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第一話

 目覚める。

 意識が覚醒していくにつれ、閻魔様とのやり取りが脳裏に蘇ってくる。どうやらとりあえずは無事に転生できたらしい。

 周囲を見渡すに、どうやら丘の上にいるようだ。近くには川も流れており、野外生活を送るとすればなかなか悪くない立地である。


 体を動かしてみるに、多少の違和感を覚えるものの、成人の体であって赤ん坊になってしまった、ということは無い。

 「転生」というにはいささか奇妙な状態ではあるが、これは閻魔様に頼んだ加護の一つだ。滅びに瀕した世界において、時間は貴重品だ。いちいち赤ん坊からやり直している余裕は無い。それに運悪く赤ん坊のときに魔物に襲われたりすればさすがに生き残るのは難しいだろう。そのため、この世界にはいきなり成人の体として「転生」するように取りはからってもらった。

 本来の輪廻転生システムからすればあまり望ましくないことらしいが、理由が正当だったので特例措置として認めてもらっている。


 俺が閻魔様に頼んだ加護は6つ。

「成人の体」の他に、

「魔法」「科学知識」「生産能力」「無敵の肉体」「異世界言語」を

もらっている。

 それらがきちんと機能しているか、一つ一つ確認していくことにする。


 まずは魔法について確認しよう。

『水』

 目の前に水塊が出現し、落下して、地面を濡らす。

「ああそうか。こうなってしまうか。だったら」

『コップ』

 目の前にコップが出現する。そして再び

『水』

 と唱える。今度は水がコップの中に出現する。のどが乾いていたのでその場で頂くことにする。


 この世界は「剣と魔法のファンタジー」だ。従って魔法は当たり前に存在する。

 では、魔法とは何か?

 「魔法」と一口に言っても、世界群全体で言えば千差万別多種多様ではあるが、この世界における魔法とは簡単に言えば「魔力を消費して呪文を唱えることで超常現象を引き起こすこと」である。魔法語と呼ばれる特殊な言語で発言することで、実際にその発言を現実化してしまうである。例えば魔法語で『水』と言えば本当に水が出現するし、『空を飛ぶ』と言えば本当に空を飛べる。

 聞けば相当に万能な力に思えるだろう。とはいえさすがに本当になんでもできるわけではなく、制約や難点も存在する。

 一つは「言語」。例えば魔法語で『水』をなんと言うかを知らなければ、水は絶対に出せない。

 一つは「言葉の通りにしかならない」こと。先ほどのように『水』と言った場合、「水だけが出現する」。水が飲みたいのであれば容器も作らなければならない。

 最後の一つは「魔力」。引き起こす現象の規模や威力等に応じて、「魔力」と呼ばれる物が消費される。使いたい魔法に必要とされる魔力を用意できなければ、その魔法は使用できないわけだ。例えば「死者蘇生」という魔法語は発見されているものの、必要とされる魔力が莫大であるために実行はほぼ不可能とされている。


 裏返せば、「魔法語の知識があること」「言葉の選択に気をつけること」「魔

力が潤沢にある事」これらを満たせば、魔法はほぼ万能の力として運用できる。

故に俺は「無限な魔力(正確には魔力の生産能力)」と、「あらゆる魔法語の知

識」を閻魔様に求めた。(言葉の選択については、自分自身で努力するしかない)

 「無限の魔力」というのは人体に有害であるため、満額回答とはいかなかった

が、それでも「莫大な魔力」と「魔法語の知識」は与えてもらっている。先ほど魔法を簡単に使用できたのはこのお陰である。


 この世界で魔力を生み出せるのは生きた人間だけである。従って魔力を保有する生き物も人間だけであり、魔法を使えるのも人間だけだ。いや、人間だけ『だった』。

 上記のように不便な点もあるものの、魔法の恩恵は絶大だ。魔法の力を手に入れた人類は、大いに繁栄し、幸せに暮らしていたのである。魔法ばかりが発展し、科学に相当するものは未発達ではあるものの、総合的な文明レベルは俺の前世の科学文明にひけをとらない。あるいは科学文明よりも発展していたと言えるかもしれない。飢え・老い・病気からも魔法の力で開放されているのだから。


 しかしそんな魔法文明に、ある日災厄が襲いかかる。

 「魔王」と呼ばれる存在が突如現れ、魔物を率いて人類を襲い始めたのである。

 「魔王」が何者で、何を目的としているかは不明だ。

 俺のこの世界の知識は閻魔様の受け売りであり、閻魔様は基本的にこの世界の死者から情報を入手している。死者たちの知識は莫大かつ有用であり、虚偽も挟まれない。そもそも、この世界が滅亡の危機に瀕していることも、死者の情報から明らかになったことである。しかし逆に言えば死者が知らないことはわからない。

 今のところ「魔王」の詳しい情報を入手した死者は存在しない故、魔王のこともよくわからないままである。とはいえ、魔王が何をしたかはわかっている。人間を殺して魔力を奪い、その魔力を用いて動植物の改造を行ったのである。

 結果生まれた改造生物こそが「魔物」だ。魔物は身体能力が強化されており、少なくとも人語を解する程度には知性も強化されている。(人間から奪った)魔力を与えられているために、魔法を使うこともできる。もっとも、自力で魔力を生産できないという点は変わらないため、魔法を使い続ければいずれ魔力は尽きてしまうが。おまけに無理な改造が祟って、生命を維持するだけでも定期的に魔法を使い続けなければならない。となると魔力を外部から補充しなければ生きる事もままならず、故に人間を襲ってさらに魔力を奪う、という構図である。

 まあこのように、生物としてみれば欠陥品としか言えない魔物だが、人間たちにしてみれば十分な脅威である。何しろ、人間を遥かに凌駕する強靭な肉体に、今までは人間の特権であったはずの魔法まで兼ね備えているのだから。


 それでも、人間たちはただ一方的に殺されていくだけの敗残者ではなかった。

 団結し、この災厄に立ち向かったのである。

 魔法戦闘のノウハウを蓄積し、一人では勝てない魔物も隊伍を組んで打ち倒した。

 戦闘の中で磨かれ、英雄と呼べる存在も現れてきた。たった一人で魔物の大群も打ち倒しうる強大な魔法使い。まさしく英雄と呼ぶにふさわしいだろう。無論、英雄とはいえ、保有する魔力は有限だ。孤軍奮闘であればいずれは魔力が尽きて戦えなくなる。しかしそれさえも人々は協力して乗り越えた。

 戦う力を持たない人々は、戦場に立てぬ変わりにせめてと、自らのもつ魔力を英雄や前線の兵士たちに分け与えたのである。

 英雄と、兵士と、無力な無数の人々の努力により、勝利とはいえないまでも防

衛線の構築・維持には成功し、それなりの安全を確保することはできた。

 事実として、魔物による直接的な被害だけならば、人類は滅びるというほどの

打撃は受けていないのである。

 しかしそれでもなお、魔物の出現は人類にとって致命的であった。たしかに人類は魔物と互角に戦えている。しかしそれは魔法を、魔力を湯水の如く消費しての善戦だ。戦争のために魔力を消費すれば、当然に民生に使える魔力は減る。そしてこの世界の文明は、生活のほぼ総てを魔力に依存しているのである。食料の生産さえ、農業等ではなく魔法に頼っているなかで、魔力の不足は致命的に響いた。

 魔物との戦いで負けずとも、食糧難をはじめとする物資・エネルギー不足で滅びかけている。それがこの世界の現状である。


 無論、この現状の直接的な原因は魔王と魔物である。

 故にこれらを滅ぼせば、人類と世界は救われる。そういう意味で、閻魔様のオーダーは間違ってはいない。

 しかしながら、俺としてはそもそも「魔法に頼り過ぎ」というのがこの惨状の根本的な原因の一つではないかと思う。例えば農業をやっていればここまでの食糧難にはならなかっただろう。鉄砲のような魔力に依存しない武器があれば、ここまで魔力を軍事にまわさなくても済んだだろう。従って、魔王退治とは別の個人的な目標として「魔力に依存しない科学技術を根付かせる」ことを定めている。そのために、閻魔様から科学技術の網羅的かつ詳細な知識をもらっている。試しに(近代的な)家の構造を引っ張りだそうとすると、すんなりと思い浮かべることができた。これが正しい知識であるかどうかは、後で検証することにしよう。


 また、物資不足を短期的に解決する手段として閻魔様から「生産能力」をもらっている。これは俺が詳しく知っている物であれば、生物・非生物を問わずなんでも作れるというチートな能力である。さすがに「無から有を生み出す」というほどの力ではないが、材料さえあれば魔力を消費することなく何でも作れる。元素変換もできるので、「石をパンに」なんてことも可能だ。前述の科学知識もあるので、その気になれば銃や戦車のような近代兵器を生産することも可能である。(もっとも、俺にしか作れないしメンテナンスもできないので、あくまで最終手段ではあるが)

 これについてもきちんと機能するか確認するために、そして科学知識の検証と合わせて(土を材料に)家を作ってみる。(それに野外生活よりは家の中に住みたいものである)

 結果は成功。とはいえ、コンセントはあるものの、電気は流れていない。まあこの世界には発電所も電線も無いのだから当然の結果ではある。

 とりあえず、発電機や電線も作成して家に接続しておく。冷蔵庫などの電化製品も作成して設置しておこう。


 「無敵の肉体」は、どんな攻撃も受け付けない頑丈な肉体をもらうものである。魔物の爪も牙も毒も魔法さえも俺の肉体を傷つけることはできない…はずである。いささかチキンとも思えるが、とはいえ俺は凡人であり戦闘の素人だ。いかに「魔法」という武器があるといっても、奇襲などで魔法を使用する前に殺されてしまえばそこまでである。それ以前に、戦場でパニックになる可能性とて十分ある。ならばたとえ全くの無防備であろうと、生き残れる能力が欲しい。それゆえの選択だ。試しに魔法で火を出して指先をあぶってみるが、多少熱いとは感じるものの苦痛は無いし火傷なども無い。とりあえず機能していると見ていいだろう。ちなみに無敵の肉体はあくまで頑丈なだけで、それ以外は普通だ。例えば怪力や俊足などの運動能力が超人的なわけではない。これはわざとそう選択したことである。繰り返すが戦闘の素人である以上、超人的な運動能力を持ったところで使いこなせないだろうし、下手するとそれで自滅しかねなかったからだ。


 「異世界言語」はこの世界で使用されている(魔法語ではない)言語の知識だ。この世界の人間とコミュニケーションを取れないのでは、文字通りお話にならない。とりあえず、日常会話を組み立てるくらいは問題なくできた。とはいえ、これが本当にきちんとした会話になっているかは、住人と話してみるまでわからない。後で確かめよう。


 とりあえず問題はなさそうである。

 特に「魔法」と「無敵の肉体」が機能しているのはありがたい。最悪、魔物と出会っても逃げ延びるくらいはできるだろう。

 安全は確保されたので、人里を見つけるために探索に出ることにする。

 魔法による移動には不慣れなので、とりあえずの足として自動車を生産する。周囲は草原で、舗装された道、というわけではないが、致命的な悪路というわけでもないのでなんとかなるだろう。

 最悪降りて歩けば済む話である。荷物らしい荷物は無いし、物資が必要になったらその場で生産してしまえばいいので気楽なものだ。

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