第一話『あ、神様だ』
「……あ~、頭いてぇ……」
俺はゆっくりと上体を起こす。
痛い頭を片手で抑えながら周りを見る。
前面真っ白でどこまでも続いているような錯覚に陥る。実際ずっと続いているのかもしれないが。
もちろん下までもが真っ白なので落ちているのでは? と驚いたがそんなことはなかった。下をペタペタと触ると床らしきものがあったので大丈夫だろう。
「ここどこだよ……」
「お目覚めかな?」
「うぉい!」
びっくりした~!
いきなり目の前に老人が現れてニコリと微笑む。
つるっぱげだけど髭はたくさん蓄えてあり、先っぽのほうで結んであった。優しいおじいちゃんのような笑みを浮かべ、まるで山奥にいる仙人のようだった。
服も確か白装束とかいうものを着ていて、まるっきり仙人だ。
「よし、手短に話すぞい。おぬしわしの世界で世界征服してこい」
「…………は?」
うん、当たり前の反応である。
急に出てきて世界征服をしろ?
「…………頭イカれてるんじゃね?」
「なにを言う貴様! これでもわしは神様じゃぞ!」
自分でこれでもとか言うなよ。てか自分でも気づいてたんだ、神様っぽい感じじゃないって。
神様(自称)は話し始めた。
「わしの世界が滅亡しそうなんじゃ。だから世界征服して救ってくれ。てか救え」
「なぜに命令?!」
思わず神様(自称)に突っ込んでしまった。
あ~、神様に突っ込むなんてなんて命知らずなんだ~(棒読み)
さて、冗談もほどほどにしとくか。こいつが本当に神様なら俺なんてちょちょいと消されるしな。
俺は真面目になって神様に聞いてみる。
「はい、条件次第で受けますよ」
「うぬ、よくいった。ここで受けないとはっきり言われたらおぬしをまた消さなければいけなかったからのぅ。後味が悪いし面倒なんでよかったわい」
やっぱり消すことは出来たんだな。セーフ!
さて、なにを条件としようかな。
「まず、一つは俺に世界征服が出来るほどの力をくれ」
「それはすでに決まっているわい。何の力もないおぬしを送ってもなんにもならんわ」
おおそうかい。異世界は重力が弱くなってたり、異世界の人の腕力が異常に弱かったりして俺無双は出来ないのか。
少し残念だが、次いこう。
「じゃあ、二つ目な。俺が世界征服をした暁にはなんか褒美頂戴」
「それも考えておったわい。さすがに元の世界に返すことは出来んがの。あっちでは死んだことになっておるし」
え? じゃあ、ここにいる俺は一体……?
俺が少しうろたえると神様が教えてくれた。
「今のおぬしは所謂クローンじゃ。脳をコピーしてそれを元に体も復元したのじゃ」
なるほど。なんとなく分かった気がする。
でも、これ本体じゃないんだなよな~……
俺は自分の体をジロジロと見ている。
「え~、それで他にはないのか?」
「あ、そうだ」
俺は慌てて顔を上げる。
「金をくれ」
「無理じゃ」
え~! あんた神様だろ!
と思ったが、こんな神様だ。やれないこともあるだろう。
そう思っていたが、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「そんなことしたら面白くなくなるしのぅ」
「ん? 面白く?」
思わず聞き返す。
金を渡したら面白くなくなるってことは別に渡せないでもないってことか。
「そうじゃ。この際だからいうがの、今回の企画は世界の救出とわしの暇つぶしを兼ねておるのじゃ。だからあえて最強の状態では送り出さん。そんなの面白くもなんともないじゃろ? ただの作業になりそうじゃし」
「そんな理由かよ!」
っこの神め! それで死んだらどうしてくれんだ! 二度も死にたかねぇぞ!
俺が怒鳴ろうと意気込んだ瞬間。
「それじゃ、頑張っての!」
「ちょ! おいこら待てや!」
神は不意に右手を上げなにかを唱え始めた。
俺は焦ってそれを止めにかかる。が、なにかに阻まれて近づけない。
と、神は言葉を止めた。
「おっと忘れるところじゃった。ほれ」
そう神が言うと飴玉と金貨らしきものを投げよこした。
俺はそれを取り落としそうになりながらも全部キャッチした。
「その飴玉はわしがおぬしに授ける力が入っておる。じっくり舐めておれば体に馴染んでくる。噛み砕いたりすると体に負担がかかるぞい」
こいつ! 力を授けるのも忘れて、俺を丸腰で異世界に送り込もうとしてたんか!
俺は怒り心頭になり、飴玉を乱暴に口に放り込んだ。
「っおえ」
喉チンコに直接当たって吐き出した。
「アホか、おぬし……」
神は呆れて可哀想な子を見る目でこっちを見てくる。止めろ! そんな目でこっちを見るな! 新しいなにかに目覚めそうだ……
「まあ、いいわい。そんでその金貨は送り込む世界の通貨じゃ。あとおぬしの力に大いに関係するから大事に持っておれ」
それを聞いて俺はギュッと金貨を握り締める。
なんだ? 金が俺の力に関係あるのか?
なんて考えている間に神は右手を降ろした。
「それじゃ、今度こそ送り込むからのぅ」
そう言う神の姿が白く染まっていく。
おそらく俺はなにか白いものに包まれているのだろう。
完全に神の姿が見えなくなると俺の意識も糸がちぎれたかのようにプツンと切れた。