第三十一話『城陥落翌日』
夜の闇に白い光が眩く光る。
光がおさまるとそこには漆黒のマントを風になびかせ、これまた禍々しいほどに黒い二mほどある杖を両手で持つ鎧騎士が現れた。
高さはアヴァロンとブライよりやや低く、百七十ほど。頭はブライと同じように丸っとしているがブライほど大きくない。小柄な頭だ。
胴体はアヴァロンのようにスラッとしている……いや、細すぎる。胸当てのようなものもなく、とても軽装だ。まあ、全身鎧だから普通は重装備なのだが、他のやつに比べると、な。
と、そこで俺は思い出した。神が俺の望むものがあると。そして呼び出したときの言葉を。
俺は早速マイトスに質問した。
「お前は魔法使いか?」
「ハイ、私ハ魔法使イデス」
やや、アヴァロンより片言がとれた感じで話す。
こいつも話せるのか。
てかそれよりも魔法か。
ん? そこまでテンションが上がらない。
どうしたんだ俺?
まあ、いいや。
俺はアヴァロンをしゃがませ、マイトスに触れる。
白金貨に戻れ、と念じるとマイトスが消えた。
だが、手の中には白金貨がない。
あれ? と思いなんとなくアイテム袋の中身をチェックする。
中には白金貨が三十五枚入っていた。
アヴァロン十体で十枚。今持ってるのが五枚だからちょうどか。どうやら騎士を貨幣に戻すとアイテム袋に戻るようだ。便利すぎやしないか?
ま、気にしないでおこう。
俺はそう思いながらまたも俺とアヴァロンのみになった、この場で息を吐いた。
俺はしばらく考えた後城に戻ることにした。
「アヴァロン。戻るぞ」
俺がそういうとアヴァロンは無言で頷き城へと歩みだした。
城へ戻り、謁見の間へと向かう。
チビ共がアヴァロンに向かってなにか喚いている。
チビ共は不意に俺の方を見て、俺を見つけると駆け寄ってきた。
俺はアヴァロンの肩に乗っているためチビ共を見下ろす形になる。いや、普通でも見下ろすが……
「ねぇ? お怪我は大丈夫なの?」
目をうるうるさせ、不安そうにチビ共の中の一人の少女が問う。
俺は、見てみろ、とわき腹を見せる。
チビ共は一瞬にして顔を綻ばせ、泣き始めた。
しかし今回は悲しい顔ではなくて笑顔で泣いている。器用なやつらだ。
さて、これからどうするか。
とりあえず兵士は全員無力化しているからいいとして、貴族共だな。
俺はチビ共に、少し離れろ、と言うとアイテム袋を腰から外し、目の前で逆さにした。
『白金貨五枚』と念じてアヴァロンを五体召喚する。
「貴族を縛り上げて来い。殺すなよ。ほどほどに痛めつけるのは許す。そんで縛り上げたやつらはこの謁見の間に放り込んでおけ。終わったら俺のところに戻って来い。以上だ。行け」
俺がそう言うとアヴァロンは頷いて散って行った。さて、
「よし、チビ共。行くぞ」
「ん? どこにだ?」
満面の笑顔を俺に向けてくるエイクがそう問う。
俺はそれを一瞥して城の出口へと向かう。
「そりゃ、決まってるだろ。宿屋だ」
俺たちは白み始めた空の下自分たちの寝床へ向かって歩いていた。
俺はアヴァロンの肩で空を見上げながら物思いにふけていた。
あ~、俺なにやってんだろ。
チビ共連れ去られて戦力とか考えずに乗り込んで今回はなんとかなったけど最後に深傷を負って。
相手の戦力とか考えずに乗り込むってこれで三回目だわ。
ったく自分の学習能力のなさにがっかりするわ。
まあ、最終的に全部なんとかなったから結果オーライってことで。
今までの行いを軽く反省していると宿屋についた。
「おい主人はいるか?」
俺はアヴァロンから降りて宿屋の扉を開けながらそう言う。
中はなかなか綺麗に片付いていて、奇跡的に無傷だった椅子と机が数個あるだけだった。
すると二階から、おういるぜー、と大きな声が聞こえた。
俺は中に入る。
そして二階へと上がる。
自室へと赴くと主人がせっせと掃除しているところだった。
「おうお前ら!無事だったようだな!」
主人は俺らを見てそう言った。
そういえば寝てないと思った俺は特に返事をするわけもなく、部屋のベッドに倒れこんだ。
「あー、さすがに疲れちまったよな。分かった!ゆっくり休めよ!」
そう思うなら静かにしてくれ。
と、心の中で言って俺は眠りについた。
翌日。
町は大騒ぎだった。
城が落とされた。
外の城壁は突破されたのか?
いや、城だけ壊滅されたそうだ。
違うぞ、城壁のほうの兵士も壊滅させられてる。
でもあれは完全に内部から攻撃していたぞ。
などなど、住民が外でガヤガヤと騒いでいた。
ただ、城の心配はしていたが国王の心配は一つもなかった。
と、それはどうでもいいか。
俺は正体がバレる前に早々に立ち去ることにした。
いろいろ面倒っぽいからな。
俺がそう思い、荷仕度していると下で朝食……いや、もう昼食か……を 食べ終わったチビ共が俺の部屋を覗いていた。
俺があいつらの視線に気づき振り返るとエイクが喋る。
「兄貴なにしてんだ?」
「敬語を使えと言ってるだろ」
俺は奴隷にあの力を使いエイクを苦しめる。痛みは強めの拳骨だ。
「いってぇ! ごめんなさい!」
「分かったならいい。後ろのチビ共も同じだ。俺はお前らの飼い主だ。敬意を示せ」
俺はそう言うと荷物が全部入ったアイテム袋を腰に下げ、部屋を出る。
チビ共は後ろをぞろぞろと歩いてきている。
下へと降り、主人にチビ共を預ける。
といってもほんの二、三分だがな。
俺は有無を言わせずチビ共を押し付けて訓練場(仮)へと行く。
俺は誰もいないことを確認して扉をくぐる。扉にはアヴァロンを見張りにつけている。万が一にでも見られないために。
訓練場の真ん中あたりにくると俺は早速腰のアイテム袋をとって『白金貨十枚』と念じる。ちなみに昨日のアヴァロンたちは白金貨に戻してあるので、これは多分そのときの白金貨だ。ついでに貴族を捕まえてるやつらも既に戻ってきている。全員白金貨に戻した。
「【ここにある白金貨十枚と引き換えに我が忠実なる聖騎士を召喚する。いでよ! アヴァロン!】」
薄暗い訓練場が眩い光に一瞬包まれる。すっかり慣れたな。
目の前に現れたアヴァロンが十体いることを確認して俺は話し始める。
「お前らにはこの国の経営を任せる。とりあえず潰れない程度にしろ。
あと、ギルドには金を回さなくていいぞ。その金でもっと国を潤せ。俺は政治に関して良く分からないからお前らの判断に任せる。だが、俺の不利益になるようなことをしたら即座に消すからな。
金を俺に渡すときは来い。念話とかで位置は分かるだろ。あと、忘れてたが捕まえた貴族共は使えるなら奴隷にして使え。使えないなら食費の無駄だ。城の外に放り出すか殺れ。以上だ、わかったら行け」
俺が一気にまくしたてるとアヴァロンたちはコクコクと頷き訓練場を出て行く。このとき一体だけ引き止める。
壊れた蝋人形のようにギギギとこちらを向くアヴァロン。
「大丈夫だ。とってくいやしない。お前の態度次第だがな」
そう言ってアヴァロンを俺についてこさせる。
俺は主人の元へ戻るとチビ共を引き取った。
チビ共を連れて外へ出る。
俺はチビ共に向き直り喋った。
「それじゃ、お前らとはここでお別れだ。
お前らはここで冒険者になれ。国がギルドに金を回さなくなって冒険者は散っていくだろう。
だからお前らが冒険者となり、近辺の魔物を狩れ。幸いここはギルドに金を回さないと対処出来ないほど魔物がでるっぽいぞ。毛皮とか取れ放題だ。
まあ、しばらくはアヴァロンに鍛えてもらえ。
ただ、あまりにも引き篭もってるようだったらアヴァロンにお前らを捨てて来いと命令するぞ。
以上だ。しっかり稼げよ」
俺は長々と説明をして踵を返す。
引きとめたアヴァロンにこいつらのことをまかせ、俺は宿の前に放置していた荷車へと乗り込む。
荷車を引くのは俺が最初に召喚したアヴァロンだ。
なんだかんだでずっと召喚しっぱなしだからか、いろんな感情を持ってきたように思う。
そう思うとアヴァロンはこちらを見て呆れたように肩を落とすと俺の後ろを指差した。
俺が振り向くとそこには行く気満々のエイクとプリルの姿があった。
俺は無言でエイクとプリルを猫のように首を掴んで荷車から降ろす。
レベルが上がってるからか、結構軽く感じた。
「さて、行くか」
「待ってくれよ兄貴!」
「待って! お兄ちゃん!」
エイクとプリルが後ろで喚く。
ったく、さっきの話を聞いていなかったのか?
「さっき言っただろ? ここで金稼げ」
「嫌だ! 俺は兄貴を守る!」
「わ、私もお兄ちゃんを守るの!」
なにを言っているんだこいつらは。
とりあえず俺は言うことだけ言う。
「俺はこれからこの国よりももっと強くて巨大な国を相手に戦う予定だ。それに比べたらお前らなんてどれほどちっぽけな存在か分かるな」
「分かったよ。なら尚更兄貴を守らなきゃ!」
「私ももっと強くなってお兄ちゃんを守る!」
ふむ、まあいいだろう。
自ら望んで死地へと赴こうとしているんだ。多少の戦力になったら喜んで命令しよう。
俺は、なら乗れ、と言うとアヴァロンに、行け、と命じた。
俺らはほんの二、三日世話になった宿を後にした。
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