知らなかったでは言い訳になりませんのよ
「いい加減泣くのはみっともないのでやめていただけませんか?」
私がこの言葉をこの方にぶつけたのにはわけがあります。
この方リリアーナ様は、私のお兄様と遊んでらっしゃいました。
遊んでいたとは語弊があるかもしれませんが私から見ればそんなものなのです。
お兄様には婚約者がいらっしゃいました。
きっと私目線でなければ悪女として扱われていたのでしょう。
その方は私にとってお姉様で、名はグレース様というのです。
お姉様は、いくらお兄様が仕事を投げ出しリリアーナ様のもとへ通っていても怒りもせずお兄様の仕事をやっていました。馬鹿なお兄様はその仕事はお兄様の下のものがしていたと思っていたようですけど。
「ティーネ!違うんだ。悪いのは私なんだ。」
「お兄様は黙っていてください。これは私達の問題です。」
お兄様はお兄様自身が悪いと申していますけど当たり前ではないですか。誰が悪いとは一目瞭然です。第一にお兄様、第二にリリアーナ様に決まっています。ですが今この場にお兄様がいる必要はありません。お兄様がいては話になりませんから。
「お兄様には悪いですがこの部屋から出て行ってもらえますか?」
「な?!いくらティーネに言われようと出て行くつもりはない。」
「これは私達の話と先ほども申し上げました。今この場にはお兄様は邪魔なだけです。そしてお兄様がいらっしゃると話しが出来ません。・・・あぁ、そういえば先ほど陛下がお兄様のことをお呼びでしたよ。何故かお兄様の返事が無いらしく私の方に回ってきましたが早く行かれた方がよろしいのでは?」
「後で、お前には話しがある。」
負け犬の遠吠えのような感じでお兄様は出て行かれました。
さぁ、私もリリアーナ様と話したいのですけどまだ泣かれているようですね。では、何故このようなことが起きたのか説明しておきましょう。
まず、リリアーナ様は男爵家の方です。お姉様は伯爵家の方です。そして私たちはこの国の王子と王女にあたります。問題は、側室候補のリリアーナ様をお兄様は正室にしようとしたことなのです。お姉様は生まれた瞬間からお兄様の婚約者でした。もちろん候補の期間も一時期ありましたが他の候補の方々にいろいろありお姉様が婚約者と位置づけられました。
ですが、リリアーナ様はあくまでも側室の候補なのです。側室となるかもわからない女性を寵愛するのは甚だおかしいのです。この国の国王陛下と王妃様そして宰相が側室選びをします。他の国は知りませんがこの国では好きな女性を側室として向かえるという習慣はもうありません。しかし、お兄様はお姉様と婚約を破棄しリリアーナ様を正妃にしようとしているのです。
お兄様曰くリリアーナ様は側室の中の小花なのだそうです。小花の意味がわかりませんがお兄様は勘違いをおこしているようなのです。側室候補に残っている方々がそんな弱弱しい今にも死にそうな女性であるはずがありません。はっきりいって騙されているのですよ。
すみません。私の感情が入りすぎました。
って、まだ泣き止んでいませんの?
いい加減にして欲しいですわ。私とお姉様とのお茶の時間が短くなってしまいます。
泣いたってここにいる者たちは、誰もリリアーナ様を助けることはいたしません。一体誰を思って泣いておられるのでしょうか・・・。お兄様ですか?それともこんな悲劇の主人公になったような気分に酔った自分自身に泣いているのでしょうか?
どちらでもよろしいですが泣きやむことは出来ますよね。はっきりと申し上げた方がよろしいのかしら。泣いたとしてもリリアーナ様が正妃になることはないと。
「・・・な、何故私とあの方を引き離そうとしてくるのですか?」
あら、やっと泣き止んではいなかったようね。何かしゃべるのでもう泣き止んだのかと思いましたわ。しかも質問はそれですか・・・。まさかそんな今どき幼子でも何故かぐらい知っていますわ。リリアーナ様はあれでも男爵令嬢なのに少し残念です。そのようなことを聞いてくるなんて・・。
「考えたことはありませんでしたか?側室候補の方々が実家に帰ったとして、もし寵愛されていたとしたらその方に子供が宿っていたとしたらその子供がどうなるかと考えたことはありませんか?」
「えっ・・・」
「その子供は、王家には属さず反乱分子の無い貴族のもとへと養子に出されます。男女関係無くです。」
「そんな!ひどい・・。」
って、言っていますが何故そのことをリリアーナ様は知らないのですか?このことは貴族であるなら誰でも知っていることです。まず初めに親であったり教師であったり習うことです。リリアーナ様は今までなにをしていらっしゃったのでしょう?
「なにをひどいと思われているのですか?その子供が政治に使われないための最善の方法です。」
「使うなんて子供はものではありません。」
もうこの方嫌です。話したくもないし、話す価値もありません。お兄様はどうしてこの方と一緒になりたいと思ったのでしょうか?私には理解がしがたいです。この国の歴史を文化を何一つ知らないではありませんか・・・。この方は教育機関にも行ってらっしゃるはずです。これも貴族の義務ですから。
「これ以上あなたと話す必要はありません。この国の歴史を知らないような方と同じ空間には居たくありませんので。」
「最後に一つ忠告をしておきます。これであなたとお兄様どうなろうと私は知りません。この世界では知らないは言い訳になりません。それだけは忠告しておきます。」