきり言えない子供である。更には子供だてらに殿下には逆らってはいけないと理解していて、綺麗だからと蛙を贈られたり(卒倒しそうになりながら受け取った)、おやつを奪われたり(ユーリリアの好物だった)と、理不尽な目に遭いながらもずっと耐えていたのだ。好く要素などあるわけがない。


 というわけで早速行動に移すことにした。両親にはこれまで抱いてきた鬱憤や王子の自分に対する所業をぶち撒け、二度と会いたくないことを告げ、王子からのお誘いは全て断ることにしたのだ。物心ついてより初めての反抗を示したことに両親は驚いたようだが、娘の話を聞いて納得してくれたようで、殿下への不敬を咎められることもなく国王には内々に婚約者候補を辞退することを告げたらしい。


 母親の方は娘よりも憤りを感じたらしく、王妃に宛てて“御宅の息子の教育どうなってんだ?うちの娘泣かせて何してくれんだわれェ!?”といった主旨の手紙を出したようだ。辺境の小さな所領を治める子爵家出身の王妃と、現王の異母妹で王太后を母に持ち、更に社交界の花とされている母。何方に分があるか一目瞭然である。非公式ながらも王妃がわざわざ謝罪にやって来た時は驚いたが、本人だけでなく王子を諌めきれなかった侍従や侍女までも処罰されたと聞いては流石に胸が痛んだ。えらく大事になってしまったが、後ろ盾の弱い両陛下よりも名門公爵家の方が力があるので致し方ないというか。そもそも王権が弱体化したのは政治(政略)よりも私情(恋愛)を優先させた現王が悪いのだ。


 ん?いや……そう考えると、ユーリリアを振って主人公を選んだフロヴァル王子も同じ轍を踏むことになるのか。ゲーム内のユーリリアは、少し前までの自分と同じようにあくまで婚約者()()だったが、現状を鑑みればそんなものは建前で、権力を正すためにも王子がユーリリアを選ぶのは必然だったはずだ。それを王族とはいえ異国の、しかも弱小国出身の娘を王妃に迎えたとなれば暗い未来しか想像出来ない。ゲームとはあくまで空想世界で楽しむものであって現実は斯くも厳しいのだ。まあ、仮にゲームのシナリオ通りに現実が進んだとしても困るのは王子でありその妃であって、ユーリリアには関係ないのだから。


 晴れてあの王子との縁も切れた事だ、結婚相手にはもっと素敵な人を……ああ、いっそハイル様(月の王子)でも狙ってみようか。

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