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とある男の記念すべき日2

 パーティーを組みダンジョン攻略を再開した俺たちは6階層、7階層目の索敵を終えて8階層目の索敵を始めていた。

 索敵の方法は俺が全速力で走り回るというアナログな方法で行っている。魔術師然とした女は索敵用の魔法は取得していないようで、騎士っぽい男は神殿騎士としての能力で微かに何かを感じる程度だと言っている。どの程度の距離があるのかどうか分からない、虫の知らせといったものだそうだ。

 そこで取られた方法が魔術師然とした女の追跡魔法を俺に対して掛け、俺が走り回り止まった場所に敵がいるか階段部屋であるという方法であったのだ。元々体力に自信がある俺だから出来る所業である。感謝してもらいたい。

 8階層目の索敵が終わり9階層目の階段で騎士っぽい男たちが来るのを待っていた俺は、下の階層から微かに物音を聞いた。


「お待たせしてすみません。それでは次の階層へ行きましょうか」

「あー、下の階から何かの音が聞こえたから気を付けてな」

「なるほど、ついに魔物が出てくるかも知れないわけですね。では見つけた場合は私たちが先に戦闘しますので、待っていただけますか?」

「別にいいけど気を付けてな。すぐに交替してくれていいんだぞ」

「……多分交替しない。……魔法掛け直した……先急ぐ」


 魔術師然とした女から許可が降りたという判断のもと、再び俺は全速力で9階層目の索敵を開始した。

 数分程度経った頃に俺はついに魔物を見つけた。見るからに誰かが部屋に入ってくるのを待っているような屈強な巨体の牛みたいな魔物、いや魔獣といった方が良さそうなヤツがいる。

 今までは廊下以外に小部屋と呼べるような一辺が15メートル程の正方形型の部屋を何度も通ってきたが、今回の部屋は直径で50メートルはあるのではと思うドーム型の部屋だ。完全にココで戦う気が満々の造りなのだ。

 部屋――部屋と呼ぶべきか判断に困るが――の入り口で座り込んでいた俺は騎士っぽい男たちが来るのを落ち着いて待つ。いつでも戦闘出来るように気持ちを落ち着かせているのだ。

 それにしても魔獣からは得体の知れない重圧を感じる。見るからに口から火を噴きそうな頭部。雷撃を打ち出すであろう左腕。何かしらの毒を付与していそうな右腕の曲刀。そして何といっても15メートル程ありそうな体躯。こんなデカい魔物は初めて見た。これが神の力の余波で生まれた魔物なのだろう。こんなのがゴロゴロいるのを想像すると体が震えだす。

 震える体を落ち着けようと呼吸を整えていると何者かが廊下から部屋へと飛び出ていった。


「うひょー、こんなん初めて見たわー。お前はとりあえず俺らの華麗な戦いでも見とけー」

「先に飛び出るなと何度言えば理解するのですか!? 私が先に注意を引き付けなければ仲間が危険になるのですよ!」

「……大丈夫。……認識されてないみたいだから」

「おにーさんは安全なとこでアタシのこと見ててニャー」


 影の薄い男が飄々と飛び出していき、それを凄まじい速度で追いかけた騎士っぽい男。そして浮遊魔法で漂いながら進んできた魔術師然とした女が騎士っぽい男に戦況を報告した。最後に猫的獣人族の女が俺の耳元で囁いてから駆けて行った。

 特に何もしていないと思うのだが猫的獣人族の女に好かれている気がする。それにしても戦闘前なのに緊張感のないパーティーだなと感じた。

 俺は視線を部屋の中へと移した。騎士っぽい男――騎士っぽいというより神殿騎士なので騎士なのだが――が魔獣に牽制攻撃を仕掛けようとしていた。

 騎士っぽい男の剣が淡い黄色っぽい光を纏っている。その光を纏った剣を上段の構えから振りぬく。すると空を斬ったはずの攻撃が魔獣の分厚い筋肉を斬り裂いていた。

 遠くから斬りつけられ血が流れている魔獣が息を目一杯吸い込むような動きを見せる。

 その動きを見た魔術師然とした女はパーティー全員に対して防護魔法を掛ける。魔術師然とした女は魔獣の口から漏れ出ている火から、火炎系のブレスが来ると予想し行動したのだ。

 まだ影の薄い男と猫的獣人族の女の攻撃を見ていないので何とも言えないが、一朝一夕で身につくような連携ではないことが分かる程の素早い動きだ。

 俺は早くスイッチ出来ないかと戦況を見極めようと目を凝らして全体を見ていた。

 息を吸っていた魔獣が限界まで息を吸った結果は咆吼だった。尋常ではない咆吼。その場にいた者が全員身動きが取れなくなる程の状態異常を発生させる咆吼。

 戦況は刻一刻と変わるものだがこれ程までに一瞬で変わるものだろうか。

 咆吼を終えた魔獣は左腕を騎士っぽい男に向けて差し出す。差し出す直前まで電気の奔流を感じさせていた腕。今は筋骨隆々な腕となっている。

 次の瞬間、魔獣の左腕から雷で出来た龍が騎士っぽい男に向かって流れていた。

 一瞬で防護魔法を打ち砕かれていた。

 魔術師然とした女が見せた表情の変化から、通常ではありえないことが起こったのだと読み取った。

 このままでは騎士っぽい男たちが全滅する。そう思った俺は走りだそうとする。


「まじかー! 魔女っ子の魔法が一瞬で消えるとかヤベー!」


 影の薄い男が平然と部屋の中を動いている。

 騎士っぽい男を小脇に抱え、続いて猫的獣人族の女の首根っこを掴む。そのまま魔術師然とした女の所まで走って一箇所に固まる。


「俺らはちょいと休憩するからー」


 軽い口調で交替の合図が飛んできた。

 俺は一気に魔獣の足元まで走り寄り、拳を握り締め、半身の体勢を取る。格闘術を得意とする者が標準的に取る体勢である。

 魔獣の注意は未だに騎士っぽい男に集中しているようで、俺は少し右腕を引き、軽く腰を落とし、引き絞った右腕を上に向かって解き放った。所謂、アッパーカットのような物だ。

 騎士っぽい男の剣撃と同じように空を切る拳だが、攻撃を放ったのが見えない程の速度で拳を突き出している。拳は当てなくても押し出された空気は指向性を得て対象まで届くのだ。

 何か見えない力に顎を打たれた魔獣は少し後ろに後退した。


「やっぱりこれじゃ効かないか……。だったら」


 俺は息を少し吸い込み、すぐに口を閉じ、呼吸を止める。

 後ろで見ている騎士っぽい男たちからは、俺の周りに魔獣を後退させたのと同じような力が働き、石畳だった地面を粉々に粉砕したように見えただろう。

 俺は息を吸い、呼吸を止めることで、全身の筋肉に全力で力を入れた。その状態で、攻撃に必要のない筋肉を弛緩させ、アッパーカットよりも早い速度で6連撃を打ち込んだ。

 その結果、空気を打ち出す反動によって地面が割れてしまったのだ。

 魔獣は目に見えない攻撃を両腕を交差させることで防いでいた。

 俺の攻撃は見事に全て防がれてしまった。俺は今の攻撃の反動で全身の骨が悲鳴を上げている。

 魔獣が右腕の曲刀を全力で振りぬいてきた。

 軋む体に鞭を打ち、再度呼吸を整えて、右足と上半身に力を込める。その状態で迫り来る曲刀を左腕で防ぐ体勢を取る。

 曲刀と腕がぶつかり合い、甲高い金属音のような音が響く。

 音が響いた後、俺は力に競り負け、部屋の壁まで吹き飛ばされた。20メートル強も吹き飛ばされ、打ち付けられた壁が粉砕された。

 魔獣は俺を吹き飛ばして嬉しかったのか少し咆吼した後に、息を吸い込み炎を俺に吐き出してきた。

 魔術師然とした女が予想していた以上の威力のブレスが壁にめり込んだままの俺に向かってくる。20メートル以上もブレスが届くとか何から何まで普通とは違う魔物だ。


「あの攻撃を受けて息してるだけでもスゲーけど、これはダメだわー」

「呑気に状況を見ている場合じゃない! 早くあの人を助け出すんだ!」

「えー、ムリムリー。俺はあのブレスの中を走るとか嫌だぜー」

「……大丈夫。……あの炎の中であの人は歩いてる……やっぱり変人」

「あの人はアタシたちとは違う匂いがしてたニャー」


 俺はブレスを受ける瞬間に息を目一杯吸い込み、ブレスの発生源へと歩を進めていた。

 魔獣のブレスが止まり、炎が消えた所で一気に間合いを詰める。

 ブレスの炎で熱せられた空気では酸素量が足りないが今回は仕方ない。息継ぎを行い、地面が砕けるほどの力で踏ん張り、正拳突きを繰り出す。

 体躯の差からこれでは足にしか攻撃できないが、膝をつかせるのが目的だったのでこれでいい。

 魔獣の左足に当たった正拳突きを引き戻し、魔獣と距離を取る。

 実は新鮮な空気を求めての無意識の行動だった。

 騎士っぽい男たちは未だに倒れずにいる俺を見て驚愕の表情をしていた。

 その理由は正拳突きを受けた魔獣の左足が砕け散っていたからだ。

 俺が長い年月を掛け、尋常じゃない努力をして得た力。自身の受けたダメージを自身の攻撃に乗せる。

 これは尋常じゃない体力を持っていなければいけないことを意味する。そして俺はそれを忠実に守った。その結果が今の攻撃である。

 確かに魔法が使えない。基本的な身体能力も平均的だ。しかし長い年月を掛けて旅をし、蓄積した経験、技術が俺を強くしてきた。

 俺は今の状態なら魔獣を殺せる域の攻撃を繰り出せると確信したので、魔獣の頭に攻撃するために全力で斧旋脚を繰り出した。

 その場で飛び上がり、体を捻り、右足を上段から蹴り下ろす。

 アッパーカットと同じ原理で打ち出された空気が魔獣の頭部を圧し潰した。

 俺は自分の中に何かが流れ込み、気持ちの良い充実感を得てその場に倒れた。


  ◇◆◇


 聞いた話によれば魔獣を倒した後、俺は糸の切れた人形のように崩れ落ちたらしい。

 その後、慌てて騎士っぽい男が回復薬を飲ませようとしたが、俺に飲み込む力すら残っていない状態で本気で焦ったといっていた。

 そして猫的獣人族の女が騎士っぽい男の回復薬を奪い取り、自分の口に含み俺に飲み込ませた。

 どうやら追跡魔法は俺ではなく俺の服に掛けていたので効力があったらしいのだ。つまり俺自身には魔法が効果を持たないという。

 そんなこんなで俺たち――主に俺――は魔獣の討伐に成功したのだ。

 一先ず疲労度が限界に近いため――主に俺の――ダンジョンの入り口まで戻ることにした。


 ダンジョンの入り口――無駄に広い神殿――まで戻り、騎士っぽい男たちは自分たちにはまだ早すぎるという理由で攻略を諦めて帰っていった。

 去り際に名前を名乗っていていたが、あまり必要そうになかったので聞き流していた。

 一人になった俺は新鮮な空気を大量に体内で循環させ疲労を回復させていく。

 もちろん再びダンジョンに入り、まだ見ぬ魔獣たちと戦うためだ。

 9階層目であの強さの魔獣である。16階層目まであるとすればどれ程の魔獣がいるか想像して、俺はやる気が漲ってきた。


 俺は幼少の頃から自分の名前のせいで酷い目にあってきた。

 それから俺は周りの人たちを見返すために武器を使わず己の体のみで戦う格闘術を覚えた。

 毎日毎日魔物相手に死にそうになりながら格闘術を練習し、肉体、技術を磨き続けた。

 次第に家の周りの魔物を倒せるようになってきて、その技を周りの人たちに披露して笑われた。

 また傷つけられた俺は、更に技に磨き、笑うことすら出来ない領域に行ってやろうと決意した。

 そして家の周りでは練習にならなくなり世界を歩いて回る旅に出た。

 この後、色々な所でダンジョンを制覇したり、闘技大会で優勝したりしながら旅をして、並のダンジョンでは練習にならない程にまで成長していたのだ。

 たまたま立ち寄った宿屋で神々が作った神殿がダンジョンとなってしまい、制覇してくれる者を探している国があると噂を聞いた。

 この噂の国がこの王国だったのだ。確かに噂通りで一筋縄では行かない難度のダンジョンである。しかし、この程度でなければ練習にならないのだから仕方ない。

 一通り休憩が済んだので、体の調子を確認しつつ俺はダンジョンへと入っていった。

やはり慣れない作業のため、前の話に思った以上の誤字脱字があり、恥ずかしい限りでした。書く速度が遅いので、これからも読んで下さる方が居ましたら、私と同じように物語の先を妄想しながら待って頂ければと思います。精一杯妄想して書いていきます。今回の投稿分で読み始めて下さった方は、私の駄文では面白くなかったかも知れませんが、今後も頑張って書いていきますので、これからもどうかよろしくお願いします。というかこの程度の文章量じゃあ面白いかどうかなんて判断出来ませんよね。頑張ります。

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