閑話『ビルス軍戦いに敗れる』
閑話はやはり難しい……約5000文字も使ってしまった……
「ここで一旦休憩とする!」
俺の一言で軍の連中はそれぞれ座ったり武器の手入れをしたりして休んでいる。
俺は今回の『ノンスール王国侵略軍』の大将を任されている。
その実力と軍の指揮を見込まれて任されている。
今この場所はビルス帝国とノンスール王国を分けている山脈の唯一の道を通った後だ。ここからノンスール王国まで普通に歩けば一、二日でたどり着けるだろう。
そのためにもここでしばらく山道を歩いた疲労をとって置かねばなるまい。
そうして俺もドカッと地面に腰を降ろし休む。
さて、食料などまだまだ余裕はある。もし足りなさそうでもノンスールで食料を奪えばいいだけだ。
あとノンスールの軍の規模だが、女王直属の偵察兵は壊滅と言って……
と、いろいろ考えていると視界の端でなにかが光った気がした。
俺は視線をそちらへと向ける。
兵士たちも光りに気づいたようで同じ方向を向いている。
光りの根源はあの森の中だ。
ここからノンスールまでは草原なのだが、ここからすぐ左には森がある。
それにしてもあの光りが気になるな。偵察ならあんなへまはしない。
俺は偵察部隊に指示を出すことにした。
「おい! 偵察部隊ちょっと今の光りの原因を見て来い」
「了解! 行くぞ!」
偵察部隊の隊長が返事をして自分の部下に声をかける。
偵察部隊約五十名はササッと動き連れてきた馬に跨り森へと目指す。
本当になんなんだろうか? 偵察ならあんなあからさまなへまはしない。もしかしたら誘ってるのか?
そんな俺の不安を嘲るように空は青く澄み渡っていた。
と、そのときだった。
目を開けていられないほどの光りが当たり一面を白く包む。
俺も腕で目を完全に覆い、目がやられないようにする。
普通なら目を完全に覆うなど自殺行為だが、この光りは少しでも隙間を開けて見たら目を失うかもしれないほどだったので仕方がない。
俺は目をギュッと瞑ったまま腕を少し緩める。
瞼の向こうから光が差して来ないことを確認すると腕を外し目を開ける。
未だにチカチカする目で森を見る。
森は綺麗な緑色が一面に塗られており、それが風によってゆらゆらと揺れている。
だが、そんな自然な光景に見合わない鈍い鋼色をした鎧がいた。
「な、なんだあれは?」
俺は思わず声に出して驚いた。
鎧がいたことは別に驚いていない。
いや、驚いたがそこまでだ。
驚いたのはその数。森からはみ出ているやつだけで百体はいるだろう。
全員森の中を向いているということはまだまだ味方がいると考えてもいいだろう。
なんだ? なにが起こっているんだ?
一瞬にしてあの百体にもおよぶ鎧が森から出てきたのか? いや、あんなに重い鎧を着て素早く動けるはずがない。
いろいろ疑問は浮かんで不安になるが、それは決して表に出さない。
大将が不安がっていたら兵士たちも不安になるだろうからだ。
俺は固まっている兵士たちに指示を飛ばす。
「全員陣形を組め! 警戒態勢だ! 何が起きても対処できるように構えておけ!」
俺の一言で兵士たちは歪ながらも陣形を完成させる。
本当にこいつらはこういうの苦手だよな。戦いは大好きですごいのだが……
って今はそうじゃない。
あれはなんなのか。俺は偵察部隊に帰還の命令を出そうとした。が、
がちゃ
鎧が頷く音を立てた。
次の瞬間こちらへと振り返って走り出した。
鎧を着ているとは思えないようなスピードで走る鎧たちに遅れをとった偵察部隊は一瞬にして全滅する。
しかも鎧は森から溢れるように出てくる。全く同じ鎧が数百……悪夢だ。
俺は冷静に指示を出す。
「総員戦闘準備! 迎え撃て!」
兵士たちは、オォォォオオオ!!!! と雄たけびを上げ自らを鼓舞する。
俺は続けて指示を出す。
「重装備部隊は前線で鎧を食い止めろ! 軽装部隊は槍に持ち変えて攻撃! 魔法部隊は『奥の手』を使え! あいつらは強い! あの重装備であの動きをすることからたやすく想像できる! 最初っから全力で行け!」
そういうと同時に敵と同じように鎧で全身を包んだ重装備部隊が前に出る。山道で消耗しているからここで休ませようと考えていたのだがな……
後ろでは軽装部隊が武器を剣から槍へと持ち変えており攻撃できるよう構えている。
魔法部隊は数十人の魔法使いが五つのグループに分かれそれぞれ詠唱を行っている。
鎧の集団はもはや軍隊と呼べるほどの規模になっていた。
およそ八百以上だ。あの強さでこの数は手ごわい。
相手の手ごわさを感じてかこちらの兵士たちは‘笑っていた’。
そして数秒後。
重装備部隊が敵と接触した。
重装備部隊は大きな盾で敵の斧での攻撃を防ぐ。
が、力がかなり強いのか押し込まれそうになる。いやいやこちらもかなり訓練させているのだが……
敵の強さにおそろしさを感じながら自分が戦場に行けないのを歯がゆく思った。
重装備部隊の後ろからは軽装部隊が隙間から敵を槍で突いている。
鋭い一閃がいくつも何度も飛ぶが、敵は怯むことなく攻撃を続ける。なんて精神力だ。あんな鋭い槍を食らっていたら鎧なんてすぐに穴が空くぞ。
恐怖を感じない敵にこっちが恐怖を抱きながら見ていると槍が敵の鎧の心臓部を貫いた。
よし!
目の前の重装備の兵士も倒したと確信したのか少し気を抜いた。
そのときだった。敵は斧を振り上げ重装備兵士の頭を真っ二つにした。ヘルムごとだ。
槍は一瞬呆然としたがすぐに攻撃を再開する。
敵は心臓を貫かれたんだ。すぐに死ぬ。
そう思ったのだろう。何度も何度も突き刺す。
だが、敵は怯むどころか槍に向かって歩んでくる。
そこに重装備兵が割り込み盾となる。
が、しばらくすると盾が消耗していたのか壊れて重装備兵がやられてしまう。
そんな状況がそこかしこで起こり始める。
敵は槍を滅多刺しにして鉄屑とすると動かなくなる。
逆にそこまでしないと反撃してくるのだ。
それと一番気になったことがある。鎧の中身がないのである。
俺は思った。そうかこれはゴーレムというやつか。どうりで恐怖などないわけだ。
だが、それを知ってもあまり意味はない。対抗手段など壊すくらいしかないからだ。
数はこちらが圧倒的に有利だが、だんだんとこちらが削られていく。
前線がどんどん押し上げられる。
くそ!
と、思ったところで上空に氷の大岩が五つ現れた。
俺は魔法部隊を見る。魔法部隊隊長がグッと親指を立てる。
よし! 奥の手が発動した!
魔法使い数百名で行う極大魔法。
やがて詠唱が終わったのか五つの氷の大岩がくっついて氷山のようにでっかい氷が出来た。
魔法使いは杖をかかげ、なにやら唱えると氷山の一部が剥がれる。
それは槍のように先端が鋭く、とても大きかった。
それが数個出来る。そして数人の魔法使いが杖を降ろすと氷の槍も地面に向かって勢い良く落ちていく。
そして敵の鎧に突き刺さり、一撃で行動不能にする。
よし! これで反撃できる!
「重装備部隊! 魔法部隊の用意が整った! あとは防御に専念してくれ! 軽装部隊は敵の攻撃を阻止する形で攻撃を続行!」
今までも防戦一方だった気がするが改めて言っておく。
重装備部隊と軽装部隊はいわれた通り防御に専念している。
重装備部隊は盾を使い、相手を押してよろけさせたり軽装部隊は振り上げた腕の肩を狙って重心を変えたりと様々な方法で攻撃をさせない。
その間に魔法部隊の極大魔法により敵は殲滅されていく。これなら時間の問題かもな。そう思っていた。
「俺の金どうしてくれとんじゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
突然の叫び声に顔を向ける。
そこには森から出てきたであろう少年が荷車の上で立っていた。
荷車を引いているのと左右にいる白い鎧はこいつらの仲間か?
そう思っていると少年はゴソゴソとなにかを取り出してなにかをその中から出して叫び始めた。まさかあの白いものは……
「【ここに……白金貨……枚と引き換え………忠実……魔法……………する。いでよ! マイトス!】」
最後の思いっきり叫んだところ以外は鉄がぶつかり合う音であまり聞こえなかった。が、やっぱり取り出したのは白金貨か。
少年がそう言うと白金貨は光り輝く。思わず目を瞑る。が今度はかろうじて薄目を開けれている。
光がおさまりしっかり目を開けると少年の横に漆黒のローブを羽織った者が立っていた。
あの少年がこいつらの親玉か。
そう思ったらマイトスと呼ばれた者が杖をかかげて詠唱をした。
一人で何が出来るんだ。そう思っていた。
が、次の瞬間空いた口が塞がらなくなった。
マイトスがかかげた杖からメラメラ……いや、轟々と燃え盛る炎が吹き出た。
それは絶えることなく出続ける。
少しするとその炎はなにかを模した作りになってきた。
「あ、なんだあれは!」
俺は目を見開き驚愕した。
ドラゴン……いや、ドラゴンはあんなに胴体が長くないし翼が生えている。
俺はチラリと魔法使いたちを見る。
魔法使いたちは皆が皆上空を見つめて驚愕している。魔法使いたちも知らんか。
魔法使いたちは驚いているが詠唱は途切れない。さすがは我らの国の兵士だ。だが、氷山から槍となるものを削りとっても細いものだとすぐに融かされてしまう。
やがてそのなにかは空を覆い尽くすほどの長さになる。何度も空中を行き来して空を満たす。
だが、地上は太陽の光が遮られて暗くなることはなかった。
あたりはオレンジ色、いや赤色に包まれていた。
それに伴って異常なほどの暑さを感じた。俺は比較的軽装なのだが汗が吹き出る。これでは重装備部隊は動けなくなってしまう。
と、上空にいるだけでこちらに被害をもたらすやつが動き出した。
そいつは一直線に氷山へと向かっていき、あの氷の山を‘呑み込んだ’。
俺たちの軍は一瞬呆けて動きが止まってしまった。
あの極大魔法が一撃で……
だが目の前の敵は待ってはくれない。すぐに軍は我に返る。
ここで俺は考えた。
このままだといずれ俺たちは全滅だ。
女王様は勝てない敵に会ったら情報を持ってすぐに帰れ、と言っていた。
今まさにそのような状況だ。
あの鋼色の鎧の大軍にはビルス帝国の一般兵は及ばない。
中隊長クラスでなんとか張り合えるくらいだろうか。今日いる大隊長クラスならかなりの数を相手に出来ると思うが、あいにく俺を合わせても三人しかいない。
あの極大魔法を潰すほどの大魔法使い……いや、あれは噂に聞く大魔導師だろうか? あんなのがいたんじゃ確実に負ける。
ここは一旦引いて城で戦力を整えたほうがいい。
中隊長クラスを中心に編成すればかなり戦えるだろう。もちろんその間城を空にするわけにもいかないので最大で半数くらいか。
そこまで考えて俺は撤退の命令を出すことにした。
「撤退!」
出来れば戦いたかった。
俺たちはより強い敵と戦うことが至高の喜びだ。
だが、こうして負けるなら撤退しろと命令が出ている以上そんなことは許されない。
ああ、そういうことか。こういう状況で客観的に見れるから俺を今回の大将に任命したのか。確かに武力で言ったら他の人になるはずだが、そうすると軍が壊滅になるかもしれない。
俺はそんなことを考えながら前へ出ようとする。俺と大隊長クラスの二人と中隊長クラス数人でなんとか殿を務めようとする。
が、俺は中隊長の一人に止められた。
「大将は女王様に報告してください! 殿は我々が務めます!」
「いや、報告は誰かがやるだろうしお前らだけじゃ心配だ。俺も行く」
俺は制止しようとしてくる中隊長を押しのけ前へ出る。
が、今度は肩を掴まれた。
「ダメです! お願いします! 俺の最後の望みです! 我々をここまで育ててくれた大将にせめてもの恩返しがしたいのです!」
「いや、ほかの者は……」
俺は熱烈にアプローチする中隊長に困惑しながら言い訳をする。
「全員の総意です」
ビシッと言われてしまった。
俺はその熱意に負けた。
「……分かった。お前らに指示を出す! 殿を務め、無事生還せよ!」
「……はっ!」
そう言って中隊長は走り去った。
俺はすぐに踵を返し逃げている兵士に叱咤する。
「速くしろ! 殿を中隊長たちが務めてくれている! 少しでも速く逃げろ!」
と、後ろで叫び声がした。
俺は振り返った。
そこには数多の戦場を駆け巡った歴戦の猛者が血を噴出し倒れ伏していた。
その目の前には神々しささえ感じる純白の鎧がいた。
と、姿が消えた。
気づいたときには大隊長がそいつに剣を振りかぶっていた。
が、数回の攻防で押され始め、やがて同じように倒れ伏した。
俺は前を向いて走った。
俺たちはこうして戦いに敗れた。
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