第三十三話『綺麗な心』
俺は目を開けて、素早く警戒態勢に入る。
アヴァロンも俺とエイクとプリルを守れるように近くに来ている。精霊は俺の後ろに隠れている。
俺は周りを見渡す。
すると、俺らが向かう方向からボロボロになりながら走ってくる冒険者風の男がいた。
男は俺らの近くまで来て俺らを視認すると前のめりに倒れた。
ほっといてもいいが、男の傷が気になった俺はエイクに情報収集に行かせた。
「エイク、あの男にこの先でなにがあったのか聞いてこい」
「わかった!」
尻尾があったらブンブンと振り回しそうな勢いで飛び出して行った。
男との距離は二十mほど。
エイクは瞬時にその間を詰めて近寄るとしゃがみ、男となにか話す。
しばらくすると立ち上がり戻ってきた。いつの間にかすごい脚を手に入れたな。
エイクは喜々として報告した。
「えっとね、この先でビルス帝国がノンスール王国をしんりゃく? するために歩いてるんだって。あの人はその人たちにやられたんだって」
エイクは内容が分からないからか報告したことを、褒めて! とでも言うように俺を見つめている。
俺はエイクに、情報が足りん俺が行く、と言って俺自ら荷車を降りる。
エイクはシュンとしながら、プリルは、なんで? と首をかしげながら俺について来る。精霊たちには、無闇に人前に出るな、と言っているので荷車でお留守番だ。
俺はアヴァロンを男との間に挟み、対面した。
男が呻いているが気にしない。
「おい、なんで冒険者なのに通してくれないんだ?ちゃんとギルドカード見せたのか?」
ギルドカードはその人物の身分証明書のような物だ。
それにギルドは世界中にある一大勢力だ。ちゃんとギルドカードを見せれば通してくれるはずなのだが……
男は苦痛に歪んだ顔を俺に向けるとわずかに首を縦に動かした。
俺は違う質問をする。
「なんで狙われてるか知らないか?」
男は苦しそうにしながらも答える。
「ぐ……ノンスールを落とした人物が判明しないから……っ、下手に通すと、国がそいつに滅ぼされる、とか……言ってたぞ……」
ふむ、そういうことか。
男は、助けてくれぇ、と弱弱しく鳴く。
俺はそれに目もくれず顎に手を当て考え、結論を出した。
とりあえずその国は潰せばいいか。
ただ、今回は油断しない。あくまで冷静に行こう。
俺は踵を返し荷車へと戻る。
男? いや、別になにも求められてねぇし、あいつが交換条件とか言わなかっただけだし。
それにしても狭い道で軍隊が来ているのか。これは勝てる確率が大きいな。狭い通路なら戦える数は限られてくる。魔法で支援するとしてもアヴァロンだ。障壁でなんとかするだろう。
っといつの間にか立ち止まって考えていたようだ。俺は再び荷車へと歩を進める。
近くに来たところで荷車に乗り込む。
と、そこで人数が増えていることに気づいた。
俺は若干怒気を混ぜた声で言った。
「おい、なんでそいつを連れてきた」
男を介抱していたプリルはビクッと肩を震わせ縮こまる。
そんなプリルの代わりにエイクが答える。
「し、死んじゃいそうだったから……」
震える声で尻つぼみになりながらも言い切った。
俺はそう答えたエイクをよりきつく睨みつけると慌てて、でも! と付け加えた。
「お金をもらう約束をしたよ!」
「ほぅ」
分かるようになってきたじゃねぇか。
俺の目から一気に怒気が抜けたからか、エイクは急に調子がよくなり胸を張る。
俺は続ける。
「いくらだ?」
「千キュール!」
俺は無言で奴隷に対する力を使い、エイクを苦しめる。
あたたたたた、と荷車の中を転げまわる。
しばらくそうして俺は苦しみから解放してやる。
はぁはぁと息が乱れたエイクに冷たく一言。
「もう一度交渉してこい」
「は、はい!」
エイクは俺に対して敬礼するとすぐさま男に近づいた。
まあ、千キュールも本当はかなりの大金なのだがな。
実際俺の持ち金がおかしいだけだ。一般人からしたら白金貨は一生に一度拝めるかどうかほどの大金なのだ。
……神様、金めっちゃくれたんだ……
今更ながら思った。
と、エイクがまた俺に向き直った。
「交渉してきたよ!」
喜々として言うので、最低でも一万キュールは交渉出来たのだろう。
俺は、いくらだ? と問うた。
エイクは、へへ驚くなよ、と前振りを入れてから金額を言う。
「なんと……二千キュール!」
俺は立ち上がり男を抱きかかえ、荷車から落とした。
「……え?」
エイクは、なんで? といった顔をしている。
落とされた男は苦痛に顔を歪め、こちらを忌々しそうに見ている。
俺はそいつに向かっていくらかの‘食料’を投げた。もちろんぼったくり料金だが。
「二千キュールならそれだけだ。金はノンスール王国の王宮にいるこいつと同じ鎧のやつに渡せ」
俺はアヴァロンを親指で指しながら言う。
ポカンとしている男を完全に視界から外し、行け、とアヴァロンに命じた。
しばらく進むと後ろから、ありがとうございます! と大きな声が聞こえてきた。そんな声出るなら平気だろ。あと感謝するなら金払え。
俺はそう思いながら荷車の中で寝転がった。両手を頭の後ろで組み、空を見上げる。
そんな俺に精霊たちが物陰から出てきて俺の体の上に寝転がる。
うつ伏せでぐて~としている者や、大の字でくつろいでいるやつ、俺の股間あたりで寝ているやつ……スーラか。
俺はスーラをデコピンで落とす。
スーラはその小さなおでこに両手を当てて、いてて、と言っていた。
俺はそのまま視線をエイクたちに向ける。
するとエイクは俯いてなにか真剣な顔をしていた。
俺の視線に気づいたエイクは俺をまっすぐ見つめ、口を開いた。
「兄貴は……人助けしないの?」
「ああ、人間嫌いだしな」
俺は即答した。
本来答えてやる義理もないのだが、精霊たちに和まされた俺は普通に答えた。
今度はプリルが入ってくる。
「なんで人間が嫌いなんですか? わ、私たちも嫌いなんです……か?」
最後は小さくて聞き取りにくかった。
が、俺は話しの流れから言葉を予想し、答えた。
「人間は卑しい生き物だからだ。お前たち子供は素直で卑しくない。だから嫌いではない。
……お前らは大人になっても汚い心を持たないでくれよ……」
「え? なに?」
「いや、なんでもない」
俺がそう言うと会話は途切れた。
ずっと素直で綺麗な心……か。無理な話だな。
そう思った俺はアヴァロンに、敵を見つけたら起こせ、と命令して眠りについた。
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