第十七話『チビ共が甘えん坊な件』
俺はギルドを出て、しばらく早足で宿への道を歩く。
宿が見えて、後ろを確認してから俺は歩みを緩める。追っ手とかはないようだ。
小説では、こういうとき新参者に世の中の厳しさを教える、とか言って袋叩きにしてくるやつがいたからな。返り討ちに出来るが面倒事は避けたい。
とりあえず、宿も見えたことでホッとしたまま俺は宿屋の扉を開けた。
「ぅあ…………」
急な明るさで俺は小さく呻く。
外は月の光が弱く、一寸先も闇状態だったため急な明るさに驚いたのだ。どうやって帰ったのか? 夜でも見えるアヴァロンに掴まって歩いていたのだよ。
徐々に目が光りに慣れていき、宿屋の中が見えてくる。
主人はカウンターの奥でなにかやっている。
と思ったら美味しそうな匂いが漂ってきた。
俺はなんとなく主人の下へと歩み寄って行った。
「お、いい匂いがすると思ったら主人が料理してたのか。柄にもなく」
「柄にもなくてすまねぇな! あ、そういえばガキたちはもう部屋に行ったぞ。それにしてもいい子たちだな。お店の手伝いするからお小遣い頂戴、だってよ。可愛くてちょっと多めに渡しちまったぜ」
主人は普段着のまま料理をしながら、ガハハ! と大声で笑った。
そうか、すっかり忘れてたがちゃんと日が落ちるまでに帰ってたのか。
俺は、はしゃぎすぎて時間を忘れて、俺より後に帰ってくると思ったがな。
ギュルル~
「おう! 腹が減ったか。ちょっとまっとれ。後少しで出来上がるからよ!」
「ああ、あんがとな」
朝夕ご飯付きなので飯が出てくるのは当たり前なのだが(遅くてもいいと言ってたし)日本人だからか、反射的にお礼の言葉が出てきた。
…………人を何人も殺してきて今更なにが日本人だ。全く。
「ほらよ! できたぜ! 冷めねえうちに食べちまいな!」
主人が豪快に笑い、飯を俺の座っていた机に置いた。
俺は少し気持ちが落ち込みながら食べ物を口にした。
日本人…………ねぇ…………
飯を食べ終えた俺は二階の自分の部屋へと向かった。
食べていたときに一階の光りについて聞いたら、主人の魔法だそうだ。
基本的に火を使うが、昔魔術師で冒険者をやっていた主人は魔力もなかなかあるので光魔法で蝋燭代などを節約しているそうだ。
そのため二階は一階と違って真っ暗だった。
俺はほぼ手探り状態で部屋まできて扉を開けた。宿の中なのでアヴァロンは俺の後ろについてきている。
部屋の中は廊下と同じく真っ暗で、スースーと寝息が聞こえる。
そうか、俺入れて八人だから一人は俺と同じへ屋で寝ることになるのか。体裁上奴隷と寝るのはダメなのだろうか? まあ、そんなの気にしてたらキリがない。
寝ているやつは手前のベッドに寝ていたので俺は奥のベッドに向かう。と、その時。
がちゃ
「うぉお!」
俺が奥のベッドに行くために狭い通路を通ろうとしたら前から鎧の音がしてびびった。
微妙に見えるシルエットからこいつはブライだと分かる。そうか、こいつらはちゃんとみんなを護衛していたんだな。
「お疲れ。このまま続けろ。俺は寝るが、夜襲がきたりしたらすぐに起こせ。あと、俺と子供は命に代えても守れ」
そう命令して俺はベッドに腰掛けるが、心配性な俺はずっとついてきていたアヴァロンにも、俺を守れと命令しておいた。
そして俺はひそかに、冒険者という架空の職業につけた喜びと、これから起きるであろう出来事を想像して笑いながら意識を手放した。
朝日がちょうど俺のベッドをまるまる照らす。
俺は起きようと上半身に力をいれる。が、なぜか体が動かない。寝起きだからか、あまり手足の感覚もない。
え? これまさかの金縛り? いや、ここは異世界だ。幽霊なんて可愛いものじゃないかもしれない。
なぜか不安になりながら俺はゆっくりと目を開ける。
と同時に体の感覚が戻ってきた。手を握ってみる。……普通に動くな。
そこで俺は上半身を起こそうとして体が重いことに気づいた。
俺は首だけを持ち上げて俺の体を見てみた。
「はぁ、やっぱりか。まだチビってことか」
俺の体に他の部屋にいたはずのチビ共が全員いたのだ。
こんな狭い空間なのに、小さいからか全員おさまっている。
二人は俺の腕に掴まるように両隣に寝転び、俺の足元には一人丸まり、俺の体の上には横向きに四人が寝そべっていた。
はぁ、と俺はもう一度ため息をついて力を抜いた。
そして俺はチビ共を起こすために声を出す。
「おい、チビ共起きろ。もう日は昇っているんだ。早くしろ」
俺は起こすようにいつもより多少大きな声でチビ共に言う。
何人かむっくりと起き上がり寝ぼけ眼で俺を見る。
「おはようございますぅ……おトイレ行きたいですぅ……」
これはプリルか? 短めのブラウン色の髪をボサボサにして寝ぼけたまま俺に馬乗りになっている。
「勝手に行け。あとほかのやつらを叩き起こせ」
俺がそう言うと扉がバン! と勢い欲開き、主人が部屋に入ってきた。
ちっとは優しく出来ないのか? 扉が壊れるぞ。
と思っていたら主人はガハハ! と豪快に笑った。どうした?
「お前ガキ共に好かれてやがるな! しっかり大事にしてやれよ。いくら奴隷だからって無下に扱うと酷い目見るぜ」
「……! なんでそれを知っている」
俺は奴隷であることがばれ、一瞬驚いたがすぐに主人を睨みつけ問う。
主人は、誤解しないでくれ、とでも言うように手を振った。
「それはこいつらが喋ってくれたのよ。ま、今日ガキ共が酷い扱い受けてたり、酷いことされてたら俺がお前を殴り飛ばして解放してやろうと思ったが……全く逆だったな。杞憂でよかった!」
いろいろ言うだけいうと、ガハハ! と笑いながら部屋を出て行った。
俺はしばしの間呆気にとられていた。
と不意に服の裾をクイっと引っ張られた。
「……トイレ行きたい」
「あ、ああ。今回はついていってやるが次は自分で行けよ」
そう言うとプリルはコクリと頷いてベッドを降りた。
う~ん、いろいろ言いたいことがあるがお漏らしでもされたらたまらんのでプリルをトイレへと連れて行く。
トイレが終わり、部屋に戻ると全員起きていた。まだ少し眠そうだがまあ直に覚めるだろう。
俺は部屋に入り、チビ共の前に立つと口を開いた。
「さて、お前ら自分の部屋はどうした?」
「? どうしたって?」
狼風の少年、エイクが首をかしげる。自慢の銀色の髪は寝癖でボサボサだ。
首をかしげたのはエイクだけでなくみんなそうだった。全く、チビ共だからもっと説明してやる必要があるか。
「なんでお前らは自分の部屋じゃなくて俺の部屋で寝ていたんだ?」
「……だって、怖かったんだもん……」
緑色の髪と瞳をした、ふっくらした少女、アリーは俯きがちになってそう言った。
俺は、はぁとため息をついて喋る。
「あのなぁ、お前らには強力な護衛がいるだろ? 金貨一枚、つまり一万キュールもするブライだぞ。そんじょそこらのやつじゃ引けをとらねぇよ」
もしそこらへんの冒険者に負けるようじゃ神様にクレームだな。
まあ、昨日つかんできた男くらいだったら少しはやりそうだが。
と、チビ共を見るとなにか言いたそうにもじもじしている。
俺はだんだんイライラしてきて少し怒気が混ざった声で言った。
「言いたいことがあるなら言え。そうやってもじもじしてるのが一番腹が立つ」
チビ共はビクッとしてそれから意を決したように口を開いた。
「今までお母さんたちと一緒に寝てたから……私たちだけで、寝ることなんて、ながったがらぁ、ごわくなっでぇ……」
途中から泣き初めてとうとうえーんと泣き崩れてしまったアリー。
チッ、うるさいな。こんな甘ちゃんばかりだったか?
俺はずっと同じ無表情で言う。
「うるさい。泣き止め。なんで泣く。そう簡単に泣くなお前ら。怖いからお前ら全員俺のベッドに入ってきたのか? お前ら最近自分の立場忘れてるんじゃねぇか?」
チビ共は、うっ、と泣くのを我慢して首を横に振る。
「まあ、いい。それで、俺のベッドに入る件だ。正直別にいいぞ」
俺がそう言うとチビ共は完全に泣き止んで顔が少し緩む。
そこで俺は「ただし」と続ける。チビ共は、なに? とでも言うように首をかしげる。
「もし俺が夜帰ってこなかったら? 仕事で夜帰ってこなかったら? お前らは怖くて寝れずにその日の夜を過ごすのか?」
チビ共は静かに俺の話を聞いている。
俺は少しためてから話し始める。
「それで寝不足のまま次の日の仕事をやれるのか? やれるならなにも言わないが、やれないなら切り捨てる」
切り捨てる、と言う言葉にかなり反応した。
まあ、俺のことだし魔物の森に捨てられる、とか思ってるのだろう。あ、いいなそれ。
チビ共が怯えたところでまた話し始める。
「だからお前らは一人でも寝れるようになれ。あと、一人で木の上や狭い穴の中とかどこでも寝れるようにならないと仕事に連れていけないからな」
チビ共は泣きそうになっていたが、コクッと頷くと俺を正面から見ていた。ちゃんと聞いていたようだな。
俺はいつの間にか少し前かがみだった体を起こし、チビ共を立たせた。
「それじゃ、少し遅いが朝食を食べるぞ」
俺がそういうとチビ共は「「「うん!」」」と言ってさっきまでの泣きっ面が嘘のようになくなって満面の笑みを浮かべていた。
……演技だったらお仕置きが必要だな。
そんなことを考えながら下へと降りて行った。
なんか主人公のキャラがちぐはぐな感じが…………




