第二十五話『またもあいつに会うとはな』
さて、そろそろ森も抜けるか。
そう思った時そいつは現れた。
「お久しぶりですね」
灰色のみずぼらしいローブを着て、フードを深くかぶる男が馬車を連れて現れた。いや、連れてというか馬に引かせて? なんていうんだろう。
まあ、それはいいとして、まさか本当にこいつとまた会うとは思わなかった。
俺は警戒しながらそいつに声をかける。
「ああ、久しぶりだな‘奴隷商’」
「おお、覚えていらっしゃいましたか。いやー、感激感激」
微塵もそんな気配は感じさせない声質でそう言う。
そこで、奴隷商はスーラたちを見て、お? と声を出した。深くかぶったフードのせいで表情は見えない。
「それは、まさか精霊ですか?」
「そうだが? ちなみに全員俺と契約しているから譲らないぞ」
奴隷商は、滅相もございません、と言いながらも肩を少し落としていた。
いや、精霊を譲っても認めなければ意味ないだろ。
そう思ったものの口には出さず奴隷商を見る。
奴隷商は俺の視線に気づいたのか、おっとすいません、と言った。
「たまたま会っただけなのに足を止めてしまって申し訳ございません。お詫びと言ってはなんですが奴隷を半額ほどで売りますが?」
「いらん。怪しいだろ」
俺は奴隷商のお詫びをズバッと斬り捨てた。
いやいや、本当に怪しいだろ。なんでたまたま会っただけで奴隷を半額で買えるんだよ。
俺はチラリと右肩に乗るスーラを見た。
スーラは怪訝な顔をして奴隷商を睨みつけている。そのただの精霊の姿で睨んでも可愛いだけなのだが。
奴隷商は、そりゃそうですな、などとぬかした。
「それでは私は失礼させてもらいます。止めてしまって申し訳ございません」
そう言うと奴隷商は俺らが来た方向へと馬車を進める。
こいつは精霊の湖に行こうとしているのか?
正直道なりに行くならなんの問題もない。
だが、こいつからは嫌な感じが今までで一番多く感じられる。
奴隷商の馬車が横を通ろうとしたとき、俺は一応釘を刺しておく。
「この先のとあるところに俺の唾がついた場所がある。そこには手を出すな」
「そうですか。そんなところが……いや、手を出すつもりなど毛頭ありませんよ」
それを聞くと俺も歩きだした。
こんなやつからは早く遠ざかりたい。あいつが俺に向ける嫌な感じの強さが半端じゃない。
と、俺がそさくさとその場を離れようとしたとき奴隷商が、あ、そうだそうだ、と言いおそらくこちらを向いた。声の向きがこちらに来たからだ。
「そういえば奴隷にした人たちがいませんね。どうしました?」
声質も口調も変わっていない。でも、そいつはなにかを知っているようだった。
俺は足を止め、振り返らず答える。
「子供以外盗賊に襲われ死んだ」
「ああ、それはお気の毒に。まだ使った金の分働いていないでしょうに。大損害ですね」
男はわざと哀れむような声を出してそう言う。
チッ、こいつなにか知っているんじゃないのか? もしかしたら黒幕かもしれない。
俺はアヴァロンに指示を出そうとしたが止めた。指示を出そうとした瞬間凄まじいまでの殺気が俺にぶつかった。思わず倒れそうになるほどの。
奴隷商はさきほどまでとなんら変わらず続ける。
「でも、子供はまだ生きているんですよね? よかったですね。子供はなんでも覚えるのが早く、いろんな可能性があるのですよ。で、その子供たちはどうしたのですか?」
「……王国だ」
俺はほんの少し考えた後王国、とだけ答えた。
宿を言うほど馬鹿じゃない。でも、王国と言うのもためらわれた。
しかし、この付近である町と言えば王国の城下町しかないし、誤魔化せる気がしないのでそう答えた。
奴隷商は、ほほ~、と言うと喋り始めた。
「そうですか。そこは信用できる店なんですか? そうじゃないなら危険ですね。王国は今戦争を起こすために奴隷を集めています。もしその宿の主人にばれでもしたら突き出されるかもしれませんよ? なんせ奴隷を差し出せば大金がもらえるんですから」
奴隷商はそう言うと、これ以上は本当に申し訳ないのでもう行きますね、と言って馬車を進めた。
俺は馬車の音が遠ざかるのを確認して再び歩き始める。
今度はかなりの早歩きだ。精霊たちも慌ててついて来る。
「どうしたの? そんなに険しい表情して」
スーラが俺を覗き込みながらそう言う。
俺そんな表情をしていたか? まあ、いい。
俺は軽くスーラの頭を撫でて口を開く。
「ああ、早くドラゴンの売り上げを見たいからな」
俺はそう言うと首だけ後ろを向き、少し遅れているブライに叱咤する。
「おい! 早く来い! なんなら護衛のブライも手伝え!」
ブライたちは、ラジャー、とでも言うように敬礼をしてドラゴンを運ぶ。
ちなみにドラゴンは胴体に一五体、頭に五体である。なかなか重そうだ。
だが、ブライの数を増やしたことで俺の早歩きにもついてこれるようになった。
俺は周りの情景など気にもせずに、ただ一心不乱に王国を目指した。
俺は今ギルドの前にいる。
日はすでに暮れ、町は闇と化している。
今日は店から漏れる光もほとんどなく、わずかに出ていた月の光に頼って歩いていた。
帰ってきたとき門で兵士にドラゴンを見られ大変驚かれたが強気な姿勢で、通せ、と言うとあっさり通れた。
そして、そのドラゴンは町中誰にも見られずにここまで運んできた。窓から見られてないのならば誰にも見られていない。
そう、町中には不自然なほどに人っ子一人いなかったのだ。
不気味に思ったが、そんなことかまっていられる余裕がなかったためすぐさまギルドへと向かったのだ。
俺はアヴァロンだけ連れてギルドの扉を思いっきり開ける。
バン! っと扉が壊れるかと思うほどの音が響き中の様子が露になる。
やはり光があり、目がチカチカするが直に慣れてきた。
俺はギルドの中がいつもと違い、重苦しい雰囲気に包まれていることを気にせずカウンターへと向かう。
そこにはいつもと同じロリ巨乳の受付がいた。
「おい、外に素材が置いてある。十分待ってやる。換算して金を寄越せ」
俺は手短にそう言う。
受付はなんのことか分からずボケーっと突っ立っている。
俺はイラついてドン、とそこそこ強くカウンターを叩く。
受付はハッとして口を開く。
「しょ、少々お待ちください!」
そう言うと脱兎のごとく奥へと飛んで行った。
なにを言うつもりかしらないが俺は知らん。すでに俺の中でカウントダウンは行っている。
俺は近くにあった椅子に座る。
そこでギルド内が不穏な空気に包まれていることに気がつく。
と、席を立って外に出ようとする冒険者が現れた。
俺は扉に向かう冒険者を止める。
「外に出るな。命が欲しければな」
俺の言葉にピクッと反応して歩みを止める。
外にはドラゴンを置いてある。ブライたちがいるが、あまり見られたくはない。
外へ出ようとした冒険者はこちらを向く。
「おい、冒険者なりたてのやつが何を言っているんだ? あまりイキってるとランクBの俺が……っ!」
「ランクBが……どうした?」
俺は指でアヴァロンに指示を出した。
アヴァロンはすぐさま動き、一瞬で冒険者の首元に槍の切っ先を突きつけていた。
槍の先がわずかに刺さっていて赤い液体がポタリと落ちる。
冒険者はこちらを忌々しげに睨み、すごすごと席へついた。
俺はこの間も時間を数えていた。
そして、二分を過ぎようとしていたとき中にいた冒険者約二十名が席を立つ。こいつら馬鹿か?
その中で一際ガタイが良くつるっぱげで、いかにも冒険者というなりの男が叫ぶ。
「おい! 俺らは全員で外に出る! ここにはランクBが数人、ランクCは十人以上いる! 抵抗するならそのゴーレムごとお前を押さえつけて行く!」
男がそう叫ぶと冒険者たちは扉へとゆっくり向かう。行くならさっさと行けよ。
わざわざ時間をくれたのだからアヴァロンにブライを呼ばせる。
う~ん、これだけなら七体くらいかな?
俺が指を七本立てるとアヴァロンはコクっと頷いた。
次の瞬間扉が勢い良く、だがどこかにぶつけて大きな音を出さずに開いた。
そしてぞくぞくと入ってくる鎧騎士の軍団。
冒険者たちは俺を一瞥すると各々の武器を抜いた。
そうか、応戦するのか。
だが、殺すのはまずい。さすがにそれを考えるほどには冷静であった。あ、ちょうど五分経過した。だが、一向に奥から人が出てくる気配はない。
そして俺が余所見をしていること三十秒ほど、その間ずっと金属同士がぶつかり合う音が聞こえていた。
俺は視線を戻すと床に這い蹲る約二十名の冒険者たちの姿。
はぁ。
俺はため息をつく。
と、ようやく受付が奥から戻ってきた。
そして今この光景に絶句している。
「大丈夫だ。全員軽症しか負わせていない。そもそもこいつらから襲い掛かってきた。これは仕方がない」
俺がそう言うと受付はゴクリと喉を鳴らし、俺をまっすぐ見る。
「分かりました。では、早速素材を見せてもらいます」
「いいが、もう残り時間は四分だぞ。早くしろ」
俺がそう言うと受付は慌ててカウンターから出てきた。
俺は扉の前で待つ。
受付が来たところで扉を開ける。親切にもアヴァロンは素材が見えるよう光魔法の【ライト】を使っている。
ドラゴンの頭と体が光に照らされる。あの真紅に染まっていた鱗はところどころ剥がれ落ち、見るも無残な姿となっていた。
扉から出てきた受付はドラゴンを見てまた絶句した。
ほどなくして受付はかろうじて口を開いた。
「なん、で……下位竜の『ワイバーン』が……?」
「拾った」
「な?!」
受付が質問してきたから答えたのになんだその表情は?
しばらく受付は顎に手を添え、考えていたがすぐに素材の鑑定に入った。
ああ、それでいい。もう時間も三分しか残ってないしな。
俺は鑑定する受付を見て、焦る気持ちを落ち着けた。
感想・アドバイスお待ちしておりますm(_ _)m




