桜の運命
私は今日から高校生になる。その思いで胸がいっぱいだ。楽しみでしょうがない。
春は出会いの季節。どんな出会いが私を待っているのか。
そんな思いを胸に高校の門をくぐった。
校門をくぐると空からピンク色のものが、ひらりひらりと降ってきた。手を伸ばせば手のひらに舞い降りるピンク色。前を向けば、校門から校舎へ続く道にはアーチのように桜の木がピンク色の花をつけていた。卒業した中学にも、学校に着くまでの道にも、桜の木は何度か見かけたが、この学校のように大きな幹が何本も植わっているのは見かけなかった。
私はその中でも一際大きな桜の幹が目にとまった。風に吹かれると枝からはピンク色の花びらが舞っていった。その幹のそばには私と同じように、桜の木を見上げる一人の男の人が立っていた。「きれい」私は思わずそうつぶやいてしまった。私のつぶやきが聞こえたのか男の人は私の方を振り向いて微笑んだ。そして
「この桜の木、この学校にあるどの桜よりも大きいんだよ。だから俺はこの桜が大好きなんだ。いつか俺もこの桜の木のようにみんなに尊敬される存在になりたいと思っているんだ」
と言った。そう言った男の人の目は真剣そのものだった。
「素敵です。絶対になれますよ。みんなが尊敬してくれる存在に」
そう言うと、男の人は嬉しそうに笑って
「ありがとう」
と小さく言った。その顔は少し照れているようにも見えた。そして腕時計を見ると、少し慌てた様子で
「ごめん。もう行かないと。また会えるおまじない。手を出して」
私は言われた通りに男の人に手のひらを見せるように出した。すると、一輪の桜の花が手のひらに落ちてきた。
「この桜はこの木の花なんだ。ほら、俺も持っているんだぞ。この桜が俺たちを繋いでいる。どんなに遠くにいてもまた、巡り合わせてくれる。俺はそう思ってる。まぁ、直ぐに会えると思うけど。一応。な」
そう言って男の人はもう一輪桜の花を見せてくれた。
「ありがとうございます。大切にします」
「おう。じゃあ、また後で会おうな」
そう言い手を振りながら校舎の方に歩いて行った。私は男の人の後ろ姿が見えなくなるまで、立ち尽くしていた。
「かっこよかったな」
ふと周りを見渡すと、人の姿は一人もなかった。
「やばっ。行かなきゃ」
「この桜が俺たちを繋ぐ」さっきの人の言葉が頭から離れない。桜の花を壊れないようにそっとスカートのポケットにしまった。
あ、名前聞くの忘れてた。そんなことを思いながら校舎の中に入った。
これは桜が招いた運命なのだろうか。