第二話『ブライ召喚!』
優しい木漏れ日を体に受けて、ゆっくりと俺は目覚めた。
体を起こす。そよ風が頬を撫でる。
風で木々はざわざわと騒いている。
俺は周りを見渡した。
「うわ~、テンプレ通りに森の中かよ……まあ、魔物の巣窟の中よりましだな」
『その通りじゃ』
「うぉい!」
急に声が上から降ってきた。
俺は上を見上げるが木の葉とわずかな青空しか見えない。
『無駄じゃよ。わしは神様じゃからのぅ』
「いや、どういうことだよ……まあ、そんなのいいわ。で、説明してくれんだろ?」
『そうじゃそうじゃ。じゃあ、まずはおぬしにやった‘力’じゃな。おぬしがこっちに来る前に金貨を渡したじゃろ?』
俺はどこにしまったっけ? と体をペタペタと触る。
金貨はポケットに五枚全部入っていた。
俺はそれを手に持って上を見上げた。
『上にいないってさっき言ったなかりじゃろ……
まあ、いいわい。それはこの世界の通貨じゃ。銅貨一枚百円くらいかのぅ。そして銀貨は銅貨百枚分。金貨は銀貨百枚分。白金貨は金貨百枚分じゃ』
銀貨一万円。
金貨百万円。
白金貨……一億円?
ってとこだな。
結構多い金額に俺はちょっと安心した。
『それじゃ、本題の力についてじゃ。おぬしは金を引き換えに戦力を手に入れることが出来るのじゃ』
「…………よくわからん」
『まあ、やってみるのが早いじゃろ。金貨を一枚持って戦力が欲しいと念じてみろ』
掌に金貨を一枚置いて念じてみる。オラに戦力をわけてくれ~! ……違うか。
すると、脳内に言葉と指示が出た。え? あれでいいの?
まあ、いいや。え~、なになに。【金貨を前に投げ捨ててこの言葉を言え】
「え~っと……【ここに金貨一枚と引き換えに我が忠実なる騎士を召喚する。いでよ、ブライ!】」
俺は金貨をポイ捨てのように前に捨てて、脳内の言葉を口にした。
すると、金貨は一瞬強い光を放つ。光が消えると身の丈二mほどの西洋甲冑を着て身の丈より長い、斧を持った騎士が現れた。
俺は、おお! と驚いていると、
『それはおぬしが召喚できる一番安価な騎士じゃ。
白金貨一枚でそれより強いのが一体召喚出来る。
さらに白金貨百枚で最強の騎士を召喚できる』
へぇ~、百倍単位で更に強く出来るんだ。
騎士は直立不動でジッとたたずんでいる。
『騎士はおぬしの忠実な僕じゃどんな命令でも聞くぞ。例えドラゴンに特攻して死んでこいと言ってもな』
騎士には自我みたいなのはないのか? ってか中身はどうなっているんだ? それに強さはどうなんだ? 甲冑のせいで動きが鈍いとかしゃれにならん。
俺の心情を察したのか神様は続ける。
『安価な騎士と言っても一万キュールじゃぞ。戦闘力は保障する』
「金の単位はキュールなんだな。それと、戦闘力を神様が保障するとなればOKだ。で、俺にやってほしいことってなんだ?」
『話が早くて助かるのぅ。普通のやつならここまでにうろたえまくって全然話しが進まぬのにのぅ。では言うぞい。
簡単に言うと、この世界はパワーバランスがおかしくなっておる。そこでおぬしに世界を平定させて欲しいのじゃ。まあ、世界征服でもすればよい』
俺は考えることを放棄した。
なんだよ世界征服って。
しばらくして思考する余裕が出てくると神様に言い返した。
「パワーバランスが崩れるとどうなるんだ? てかどことどこのパワーバランスがおかしいんだ?」
『パワーバランスが崩れるとわしの仕事が増える。対立しとるのは魔界と人間界じゃ』
「……………………」
俺はここで選択肢がないことを思いだした。
俺死んだんだった。そんで生き返らしてもらってなんかスキルっぽいものをくれたんだ。
感謝なんてこれっぽっちもしてないけど、せっかく生き返ったんだ。楽しもうと思う。
俺はとりあえずいろいろ聞いて了承するとしようと思う。
「魔王と勇者みたいのもいるのか?」
あえて、仕事のことには触れないでおく。
『魔王はいるが、勇者はおらん。そんなの出して魔王倒されたらまた仕事が増える。そんなのたまったもんじゃないわい』
チッ、せっかく人が親切に仕事についてスルーしてやってんのによぅ。
とにかく俺が思いつく分は質問してみる。焦ってあんま質問浮かばないけど。
「この世界の特徴は?」
『おぬしの世界では‘しょうせつ’というのがあったな。あれの中で‘まほう’と呼ばれるものや‘すきる’と呼ばれるものがある世界じゃ』
おお、ということはここは剣と魔法のファンタジーってことか?!
俺も魔法とか使えるのかな? せっかくだから使いたい。
『おぬしは魔法を使えないぞい。向こうの世界では魔力をもたなんだからな』
神様がどこからか俺の顔を見てるのだろう。俺が目をキラキラさせていたら先に言われた。
くそ……まあいいわ。それより俺のこのスキルで軍隊でも作って俺tueeeeeeeeやれるだけマシだ。
たまになんの能力もなしで放り込まれるやつもあったからな。あれは周りがなんとかしてくれたけど俺だったら無理だ。人とは極力関わらないで生きてきたからな。
よし、あとは世界地図でももらえないか聞いてみるか。
「なあ、神様。世界地図ってない?」
『残念ながら無理じゃ』
そうか……神様でも無理なことがあるのか……
と肩を落とすととんでもない一言が飛び出してきた。
『世界地図なんて渡したら結構早く終わってしまうかもしれないしのぅ。わしがつまらん』
「……今つまらんって言った?」
『おっと聞こえておったか。じゃあ、言うとしようかの。ってわしの部屋で説明したじゃろうに。
もう一度言うぞい。これは世界のパワーバランスをわしの余計な手間をかけずに直すことと、わしの暇つぶしのを両立できる素晴らしい企画じゃ!』
……ドウイウコトデスカ?
少し情報を処理するのに時間を要した。
何を言っているのか完全に理解して怒り心頭になって口を開こうとすると、
『それじゃあ、頑張ってのぅ! わしはおぬしを見張っているからなにをたくらんでも無駄じゃぞ! ちなみに期限は十年じゃ! だいたいそれくらいで世界は滅亡する』
それだけ言って神様の気配はなくなった。
「おい……!」
俺は天へ手を伸ばしたまま固まった。
しばしの沈黙の後俺は口を開いた。
「とりあえず歩くか」
俺は騎士をもう二体召喚して歩き始めた。